地下水位低下を受けた大阪沖積粘土の圧密降伏応力の

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D - 05
第40回地盤工学研究発表会
(函 館) 2 0 0 5 年 7 月
地下水位低下を受けた大阪沖積粘土の圧密降伏応力の深度分布
沖積粘土,圧密降伏応力,地下水位低下
大阪市立大学大学院 国 大島昭彦
大阪市立大学工学部 学 ○林 孝光 (現淺沼組)
1. まえがき
昭和 20 年代から 30 年代にかけて大阪地域では,地下水の過剰汲上げによる地盤沈下が生じた。その後,地下水汲上
げ規制が実施され,地下 水位の回復に伴って地 盤沈下は収束した。しか し,現在では沖積層, 洪積層ともに地下水位 が
過大に回復し (O.P.±0m 付近),既存の地中構造物の安定性を損ない,地下掘削工事の施工を著しく困難にするように な
り,さらに地震時の砂地 盤の液状化発生や地盤 汚染物質の拡散による水 質悪化などの問題も新 たに引き起こしている 。
これらの地下水位の高位化による諸問題は,大阪地域に限らず,東京都1) を含めて日本各地の都市域で共通している。
この問題を解決するため には,地下水位を適正 なレベルに下げる必要 があると考えられる。 しかし,地下水位を下 げ
ると再び地盤沈下するた め,過去の水位低下に よる圧密を受けた粘土層 の圧密降伏応力の深度 分布を明らかにして, 沈
下量を最小限に留める水位低下量を推定する必要がある。そこで本研究では,沖積粘土層(Ma13)を連続サンプリン グ
し,その圧密特性と圧密 降伏応力の深度分布を 詳細に求める。これと再 水位低下時の有効土被 り圧を与えた圧密計算 を
行い,沈下量を最小限に留める地下水位の再低下量を予測することが本研究の目的である。本報では大阪市内の 3 地 点
で連続サンプリングした沖積粘土層の物理特性と圧密特性の深度分布の詳細を紹介する。
2. 試料採取地点と実験内容
沖積粘土試料は,図-1 に示す此花区島屋 (標高 OP-0.51m,
大阪駅
GL-9.0∼-22.85m,
層厚 13.85m),
福島区福島 (標高 OP+0.70m,
淀川
GL-7.5∼-18.6m,層厚 11.1m),都島区網島 (標高 OP+3.00m,
網島
福島
GL-9.0∼-18.5m,層厚 9.5m)の 3 地点で連続サンプリングし
大阪城
た。島屋,福島は上 町台地より西の西大 阪沖積粘土が,網 島
は東大阪沖積粘土が 分布する地域に位置 する。採取した連 続
試料を用いて物理試験 (液性限界,塑性限界,自然含水比等),
段階載荷圧密試験,一軸圧縮試験を 40∼50cm ピッチで行い,
島屋
安治川
難波駅
物理特性,圧密特性の深度分布を求めた。
図-1 試料採取地点
3. 物理特性と圧密特性の深度分布
図-2∼4 にそれぞれ島屋,福島,網島沖積粘土の物理特性(図(1):液性限界 wL,塑性限界 wp ,自然含水比 wn )と圧密
特性(図(2):正規圧密域の圧密係数 cv ,圧縮指数 Cc,図(3):圧密降伏応力 p c,一軸圧縮強度 qu )の深度分布を示した。
図-2 の島屋沖積粘土の wL の分布は,西大阪沖積粘土の特徴である上下で低く,中央で高い弓形分布を示しており,そ
れが cv や Cc の分布にも反映されている。ただし,詳しく見るとそれらの細かい変化も見られ,堆積時の環境が微妙に変
化していたことが示唆される(特に深度 19.3m 付近の変化は,アカホヤ火山灰 (約 6,300 年前) の堆積と考えられる)
。p c
の分布は,有効土被り圧 p 0 に比べて上下で大きくなる弓形分布をしており,過去の地下水位低下による圧密進行の程度
と現在の過圧密状態 が把握できる(特に 下面の水位低下に よる圧密進行の程度 が大きい)
。qu の分 布からも qu /2 ×3≒ p c
と考えれば,同様な分布が見られる (上下で相対的に qu が低いのは塑性が低いためである,福島,網島も同様)。
図-3 の福島沖積粘土の wL,cv ,Cc の分布は,島屋沖積粘土と同様に西大阪沖積粘土の特徴がよく表れている。また,
それらの細かい変化も同 様に見られる。ただし ,島屋に比べて陸側に位 置するため,層厚が少 し薄く,全体に塑性が や
や低い (下端は急激にシルト質砂に変化している)。p c の分布もやはり弓形分布を示すが,島屋沖積粘土よりも全体に大き
