要約:水素原子の量子力学

水素原子の量子力学
目次
§1.水素原子のスペクトルとその規則性
§2.水素原子のボーア模型とその問題点
§3.静止した陽子から見た電子の運動
§4.シュレーディンガー方程式
§5.固有値:主な束縛状態(E<0)のエネルギー準位
§6.種々の量子状態(E<0、E>0)のエネルギー準位
§7.動径波動関数の実例
§8.陽子質量の有限性の効果
Made by R. Okamoto (Emeritus Prof., Kyushu Inst. of Tech.)
filename=hydrogen-summary20150620B.ppt
1
§1.水素原子のスペクトル(実験)とその規則性
離散的スペクトル
(線スペクトル)の経験則
1
λn →n
2
1
 1 1 
∝  2 − 2  ; n1 < n2 : 正整数
 n1 n2 
リドベリ(Rydberg)定数
 1 1 
1
Rexp 1.09677 ×107 m -1.
→= Rexp  2 − 2  ;=
λn2 →n1
 n1 n2 
(n2 2,3,) : ライマン系列
n1 1,=
=
(n2 3, 4,) :
n1 2,=
=
バルマー系列
(n2 4,5,) : パッシェン系列
n1 3,=
=
n1 = 4, (n2 = 5, 6,) : ブラッケット系列
2
§ 2.水素原子のボーアモデルとその問題点
力学的エネルギー=運動エネルギー+(電気的引力ポテンシャルエネルギー)
二つの仮定:
量子条件:電子の(軌道)角運動量はh/(2π)の整数倍のみ許される。
振動数条件:電子は定常状態の場合には電磁波を放出(吸収)しない。
状態遷移の場合、その振動数fは二つの状態のエネルギー差
により、 E2-E1=hf で与えられる。
2
離散的なエネルギー
 1   me e 4  1
13.6 eV
En = − 
≈
−
  2  2
2
4
2
πε

n
n

0 

(n = 1, 2,)
→水素原子のエネルギースペクトルの殻構造の理解
水素原子のボーア半径
4πε 0 2
a0 ≡
≈ 0.5 A
2
me e
→水素原子の大まかな「大きさ」の推定
3
量子遷移と光の放出・吸収
2s
光子の吸収
光子の放出
1s
光子のエネルギー(hf)と波長λ,振動数f
13.6 eV
hf= E2 − E1 ; hf=
, En ≈ −
λ
n2
-9
10.2eV,
=121.6nm
121.6
10
m
E2 − E=
λ
=
×
1
ch
4
ボーア・モデルの問題点
1)電子の角運動量はディラック定数 の整数倍に限られるという量子条件
(仮定)は不自然であること。角運動量などの量子化を説明すべきである
のに、仮定している。
2)水素原子がつぶれない理由,すなわち電磁気学に反して水素原子が安定
して存在する根拠を説明できないこと。
3)エネルギーと半径以外の物理量を計算する処方がない。
4)水素以外の系への適用はできない。
5)電子の時々刻々の空間的位置は確定しているという古典的軌道概念が
有効であることを暗黙のうちに仮定している。
これは他の実験で示される電子の波動的性質と矛盾する。(電子が人
工衛星または惑星のように公転しているというイメージ。)
6)水素原子のスペクトルの微細構造が説明できない。
「電子は原子核のまわりを、人工衛星のように、周回する」という
素朴な(しかし、誤りの)イメージが広まった。
5
出典:
バークレー物理コース
「量子物理(上)」
丸善出版、1972年。
pp.43-44.
6
原子核内の陽子、中性子も上図のように静止しているわけではない!
7
§3.静止した陽子から見た電子の運動
電子(electron)
me
1
≈
mp 1840
質量比
第1近似で、陽子は静止していると仮定してよい。
陽子(proton)
z

r
陽子
x
(x,y,z)
y
8
§4.シュレーディンガー方程式とその解
 2 2
1 e2 
∇ −
−
ψ ( x, y, z ) =Eψ ( x, y, z )
4πε 0 r 
 2me

1 ∂  2 ∂  ˆ 2
∂2
∂2
∂2
∇ ≡ 2 +=
+ 2
r
− 2 2
2
2
r ∂r  ∂r  r 
∂x ∂y ∂z
2
ψ ( x, y, z ) = R(r )Ym (θ , φ )
境界条件:
E<0(束縛状態)の場合、
波動関数は無限遠方でゼロに近づく。
2
 1   me e 4  1
13.6 eV
En = − 
  2  2 ≈−
2
離散的なエネルギー、
4
πε
2

n
n


0


空間的に広がる(複素数の)波動関数
(n = 1, 2,)
種々の行列要素の計算可能
9
実験値と理論値の一致は4桁
→陽子の静止近似はかなり良いこと
hf n2 →=
En2 − En1 ,
n1
→
 1
1
,
R
=
−
exp  2
2 
exp
λn2 →n1
 n1 n2 
1
Rexp 1.09677 × 107 m-1
=

