FVIII 活性の測定:1 種類の測定法では不十分であり、元々1 種類である

Editorial ‒ Full Translation
FVIII 活性の測定:1 種類の測定法では不十分であり,元々 1 種類である
べきではなかった
Assaying FVIII activity: one method is not enough, and never was
M. Makris and F. Peyvandi
Department of Cardiovascular Science, University of Sheffield, Sheffield, UK; Sheffield Haemophilia and Thrombosis Centre,
Royal Hallamshire Hospital, Sheffield, UK; Fondazione IRCCS Ca’ Granda, Ospedale Maggiore Policlinico, Angelo Bianchi
Bonomi Hemophilia and Thrombosis Centre, Department of Internal Medicine, University of Milan, Milan, Italy
第 VIII 因子活性( FVIII:C )測定は,血友病治療
変異を有するために,異常な構造の FVIII 分子が生
の重要な構成要素であり,凝固因子濃縮製剤または
じ,きわめて多数の患者において,凝固 1 段法と発
デスモプレシンによる治療後の診断およびモニタ
色合成基質法の測定結果は著しく異なる。常に凝固
リングに用いられている。長年 3 種類の測定法( 凝
1 段法のみが使用されてきた血友病施設では,発色
固 1 段法,凝固 2 段法,発色合成基質法 )が利用さ
合成基質法が,主として研究目的に開発された高額
れてきたが,実際には凝固 1 段法が世界の主流と
で複雑な測定法であると理解されていることから,
なっている。凝固 1 段法が主流となったのは,簡
その活用に熱心でないことが多い。その一方で,現
明さ,自動化,コスト管理について国際的な後押し
在複数の血友病施設が,軽症血友病 A 患者( 最大 3
があったためである。
分の 1 )における FVIII:C に有意な不一致を示して
凝 固 1 段 法 は 原 理 的 に 単 純 で あ る が, 様 々 な
いる( 3–5 )。不一致には 2 種類ある。発色合成基質法
試薬と機器との併用により測定結果に多くのばら
の結果が凝固 1 段法より低くなる従来のタイプと,
つきがみられることは,十分には理解されていな
それより数ははるかに少ないが,発色合成基質法の
い。2013 年秋に実施された英国外部品質評価計画
結果が高くなるパターンである( 5 )。
( NEQAS )の最新調査では,活性化部分トロンボプ
FVIII:C の不一致については,凝固 1 段法の結果
ラスチン時間( APTT )の測定試薬 27 種,FVIII 欠
が正常であるのに対して発色合成基質法では低く
乏血漿 16 種,および標準血漿 15 種を用いて( 可
なる( 4,5 ),すなわち,凝固 1 段法では良好な反応
,
能性として 6480 通りの組み合わせが考えられる )
を示しているのに,発色合成基質法ではきわめて低
(1)
APTT の測定が行われた
。凝固 2 段法はより正
確であると考えられるが,自動化が難しく,原理お
く,デスモプレシンによる反応が有効である可能
性が低い場合などに臨床的意義がある。その逆に,
よび結果が発色合成基質法に類似していることか
凝固 1 段法の結果が低いのに発色合成基質法では
ら,現在は発色合成基質法が好まれている( 2 )。
正常である場合,FVIII 遺伝子変異および凝固 1 段
重症血友病患者において正常な FVIII 分子を測定
法による FVIII:C 低下に基づき血友病 A と診断さ
する場合,患者自身の蛋白質として測定するにして
れても,これらの患者は過度に出血しないことが多
も,完全長 FVIII 分子輸注後に測定するにしても,
い( 6,7 )。上述の知見はどれも目新しい内容ではなく,
FVIII は正常な構造を持つため,通常あらゆる測定
両方の測定法を用いている血友病施設では,かねて
法で類似した結果となる。しかし,軽症および中等
からこの問題を認識してきた。我々は,中等症お
症血友病 A 患者の場合,その多くが FVIII 遺伝子
よび軽症血友病 A 患者はすべて,ベースラインの
Haemophilia (2014), 20, 301–303
