中国語で の同時通訳現場 に 潜入。特別展

月上旬、「台北 國立故宮博
物 院 ― 神 品 至 宝 ―」が行われ
来場した。
際シンポジウムは 月 日と 日
国
の 日間にわたって開催され、國立故
は長 蛇の列ができていた。 國 立 故 宮
宮博物 院副院 長による基 調講演に加
(
人。 また、
ーカーが 人、中国語スピーカーが
日目の最 後には総 合 討
人もの専 門 家が壇 上
ポジウムとして 開
記 念した国 際シン
めた。 その開 催を
大 森 喜 久 恵さん、江 草 裕 子さん、渋
回、聴衆の大半が日本人のため、
今
日 本 語 中 国 語の同 時 通 訳が付 き、
に上がり、意見を交わした。
論が行われ、
催 されたのが「 中
訳者が手配された。
谷 千 春さんの
名の中 国 語の会 議 通
国皇帝コレクション
意 味 を 解いていく
ンに注 目 して その
中国皇帝コレクショ
の研 究 者 を 招 き、
で 活 躍 す る 第一線
―」で あ る。 世 界
違 和 感なく 聞 くことができる。 参 加
ーズな同 時 通 訳で、中 国 語の発 表 も
想像がつく。 だが、会議通訳者のスム
訳者にとっては難易度の高い仕事だと
名や作 者 名が多 数 出てくるため、通
芸 術に関 する専 門 的な内 容で、作 品
場ではスクリーンに書画の写真も
会
大きく映し出される。 歴史ある文化・
者もレシーバーを手にし、研究者たち
もの。 当日は、中
国芸術や書画に関
の話に真剣に耳を傾けていた。
ける復 古 と革 新
の意 味 ― 書 画にお
は初めてということで大きな注目を集
うという 人たちだ。 日本で台 北
7
立 故 宮 博 物 院の展 覧 会が開かれるの
國
発表は9つあり、登壇者は日本語スピ
6
2
え、大きく つのセッションが行われた。
5
月 日までの限定公開)
を一目見よ
7
博 物 院 を 代 表 する名 品「 翠 玉 白 菜 」
ている東京・上野の東京国立博物館に
7
7
3
2
10
7
↕
通訳者の仕事の最高峰と言えば、国際会議の同時通訳。ブー
スに入り、登壇者の言葉をリアルタイムに聴衆に伝える同
時通訳は、高いスキルと豊富な経験が必要となる。 今回は、
東京・上野で行われた中国語での同時通訳現場の様子をレ
ポートしよう。
﹂
中国語での
同時通訳現場に
潜入。
特別展 「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」
開催記念国際シンポジウム
︱
﹁中国皇帝コレクションの意味
書画における復古と革新
2
心のある人が多 く
撮影/小久保陽一 取材協力/㈱サイマル・インターナショナル、東京国立博物館
15 『通訳・翻訳ジャーナル』AUTUMN 2014
︱
●【通訳現場】
特別展「台北 國立故宮博物院―神品
至宝― 」開催記念国際シンポジウム
中国皇帝コレクションの意味―書画にお
ける復古と革新―
2014 年 7月5日・6日
東京国立博物館 平成館大講堂
*取材日は 7月6日日曜日
3
写真上から/会場の東京国立博物館 平成館。シンポ
ジウム会場の大講堂は入って左手。写真中央/東京
国立博物館の特別展「台北 國立故宮博物院―神品
至宝―」は 2014 年 6 月 24 日から 9 月 15 日ま
で開催。ポスターにもなっている「人と熊」も人気。
写真下/今回の会場となる東京国立博物館 平成館
大講堂。約 380 人収容。通訳ブースは常設で、会
場2階の前方右手にある。小部屋が 2 つ並んでいる。
場
現
訳 ト
通
ー
レポ
音声チャンネルを切り替えるスイッチ。通訳者がこれを
押してから話し出すことでレシーバーに音声が届く。
前半を担当。スピーカーは中国語なので中
国語→日本語の通訳。
15 分程度でもパワー
ポイントの資料や原稿は 30 枚にもなる。
6
会場には余裕をもって早目に入る。通訳
会社㈱サイマル・インターナショナルの
担当者と挨拶を交わし、スケジュールな
どを確認。
通訳を聴くためのレシーバー。会場で参加者に配布
される。聞きたい言語にチャンネルを合わせる。今
日は日本語と中国語だが、複数言語の通訳が入る場
合には、チャンネル数が3つ、4つになることも。
2
打ち合わせは通訳会社のコーディ
ネーターを介して依頼することが多
い。スピーカーと事前に話し合って
おけば、本番の通訳もスムーズに。
10:55 ~ 11:20
「公主の雅集 : モンゴル皇室と
書画鑑蔵活動」を通訳
モニター画面にはスクリーンの映像が映し出される。パ
ワーポイントの画面などが手元で大きくみられるので便
利だ。
裏方ス
タッフ
写真は午後の発表の後半「徽宗の七璽と乾隆帝の八璽について」の様子。
14:15 ~ 15:15
午前中は 3 つの発表があり、大森さんは 2 つ目の発表の後半
討論はどんな内容・テーマなのか、コーディネーター
を通じて探ってはいたものの、
完全に予測はできない。
どんな内容が出てくるかわからない討論は難易度が高
く、同時通訳者にとっては腕の見せ所でもある。
を担当。スピーカーは中国語なので中国語→日本語の通訳と
なる。
9:45 打ち合わせ
通
訳
レポ 現場
ート
中国語会議通訳者
午後には 2 つの発表があり、大森さんは
13:15
7
大森喜久恵 さんの
1日 のスケジュール
「乾隆帝と澄心堂紙」 を
通訳
休憩
9:30 会場入り
目は資料や画面を追いながらマイク
に向かう。資料の紙をめくる音など
がマイクに入らないよう、気を付け
なければならない。
日・シンポジウム 日目]
13:15 ~ 13:40
[ 月
11:45 昼食
・
〜
ス内は
通訳ブー
こうなっている!
