沖縄の気候・風土を踏まえた日射対策の取組み

沖縄の気候・風土を踏まえた日射対策の取組み
庄司
1沖縄総合事務局
開発建設部
剛1・具志堅
営繕課
いづみ1
(〒900-0006 沖縄県那覇市おもろまち2-1-1)
沖縄総合事務局開発建設部営繕課では、沖縄らしい官庁施設の実現を目指して、「地域特性
を考慮した環境負荷低減」と「景観形成」を重点整備事項として、沖縄の気候・風土に適応す
る施設整備を進めている。
本論文では、いくつかある環境負荷低減手法の中から日射対策の取組み事例をピックアップ
して紹介する。留意点もあわせて抽出することで、今後の施設整備への活用も見据えた報告を
行う。
キーワード 沖縄らしさ,気候・風土,地域特性,環境負荷低減対策
1. はじめに
2. 沖縄の気候・風土と官庁施設
度々襲来し大きな被害をもたらす台風や、海(塩害)、
太陽(日射)の影響が大きい沖縄において、官庁施設に
求められる性能はより高度なものとなる。さらに、本土
と異なる環境下の官庁施設には、地域特性を踏まえた環
境負荷低減を行うことが求められる。
環境負荷低減に関しては、2015年に「建築物のエネル
ギー消費性能の向上に関する法律(以下、「建築物省エ
ネ法」という。)」が成立している。建築物省エネ法で
は、一定規模以上の建築物に対して、建築物のエネルギ
ー消費性能の向上のために、基準適合義務が課されてい
る。また、一定規模に満たない建築物ついても、「外
壁・窓等を通したの熱の損失の防止」を図ることが示さ
れている。一例では、窓からの日射を適切に制御する方
式等を採用することで、日射による熱負荷の低減に努め
るよう求めている。
官庁施設整備においては、省エネルギー・省資源の項
目のうち、負荷低減に関する技術的事項等を「官庁施設
の環境保全性基準(以下、「基準」という。)」で規定
している。この基準は、各府省庁統一基準であり、建築
物省エネ法施行以前に制定されている。基準では、日射
による外壁・開口部を通した熱負荷の低減に有効な例と
して、「窓からの日射を適切に制御する方式等の採用」
を技術的配慮事項に規定している。
本論文では、沖縄総合事務局開発建設部営繕課及び営
繕監督保全室(以下、「沖縄営繕」という。)で施設整
備を行った官庁施設の日射対策の取組み事例のいくつか
を紹介する。また、地域に溶け込む建物「景観形成」の
観点から、「沖縄らしさ」を表すファサード(建物の
顔)の構成要素を分析し、あわせて効果や留意点等を明
らかにする。
沖縄県は亜熱帯地域に位置しており、2)近海では黒潮
が流れ、暖かい海に囲まれている。そのため、一年を通
して温暖で年間の気温の差は小さく、四季の変化は明瞭
ではないという気候の特徴がある。また、気象庁のデー
タによれば、年間降水量は2,000mm 以上あり、日本の年
間平均降水量(約1,700mm)より雨の多い地域である。
図-1 日最大UVインデックス(推定値)の月別累年平均値
(出展:気象庁HP 各種データ・資料)
図-2 水平面日射量(月平均)
(出展:NEDO日射量データベースWeb版)
那覇市を例に挙げれば、紫外線が人体に及ぼす影響の
度合いを示したUVインデックス(UV指数)は、1997年
から2008年における月別累年平均値(図-1)では一年を
通じ中程度以上あり、日本の中でも強い地域である。ま
た、北回帰線から約3°の北緯26°40′に位置している
ことから南中高度も高く、図-2のように全天日射量も多
く一年を通じ日差しが強い地域といえる。
以上のような特徴をもつ沖縄において、気候・風土に
配慮した官庁施設を整備をすることは重要である。また、
気候・風土の特徴が沖縄らしいファサードの構成にもつ
ながっている。建物を外から見た時、大部分を占めるの
は外壁と開口部(窓)である。外壁と開口部でつくるフ
ァサードは景観の一部であり、地域性も考慮される。
沖縄営繕では、施設整備にあたり、1)『美ら島沖縄風
景づくりガイドライン』による「現代の沖縄風」の実現
を目指した「景観形成」を行うこととしている。
一方、整備する官庁施設の規模は様々であり、用途も
一般的な事務庁舎から試験研究施設まで多様である。さ
らに、庁舎の形態は複数の官署が入居する合同庁舎や、
一官署だけが入居する単独庁舎がある。また、昼間の利
用だけに限られる施設や、利用時間の定まらない施設な
どがある。よって、沖縄営繕ではそれぞれの施設の実情
を考慮した施設整備を行っている。
次の章からは、5つの庁舎を例にとり「日射対策」
「沖縄らしいファサード」「効果と留意点」の項目を挙
げて取組み事例を紹介する。
3. 事例① 庁舎A
(1) 日射対策
強い日差しを受ける西面は、開口率を下げるルーバー
(取付ピッチ1,050(一部525)、奥行450、高さ約3,900)、バル
コニー、庇により日射遮蔽効果と適度な通風を確保して
いる。