© 2014 John Wiley & Sons Ltd
定すべきであることを提案するものである。ただ
4
FVIII:C を凝固 1 段法と発色合成基質法の両方で測
FVIII 活性の測定:1 種類の測定法では不十分であり,元々 1 種類であるべきではなかった
し不一致が僅かであり,有意ではない場合,凝固 1
結果を示したため,製剤特異的な標準血漿は必要と
段法単独で臨床管理を継続することも可能である。
されない可能性がある( 9 )。認可されたこの 2 種類
FVIII 濃縮製剤の力価の認定においても,様々
な FVIII 活性測定法が用いられている。米国では,
FDA が常に凝固 1 段法の使用を求めているのに対
して,欧州の場合,欧州医薬品庁( EMA )は,欧州
の BDD 製剤が,凝固 1 段法で異なる反応を示した
理由は明らかでないが,B ドメイン欠失の度合いが
異 な り,Xyntha / Refacto AF の 2 製 剤 で は B ド
メインが 8 アミノ酸であるのに対し,Novo-Eight®
薬局方によって推奨されている発色合成基質法の
では B ドメインが 22 アミノ酸であることに起因
使用を求めている。ここ 20 年間発色合成基質法が
している可能性がある( 10 )。新たな遺伝子組換え型
選択されているのは,発色合成基質法が凝固 1 段
法より正確であるとみなされたためである。このこ
FVIII 濃縮製剤の多くは,保持する残存 B ドメイン
のセグメント長が異なる BDD 製剤であるため,こ
とは,当初,多くの検査室がウォーターバス試験管
れは重要な問題である。
傾斜法を用いて FVIII:C を測定していた頃には正し
血友病の分野では,長時間作用型濃縮製剤の導
かったが,完全自動化が実現された現在では,同じ
入に伴い,大きな変化が生じつつある。少なくとも
ことが当てはまるとは言えない。こうした差異は
5 種類の製剤が開発中であり,1 つを除くすべてが
BDD 製剤である。Bayer 社,Biogen Idec 社,CSL
Behring 社,NovoNordisk 社製の濃縮製剤が BDD
製剤であるのに対し,Baxter 社の濃縮製剤は完全
長 FVIII である。重要な問題は 2 つあって,こうし
あっても,初期にこのことが問題にならなかったの
は,血漿由来 FVIII 濃縮製剤および第一世代の遺伝
子組換え型 FVIII 濃縮製剤が完全長分子であり,同
等の結果をもたらしたためである。
欧州で ReFacto AF®,米国で Xyntha® として販
た製剤の力価をどのように表示するかということ
売された B ドメイン欠失( BDD )製剤が導入される
と,臨床検査室でどのように測定すべきかというこ
と,製薬企業と臨床検査室の双方に責任のある問題
とである。第 VIII 因子および第 IX 因子濃縮製剤の
が生じた。凝固 1 段法の結果が発色合成基質法よ
力価の表示については,国際ガイドラインが公開さ
り 20% 低かったが,規制当局の選好により,米国
れている( 11 )。この問題の理解をさらに深めるため
では本製剤が凝固 1 段法,欧州では発色合成基質
に,2013 年 11 月,EMA は製薬企業,臨床医,患
法により表示され,その結果,2 つの製剤が同一で
者団体,規制当局者間の作業部会を組織した。詳
®
同一の工場で生産されているのに,現在 Xyntha 1
報は,適切な時期に EMA により発表されることに
単位は ReFacto AF 1.38 単位と同等であるという異
なっているが,うれしいことに,新たな製剤につ
(8)
。臨床検査室による測定
いてはすべて発色合成基質法による表示およびモ
には,引き続き凝固 1 段法が用いられている。欧
ニタリングができ,さらに国際単位( IU )で表示で
州の一部の検査室では,不一致を補正する製剤特異
きるよう,世界保健機関( WHO )による FVIII 濃縮
的な標準血漿が製薬企業から提供され,これを用い
製剤用の国際標準血漿を用いることが可能である。
て凝固 1 段法と発色合成基質法の測定結果を等価
にしている。しかしながら,製剤特異的な標準血漿
Baxter 社の完全長長時間作用型製剤は,実際には
発色合成基質法と凝固 1 段法の両者により表示お
が米国で使用されないのは,Xyntha の蛋白質含有
よびモニタリングされた力価であると考えられる
量の方が多くても,臨床上の問題は生じないためで
が,臨床使用時における測定法の不一致の可能性に
あるからかもしれない。