本日登壇するスピーカーの了承が得られ
たので、打ち合わせを行う。原稿を見な
総合討論・閉会の辞
ブース内はマイクが2つ。1つの
発表を 2 人で担当する場合、自分
の番ではない時も、メモを取ってサ
ポートするなど、
気を抜く暇はない。
総合討論は登壇者 10 人で 1 時間。3 名が
ブース内に入り、約 10 分で交代。数字や
がらスピーチ内容や出てくる固有名詞な
どに疑問点があれば質問。
固有名詞はすぐにメモをとり、待機中の通
サイマル・グループの機材サービス専門会社、サイマル・
テクニカルコミュニケーションズのエンジニアも現場に
入る。
レシーバーを揃えたり、
同時通訳機材の調整を行う。
訳者が意味などを調べて、通訳者にメモを
渡すなど、連携プレーで乗り切った。
10:15 通訳ブースへ
通訳ブースへは会場の裏手から入る。会
「台北 國立故宮博物院―神品至宝―」
開催記念国際シンポジウム スケジュール
議通訳者は 3 名が手配されて、どのパー
トを担当するかは事前に決定済み。当日
*( )内は通訳言語
7 月 5 日(土)
10:00 ~ 開会の辞 (日→中、中→日)
10:10 ~ 基調講演 國立故宮博物院書画コレクションの淵源(中→日)
◆セッション1 唐から宋へ、中国から日本へ
13:10 ~ ①王羲之と小野道風(日→中)
13:35 ~ ②皇帝コレクションにおける模写・模造事業―乾隆帝の書画コレクションと狩野派―(日→中)
14:30 ~ ③徽宗と義満―日本における皇帝コレクションの意味(日→中) 14:55 ~ ④蘇軾「寒食帖」と米芾「草聖帖」-台北と大阪を結ぶ縁(日→中)
7 月 6 日(日)
◆セッション2 元代書画の世界
10:30 ~ 10:55 ⑤元末四大家―文人画の確立―(日→中)
10:55 ~ 11:20 ⑥公主の雅集:モンゴル皇室と書画鑑蔵活動(中→日)
11:20 ~ 11:45 ⑦乾隆帝が見た江南山水画―伝巨然「蕭翼賺蘭亭図」を中心に―(日→中)
◆セッション3 乾隆帝の書画コレクション
13:15 ~ ⑧乾隆帝と澄心堂紙(中→日)
13:40 ~ ⑨徽宗の七璽と乾隆帝の八璽について(日→中)
14:15 ~ 総合討論(日→中、中→日)
15:15 ~ 閉会の辞(日→中)
17 『通訳・翻訳ジャーナル』AUTUMN 2014
ブースは 2 つ。2 人の通訳
者がブースに入り、1 人は部
屋の外で待機という形に、
15:30
終了・片付け撤収
配布資料や原稿は持ち帰らずに
その場で通訳会社のコーディネー
ターに返却した。
は最終的な確認や用語の確認、機器の調
整などを行う。
中国語会議通訳者の大森喜久恵さ
ん(右)
、江草裕子さん(中)
、渋谷
千春さん(左)
。中国語通訳者は英
語のように大勢いるわけではないの
で、
現場で顔を合わせる機会も多く、
チームワークは抜群。
開始前に通訳者同士で打ち合わせ。
分担の確認のほか、人名や作品名な
ど固有名詞やキーワードとなる用語
の訳出について相談したりする。
10:30 ~
セッション2スタート
今回のシンポジウムでは基調講演のほか、テー
マ別セッションが 3 つあり、セッション内に9
つの発表がある。1 つの発表は約 25 分で、基
本的には 2 名の通訳者で分担するが、内容に
よっては 1 名が全部を担当するケースも。
『通訳・翻訳ジャーナル』AUTUMN 2014 16
「国
と聞いて、興味を持つと同時
立故 宮 博 物院のシンポジウム
「内容的に準備に時間がかかると思った
なっていた。
た。スピーチ原稿の前に参考資料とし
ので、早ければいいなとは思っていまし
て展覧会の図録が届いたので、必要箇
に『かなりの準備が必要なお仕事にな