(2)沖縄らしいファサードの構成
本庁舎は、縦ルーバーと庇の組合せで、環境負荷低減
の機能的対応とファサードとしての設えが両立する「現
代の沖縄風」のデザインといえる。(写真-1、2)
(3)効果と留意点
【効果】
・日射遮蔽:奥行きのあるルーバー材の配置により効果
的に日差しを制御している。
・意匠性:既存庁舎とのつながりも考慮され、連続した
縦ルーバーが全体に調和した印象を与えている。
・耐塩害性:押出成形セメント板によるルーバーは、鉄
筋補強に頼らないため、耐塩害には有利な材料である。
また、固定金物も塩害を考慮し、腐食に強い素材を用
いている。
写真-1 外観1階
写真-2 2階庇側
【留意点】
縦ルーバーの取付ピッチは、火災時の非常用進入口等
に関する検討が必要である。本庁舎は、関係法令をクリ
アするため、ルーバー同士の間隔を最低1m開けるなど
の対応を行っている。また、増築庁舎の場合は、意匠や
配置など既存庁舎との関係性も考慮する必要がある。
4. 事例② 庁舎B
(1) 日射対策
庇とその先端にルーバー(取付ピッチ1,250、奥行600、
高さ約3,500)を採用することで日射遮蔽効果と適度な通
風を確保している。
(2)沖縄らしいファサードの構成
庁舎Aと同様に、庇と縦ルーバーでファサードを構成
している。庁舎周囲には日射を遮るものがなく、建物3
面に縦ルーバーを配したことで、より「現代の沖縄風」
のデザインといえる。(写真-3、写真-4)
(3)効果と留意点
【効果】
・日射遮蔽:庁舎Aと同じく、奥行きのあるルーバーの
配置により、効果的に日差しを制御している。
・意匠性:庁舎 の3方向について、バルコニーと縦ルー
バーを組合せ、機能と意匠を両立させている。
・耐塩害性:亜鉛メッキ鉄筋を採用し、従来品より塩害
のリスクを低減している。
【留意点】
縦ルーバーの取付ピッチは、庁舎Aと同様の検討が
必要である。縦ルーバーは現場打ちコンクリート製で
あるため塩害対策効果については今後も確認が必要で
ある。
写真-3 庇の状況
写真-4 縦ルーバー
表-1 南面(設計段階)
5. 事例③ 庁舎C
(1) 日射対策
庇の先端に花ブロック(写真-6)を設けることで、外
壁面への日射面積を減少させる手法を採用している。花
ブロックを設けた場合と、そうでない場合の夏至におけ
る比較検討を行った。設計段階の外壁面に対する日射面
積比率は表-1のとおりである。なお、施工段階で花ブロ
ックの意匠性と採光を考慮し、花ブロックの組合せを変
更している。実施した内容で比較すると表-2のとおりと
なる。施工段階ではさらに日射面積が減少したことで、
建物への蓄熱も抑えられている。
外壁面に対する日射面積比率
夏至
12:30
花ブロックなし
12%
花ブロックあり
1%
14:00
41%
13%
16:30
64%
19%
表-2 南面(施工段階)
外壁面に対する日射面積比率
夏至
花ブロックなし 花ブロックあり
12:30
12%
0.8%
14:00
41%
10%
16:30
64%
17%
6. 事例④ 庁舎D
写真-6 花ブロック外観
写真-7 空間状況
(2)沖縄らしいファサードの構成
沖縄の伝統的な民家に用いられる、長い軒下の空間
「雨はじ」を取り入れている。また、花ブロックは沖縄
の建築材を代表する建築用空洞コンクリートブロックで、
通気性や防犯性を兼ね揃えた「現代の沖縄風」建築ツー
ルのひとつである。建物外周に設けることにより、強烈
な日射を抑制しつつ、暴風雨等による飛来物から建物を
守ることが可能である。(写真-7)
(3)効果と留意点
【効果】
・日射遮蔽:夏至における外壁面に対する日射面積比率
は表-2のとおりである。
・意匠性:施工段階で意匠性を再検討し、写真-6のよう
な組合せとしている。
・耐塩害性:花ブロックに亜鉛メッキ鉄筋を採用し、従
来品より塩害のリスクを低減している。
【留意点】
花ブロックは、水平方向の外力に弱いという欠点があ
るため、構造計算を行って対策を講じている。通常より
も花ブロックを支える鉄筋を太くし、間隔も密にするこ
とで中程度の地震にも耐えられる強度を持たせている。
沖縄県は、建築基準法施行令第88条及び1980年建設省
告示1793号でも規定されているように、地震係数が小さ
い地域である。沖縄らしさを考えるうえでは、台風対策
だけでなく、地震に対しても十分考慮する必要がある。
(1) 日射対策
前面道路が東西軸から南北軸に対して反時計回りに
49.6°傾いていることを考慮し、建物位置が決定されて
いる。これにより、方位と太陽高度の関係を検討した結
果、水平庇を設けている。(図-4)
図-5のとおり開口部のガラスを熱線反射ガラスにするこ
とで四季の日射量の変化に対応している。
(2)沖縄らしいファサードの構成
・外壁材の材料は経済性・耐久性を考慮してタイル貼り
を基本としている