い。これは,都市部に位置する福島では 比較的最近でも種々の地下工事に伴う 地下水汲上げを受けたためと推測され る
(例えば,JR 東西線工事では 1992 年∼1995 年にかけて下面の水位が 5m 前後低下したことが観測されている)。
図-4 の網島沖積粘土の物理特性は,島屋,福島沖積粘土に比べると全体に塑性が低く,かなり複雑に変化している (深
度 11.6m∼13.4m は粘土質砂を挟む)。ただし,層上部では wn > wL を示し,東大阪沖積粘土の特徴である超鋭敏性を示す
ことがわかる。やはり cv や Cc の分布にこの物理特性が反映され,かなり複雑に変化している。一方,p c の深度分布は物
理特性に比べれば単調な変化で,やはり弓形分布となっている。
3 地点の沖積粘土の下面の p c と p 0 の差は1 8∼22tf/m2 である。これから下面の第1洪積砂礫層(天満砂礫層)の過去の
水位低下量は 18∼2 2m と推測される (島屋近くで天満砂礫層の水位が OP-14m まで低下したことが観測されている)。
別報2) でこの結果を基に最小限の沈下量となる地下水位再低下量の予測結果を報告している。最後に,粘土試料採取に
便宜を図って頂いた藤原正明氏(計測技研),八谷誠氏(中央復建コンサルタンツ),中野道夫氏(京阪電鉄)に謝意を表する。
参考文献 1) 中村, 他:東京低地における地盤沈下履歴を受けた沖積層の圧密沈下解析, 第 39 回地盤工学研究発表会,No. 451, 2004.
2) 大島, 他:地下水位低下を受けた大阪沖積粘土の再水位低下による沈下量予測, 第 40 回地盤工学研究発表会(投稿中), 2005.
Depth distribution of consolidation yield stress of Osaka Holocene clay received dewatering,
Oshima Akihiko and Hayashi Takateru (Osaka City University)
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w (%)
20
8
40
60
80
100
120 101
102
シルト質砂
c v (cm2/d)
103
104
0
10
シルト質砂
(2) cv, Ccの深度分布
pc
qu
14
深度 (GL - m)
40
(3) pc, quの深度分布
wn
wL
wp
12
30
シルト質砂
(1) wL , wp, wnの深度分布
10
p c, qu (tf/m2)
20
cv
Cc
p=3.2
p=6.4
p=12.8
p=25.6
16
18
アカホヤ火山灰?
アカホヤ火山灰?
20
有効土被り圧p0
22
シルト質砂
シルト質砂
シルト質砂
24
0
0.5
1
Cc
1.5
図-2 島屋沖積粘土の物理特性と圧密特性の深度分布
w (%)
20
6
40
60
80
100
120 101
102
シルト質砂
8
103
104
0
10
シルト質砂
p c, qu (tf/m2)
20
30
40
シルト質砂
(3) pc, quの深度分布
(1) wL , wp, wnの深度分布
(2) cv, Ccの深度分布
wn
wL
wp
10
深度 (GL - m)
cv (cm2/d)
12
p=3.2
p=6.4
p=12.8
p=25.6
cv
14
pc
qu
Cc
16
有効土被り圧p 0
アカホヤ火山灰?
18
アカホヤ火山灰?
シルト質砂
シルト質砂
20
0
0.5
シルト質砂
1
Cc
1.5
図-3 福島沖積粘土の物理特性と圧密特性の深度分布
w (%)
20
8
30
40
50
70 101
60
102
cv (cm2/d)
103
104
0
10
シルト質砂
シルト質砂
30
40
シルト質砂
(2) cv, Ccの深度分布
10
p c, qu (tf/m2)
20
(3) pc, qu の深度分布
(1) w L, wp, wnの深度分布
深度 (GL - m)
12
粘土質砂
14
粘土質砂
Cc
wn
wL
wp
16
粘土質砂
pc
qu
cv
p=3.2
p=6.4
p=12.8
p=25.6
有効土被り圧p 0
18
粘土質粗砂
20
粘土質粗砂
粘土質粗砂
0
0.5
C
1
1.5
図-4 網島沖積粘土の物理特性と圧密特性の深度分布
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