時 通 訳 者の大 森 喜 久 恵さんは、同 時
り そ う 』とは思いました」 と話 す 同
所をコピーして持ち歩き、背景知識を
入れるようにしていました」
年。 中 国 語の会 議 通 訳のほ
通訳歴
か、放 送 通 訳の仕 事や語 学 講 師、通
などがびっしりと書きこまれていた。
原稿ナシの討論会の同通
チームワークで乗り切る
初日の基調講演が 分で、他の9つ
の発 表は各 分。 基 調 講 演の通 訳は
力を高めて挑みたいという気持ちもあ
り、中→日は 人で行いました」
森さんの通訳は優しく語りかける
大
ような口調が印 象 的。発 表 者が比較
的早口であっても、焦りなど感じさせ
ない穏やかなものだった。
「登壇した先生方は国際会議に慣れて
すくお話しされたので、内容は難しく
発表は
た。
事 前 準 備の効 率などをふま えて決め
分 間を
を使って原稿を読み、調べ物を進めた。
た。早口の時もありましたが、それは
通訳を意識せず、発表に集中なさって
いたから、と捉えるようにしています」
回、ベテラン通訳 人組をもってし
今
ても手ごわかったのは総 合 討 論だ。原
回の資 料
が ら、 今
かりましたね」
意味を調べるなど、手間はいつもよりか
日本語に通訳するパートは 人で分担
も可能なのですが、今回は中国語から
上に、登 壇 者が
稿がなく、発言順も話題もわからない
しました。聴衆がほぼ日本の方なので、
人と多 く、時 間 も
の入 手 状
やはり中国語から日本語の通訳の集中
専門性の高い文化・芸術の内容
できる限りの準備をして現場に入る
森さんのモットーだ。
と準備に手を抜かない」というのが大
し、毎 回 準 備は時 間に追われて自 転
「 さま ざまな 内 容の会 議があ り ま す
Q
車操業であることは事実ですが、でき
る限り万全にしたい。準備不足はスピー
時間と長丁場。討論開始前は通訳
ブース内の緊張感も高まった。
「 人で並んで座るのはきつかったですが
した。音で聞いても漢字表記がわから
(笑)
、サポートしながら乗 り 切 り ま
きなれない単語が出た場合、待機中の
ないと正しい中国語にできません。聞
人が漢字表記と意味を調べてメモにし
て横から渡し、まちがえやすい数字や
年 号 もメモ。 原 稿のない同 時 通 訳で、
り緊張します」
しかも 内 容や用 語が専 門 的だとやは
通訳への反応がわかるのが
会議通訳の醍醐味
どんなに経験を積んでも、毎回のよ
うに新たな知識が必要になるのが会議
通訳者の仕事。
「どんな内容であろう
ると、
それだけで幸せを感じます(笑)
。
『なるほど』とうなずく様子を目にす
自分の通訳に反応してくれる、自分の
通 訳でコミュニケーションが成 立 する―
―それを目の当たりにできる喜びやや
りがいは、会 議通訳でのみ感じられる
マは「工芸」。通訳者も同じチームで担当する予定。
醍醐味だと思います」
月 25 日にシンポジウムを開催予定。九州会場のテー
ただ、調べ物には際限がないのも難しい
月 30 日まで開催。九州会場では「肉形石」が 10 月 7
日から 10 月 20 日まで限定公開される。九州でも 10
展覧会の図録。 通訳前
に資料として目を通した。
大森 喜久恵
通訳者の人選で重視することと
中国語会議通訳者
10
九州会場の九州国立博物館では 10 月 7 日から 11
要があります。
公式 HP http://taipei2014.jp/
当日のシンポジウ
ムのパンフレット。
2014 年 6 月 24 日から 9 月 15 日まで。
立 故 宮 博 物 院 ― 神 品 至 宝 ―」 は
カーにも聴衆にも申し訳ないですから。
情報を通訳者にきちんとお伝えする
PROFILE
は?