・玄関アプローチは、沖縄の伝統的な民家に用いるヒン
プンをイメージした琉球石灰岩の塀を設けている。
・花ブロックや植栽ブロックを用いて、地域性のある意
匠と素材を採用している
・建物の配置と太陽高度による検討によって、水平庇、
縦ルーバーを左右対称に配置している
(3)効果と留意点
【効果】
・日射遮蔽:南東面と北西面に連窓の窓を設けて採光を
図-3 外観
図-4 庇とガラスの構成
確保している。業務を開始する9時の時点で日射をカ
ットし、冬季は事務室の内部まで日射が届くよう庇の
大きさを設定している。
・意匠性:図-3のようなに意匠性を考慮して庇の出を設
定している。
8. まとめ
事例③ 庁舎Cでは、強烈な日差しや、台風による風
雨による飛来物を考慮したうえで景観性にも配慮し、花
ブロックが採用されている。また、環境負荷低減には窓
の日射遮蔽も有効であり、事例① 庁舎A、事例④ 庁
【留意点】
舎Dでは熱線反射ガラスを採用し、窓ガラスの種類の検
景観性を優先する場合は、どのような材料で庇を構成
討も行っている。
するか検討する。また、建物の位置を考慮した最適な庇
事例紹介した庁舎以外の沖縄営繕で施設整備した官庁
の出を検討する必要である。
施設でも適度な通風が可能な垂直・水平ルーバーが数多
く採用されている。このように壁・開口部を通した熱負
荷の低減が有効な手段であり、よい設計手法であるとい
7. 事例⑤ 庁舎E
える。ただ、建設時点の経済性(イニシャルコスト)が
(1) 日射対策
優先されると選定した材料・工法等により、環境負荷低
図-5のように水平ルーバとし日射侵入率が0%となる
減に対する効果には差異が生じると思われる。
ドロップ形と、日射侵入率が54%となる一般形を使用し、
また、環境負荷低減の要素は、景観形成にも大きく影
日射対策を行っている。 それぞれの使い分けは、事務
響している。日射遮蔽対策としての垂直・水平ルーバー
室等の窓のある部分は屋外への見通しを確保するため一
はファサードの重要な構成要素であることが多い。花ブ
般形を採用し、外壁面のみとなる部分はドロップ形を採
ロックや、沖縄の伝統的な民家に用いられる「雨はじ」
用している。
「ヒンプン」は、沖縄の気候・風土に根付いたものであ
り、「沖縄らしさ」につながっている。また、各市町村
(2)沖縄らしさとしてのファサードの構成
が策定している景観計画に沿って検討を重ねることで周
仕上げの素材や色は、既存庁舎との調和を図りながら、 辺環境との調和や良好な景観形成が図られている。
機能面を考慮し、水平アルミルーバーをファサードを用
以上のことから、環境負荷低減のための要素を景観性
いて「現代の沖縄風」を表現している。(写真-8)
の観点から両立させる必要がある。
(3)効果と留意点
【効果】
・意匠性:既存建物ともバランスをとり、仕上げの素材
や色を考慮したことで「現代の沖縄風」建物に仕上げ
ている。
・耐塩害性:アルミルーバーは、効果的である。
【留意点】
日射遮蔽対策について、図-5のとおりルーバーの日射
侵入率が54%となる一般形部分は、日射の四季の変化を
考慮した角度や間隔の検討が必要である。
ルーバー上部に庇を設けるなどの検討も必要である。
9. おわりに
沖縄営繕では広域に渡る離島を抱え、厳しい気象条件
の中で地域にふさわしい施設整備に取組んでいる。これ
からの官庁施設には、完成してから取り壊されるまでの
間、性能や機能を良好な状態に保つことが求められてい
る。建築物省エネ法では、建築物の新築・増築や大規模
修繕といった「つくるとき」「直すとき」以外に、今後
の窓の日射制御の状態を定期的に点検するなど、建築物
の状態を把握していくことも規定されている。
沖縄営繕では、維持保全が継続的に実施されるよう、
各施設ごとにデータを収集し、運用条件の把握を行うこ
とで「沖縄らしい」施設整備につながるノウハウとして、
まとめることが重要であると認識している。
参考文献
写真-8 沖縄らしさの構成
図-5
ルーバーの状況
1) :『美ら島沖縄風景づくりガイドライン』
http://www.dc.ogb.go.jp/kaiken/003040.html
2) :沖縄気象台:沖縄の気候変動監視レポート 2016
http://www.jma-net.go.jp/okinawa/kaiyo/report2016/report2016.htm
3) :気象庁 HP 各種データ・資料
http://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html
4) :新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)HP
http://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP2_100060.html