ついては明らかにされていない。欧州薬局方がその
常な事態になっている
最 近,NovoNordisk 社 の 新 た な BDD 遺 伝 子 組
®
要件を変更し,FVIII 製剤について,発色合成基質
換 え 型 製 剤 で あ る Novo-Eight ( turoctocog alfa )
法ではなく凝固 1 段法による表示を認めるかどう
が,米国および欧州において認可された。こちらも
かは,現時点では確定されていない。
BDD 製剤であるのに,1 種類の発色合成基質法と
単一の APTT 試薬を用いた凝固 1 段法とが同等の
新たな長時間作用型 BDD 製剤の臨床モニタリン
グになると,状況はさらに複雑である。すべての製
5
Full Translation: M. Makris and F. Peyvandi
剤に対し単一の測定法が使用可能である場合,発色
ことは,血友病施設が患者のモニタリングのため,
合成基質法による FVIII 活性の測定が科学的には望
FVIII に対する複数の凝固 1 段法を用いることを意
ましいと考えられるが,少なくとも近い将来広く
味するものと考えられる。しかし血友病施設では,
凝
採用される見込みは低いと考えられる。それぞれの
固 1 段法に加え発色合成基質法を用いる準備もすべ
APTT 測定法は,製剤に対する反応が異なり,互換
的に使用できないことは明らかである。凝固 1 段
きである。臨床検査室が必要に応じて複数の FVIII
法を採用する場合,臨床検査室に推奨できる新たな
とって,今までにない新たな取り組みのように思え
長時間作用型 BDD 濃縮製剤のモニタリング方法に
るかもしれないが,本論説の冒頭で示したとおり,
ついては,現時点では確定されていない。この問題
実はこのことは軽症血友病 A の診断において,相当
に対処するための方法は,以下のとおりである。
長い間必要とされてきたことである。2 種類の FVIII
1. 各濃縮製剤について,発色合成基質法と最も近
い結果をもたらす個別の APTT 試薬の特定
2. 製剤特異的な標準血漿の活用
3. 特定の APTT 試薬を用いた際の結果を,発色合成
測定法が用いられなかったのは,一部の患者だけに
測定法を提示することは,多くの血友病治療者に
その影響が出ると考えられていたためである。しか
しながら,長時間作用型 BDD 製剤が血友病治療の
主流となると,ある長時間作用型 FVIII 製剤に対し
基質法の結果の近似値に変換する乗算因数の使用
てある種の測定法が求められることが現実となり,
特定の APTT 試薬を用いる勧告を行った場合,い
検査室では,様々な FVIII 活性測定法の提示を要す
くつかの問題が生じることが予見される。問題とし
ると考えられる。本論説では FVIII 製剤を扱ったが,
て挙げられるのは,様々な製薬企業で製造されるこ
新世代の FIX 濃縮製剤にも同様の問題がある。
れらの試薬について,長期的な供給を確保する必要
があること,
および単一の APTT 試薬を用いた場合,
機器を併用しても同一の結果が得られることを立
開 示
MM は CSL Behring 社および NovoNordisk 社の
コンサルタントを務めてきた。同氏は BPL 社が組
証することなどである。乗算因数を用いる方法は,
織する諮問委員会への参加,出講を行い,同氏の施
その簡明さのために魅力的ではあるが,各 APTT
Bayer 社,Biogen Idec 社,Biotest 社,
設は Baxter 社,
試薬には,その試薬に基づいた様々な値が必要であ
長時間作用型の両者について,完全長および BDD
Octapharma 社,Pfizer 社, お よ び SOBI 社 か ら 謝
礼金を受けたことがある。同氏は,Baxter 社およ
び Bayer 社から出張の支援を受けたことがある。
FP は Novo Nordisk 社,CSL Behring 社,Bayer 社,
および Baxter 社が組織する教育会議の講演者とし
FVIII 濃縮製剤という多様な凝固因子濃縮製剤を用
て参加謝礼金を受けたことがある。研究助成金:
いる患者を抱えることになると考えられる。この
NovoNordisk 社( FXIII 欠乏症について)。
あらゆる FVIII 欠乏血漿,国際標準血漿,および
り,またここでも安定した未変化の APTT 試薬の
長期的供給という問題が当てはまることになる。
将来的に見ると,血友病施設では,標準型および
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