況 は 気に
当日 持 参した原 稿のプリントには、
鉛筆と赤ペンで読み方や意味、関連語
25
ても最後までついていくことができまし
おられ、聞きやすい中国語でわかりや
のと、 人で分 担 するものを、チーフ
人で通訳をするも
ピーチ原 稿が早めに届いても、直
ス
前や当日にリバイスされることも多い。
の大 森さんが中 心となって、発 表 数や
「人名、作品名、固有名詞に注意しな
分 程 度なら続 けて通 訳 をすること
3
さん
ネット接続環境があれば
調べ物に使える。また、
資料の急な変更をデー
タで渡された際に便利。
お話
PC や
タブレット
1
2
かがうようにしています。また、その
ところですね」
2
分ごとに 人で交代し、その他の
日 前。 仕 事の合 間や夜の時 間
目 も 担った。シンポジウム直 前 まで出
約
催日
結局、今回の原稿が入り始めたのは開
張 が 入る
まずは漢和辞典で読み方を引いてから
がら読みます。今回は古い漢字も多く、 「
人 とも ある程 度 経 験があるので、
など多 忙
15
な 日々な
1
訳スクールの講師としても活躍中だ。
通 訳 するパートを割 り 振るといった役
25
人のベテラン同時通訳者が手配さ
れた今回、大森さんがチーフを任され、
90
赤、マーカーと多数そ
ろえる。 予備のボー
ルペンも忘れずに。
耳にフィットして音
質のいいものを複
数所持している。
大量の資料の目印に。
またブースや機器に直
接貼り付けることも。
厚みのある資料を止め
ても開きやすい、平た
い形のクリップを愛用。
ならず、お客様のご希望を事前にう
時通訳の現場になると、複数の通
同
訳者や通訳会社の担当者とも一緒にな
経済、金融、医薬、知財、法律、文
3
中国語の場合は、念のため使用言語
をよく確認する必
ボトル
ペン類
イヤホン
ふせん
クリップ
る。互いに気持ち良く仕事をするには
対応しました。また当日は、通訳者
『通訳・翻訳ジャーナル』AUTUMN 2014 18
19 『通訳・翻訳ジャーナル』AUTUMN 2014
2 25
3
中国語に限らず、適任者をアサイ
ンするためには、内容やテーマのみ
気配りも欠かせない。
料の入手は通常の案件以上に慎重に
喉を使う仕事に
は欠かせない。
件」も多数あります。
みんな緊張する大変な現場であること
なり専門的だったため、通訳用の資
のど飴
や韓国語なども手配する「多言語案
「ベテランであろうが新 人であろうが、
化・芸術…など、中国語の場合も英
語と同様さまざまです。また、英語
座る位置、マイクの位置、物の置き場一
今回は中国語の同時通訳だが
は変わりません。例 えば、ブース内の
常より長めに設定いただきました。
る重要なこと。だからこそ互いの思いや
にも予定を確認しました。内容がか
電子辞書
と登壇者の打ち合わせの時間を、通
つとっても、通訳パフォーマンスを左右す
いただいた 4 月下旬頃に通訳者の方
温かいお茶を持
参している。
分野は多岐にわたり、経営、政治・
りや協力も必要です」
お客様から最初にお問い合わせを
会議通訳者の
お仕事道具
中国語の案件の昨今のニーズ
激を感じている」そうだ。
とや当日大変だったことは?
中国語、日本語、英語の辞書などが入っている。
また芸術の話題だった今回は「ブリタニカ百科事
典」が活躍したそう。また、漢字の読み方を調べ
る「漢和辞典」も中国語通訳の場合は活躍。
Q
は?
近は放送通訳の仕事も増えている
最
が、
「自分としては会議通訳に最も刺
いつごろ? 準備で気を配ったこ
東京国立博物館 特別展「台北 國
▶
25
Q
3
3
3
今回、通訳者の選定や手配は
「会場で自分の通訳を聞いている方が、
國分 映恵さん
九州開催も予定
とお客様がおっしゃっても、北京語
以外の場合の可能性もありますので
通訳者
INTERVIEW
通訳会社の
コーディネーター
に聞く
㈱サイマル・インターナショナル
通訳コーディネーター
(おおもり・きくえ)中国東北師範大学
中国語言文学学部卒。帰国後、サイマ
ル・アカデミー中国語通訳者養成コー
スで学ぶ。製薬会社や法律事務所で通
訳翻訳業務に従事するかたわら、1989
年より会議通訳を始める。現在は、日
中会議通訳者として、政治、経済のほか、
さまざまな分野で活躍中。放送通訳の
ほか、サイマル・アカデミーで講師とし
て後進の育成にも努める。
ことによってベスト・パフォーマンス
を引き出します。なお、
「中国語通訳」
大森さんが事前に調べ物
をして準備した原稿。細
かくびっしり補足の情報
が書き込まれている。
通
訳
レポ 現場
ート