2
1  1   me e 4  陽子質量を無限大と見なした近似
,
R∞ ≡ 
 
3 
ch  4πε 0   4π c  におけるリドベリ定数
= 1.09737318 × 107 m-1
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§5.固有値:主な束縛状態(E<0)のエネルギー準位
V (r )
r
0
n=2
-13.6 eV
n=1
2
E1
 1   me e 4 
− 2 E1 ≡ 
1, 2,)
En =
  2  (n =
n
 4πε 0   2 
E1 ≈ 13.6 eV
エネルギーが主量子数nにのみに依存し、方位量子数  、磁気量子数 m にはよらないこと。
エネルギーは量子数については縮退(縮重)している。
r
これはクーロン・ポテンシャルが球対称であることに起因する。
基底状態、すなわち、n=1の場合、 = 0 、角運動量の値はゼロとなること。
「常識」(=ボーア模型の描像)とは違って、電子は決して回転していることにはならない。
 ≠ 0 の場合も、波動関数の方向依存性の大きさが離散的であり(=方向が量子化されてい
る)、古典論のように、単純に回転しているわけではない。
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§6.エネルギーの正負による
離散的及び連続的エネルギースペクトル
E
E>0
0
連続的エネルギー
3s
3p
2s
2p
電子は自由
3d
電子は原子核に束縛されている
E<0
離散的エネルギー
1s
主量子数
n, 
エネルギー準位
方位量子数
 = 0 : s 軌道
 = 1: p 軌道
 = 2 : d 軌道
 = 3 : f 軌道
12
 = 4 : g 軌道
水素原子のエネルギー準位(殻構造)
E [eV]
(E>0:散乱状態、イオン化状態)
0
-1.5
-3.4
n=3

3s (3, 0)


3 p (3,1)
3d (2, 2)
( M 殻)
n=2
バルマー系列
(スペクトル系列)
2 s (2, 0)
2 p (2,1)
( L殻)

(E<0:
束縛状態)
光の放出・吸収
-13.6
n = 1 1s (1, 0)
( K 殻)
量子数(n, )
§7. 水素原子の動径波動関数の例
2
2
n
r R (r )
動径波動関数を2乗し、r の2乗を掛けた動径分布は、核の
中心からのある距離における電子の存在確率に相当する。
2s 軌道=
(n 2,=
 0)
1s 軌道=
(n 1,=
 0)
a0
r / a0
ボーア半径
a0
ボーア半径 a0
水素原子の波動関数の動画
http://www.youtube.com/watch?v=tcRdPxpRjc4
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§8.陽子質量の有限性の効果
 1
1
1
=
−
R
,
exp  2
2 
n
n
λnex2 →p n1
2 
 1
=
Rexp 1.09677 × 107 m-1

2
Reff
me m p
1  1   µe4 
≡ 
≡
µ
,
,

ch  4πε 0   4π c 3 
me + m p
電子と陽子の換算質量
= 1.096775965 × 107 m-1
実験と理論との一致は6桁となり、陽子の静止近似よりも
さらに2桁も改善される!
→シュレーディンガー方程式が正しいことの証拠
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電子質量を換算質量に置換する理由:
電子・陽子2体系としての水素原子
z

r

R

rp



  
me r e + m p r p
me m p
=
r ( x, y , z ) ≡ r e − r p=
, R ( X ,Y , Z ) ≡
, M ≡ me + m p , µ ≡
M
me + m p

 
m p  
∂
∂X ∂
∂x ∂ me ∂
∂
me 
→
=
+
=
+
→ ∇ re =
∇ R + ∇ r , ∇ rp =
∇R − ∇r ,
∂xe ∂xe ∂X ∂xe ∂x M ∂X ∂x
M
M
1  2
1  2
1  2 1  2
→
∇ re +
∇ rp =
∇R + ∇r .
me
mp
M
µ
陽子
シュレーディンガー方程式とその相対・重心運動への分離
y
x
水素原子の相対運動
水素原子の重心運動
 2  2
 2  2
1 e 2   2  2
1 e 2   2  2

∇r −
∇r −
=−
∇r −
∇R .
H ≡−
−
2me e 2m p p 4πε 0 r  2 µ
4πε 0 r  2 M
 
 
 


∂
Φ ( r , r ; t ) =
Ψ rel ( r; t )Φ cm ( R; t )
H
i Φ ( re , rp ; t ), Φ ( re , rp ; t ) =
e p
∂t
2 




  2
∂
 2  2
∂
1 e2 
∇
Φ
=

Φ
(
R
;
t
)
i
(
→ −
∇r −
Ψ
=

Ψ
−
r
t
r
t
(
;
)
i
(
;
),
R
 rel
cm
cm R; t )
rel
∂t
∂t
4πε 0 r 
2M
 2µ



 
  2  2
1 e2 
( K ) 2
→ −
∇r −
ψ
r
=
E
ψ
r
Φ
t
∝
K
⋅
R
−
t

E
=
(
)
(
)
,
(
R
;
)
e
xp
i
exp
i
/
;
(
) cm
 rel
rel rel
cm
4πε 0 r 
2M
 2µ
(
)
ハミルトニアンが相対運動部分と重心運動部分に分離されることに対応して、シュレー
ディンガー方程式も同様に分離される。重心運動は自由粒子的運動であるから、相対
運動だけについて解けばよいことになる。
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