記述式問題の採点のされ方

記述式問題の採点のされ方
マークシートとは異なり「絶対解」が存在しない記述式問題は、いったいどのように採
点されるのでしょうか?
1.ポリシーは「消極的」
資格試験というものには、公平性、均一性、客観性、という内在的要件があります。で
すから、採点においては「これは誰が見ても誤り」と証明できるもののみを減点する、と
いう消極的方針が採られます。
2.審査は二段階
試験というのは審査の一種です。審査とは、資料の提出を受けて、その適否などを検討
し、公式に宣言することです。
そして上述のように、そのポリシーは消極的ですから、適否の検討は要するにフィルタ
リングのプロセスをたどります。このフィルターは大きく分けて(1)形式審査と(2)
実質審査、の2つがあり、この順番で被試験者はふるいに掛けられます。なぜこの順番か
というと、(1)のほうが容易だからです。
(1)形式審査
形式審査とは、要求されている形式的要件を満たしているか、を調べることです。試験
においては、問題文にハッキリ書かれている指示のことです。たとえば「次の日本語を英
語に訳しなさい。解答は解答欄からはみ出さないように書くこと」という問題文であれば
「英語に訳しなさい」とか「解答欄からはみ出さないように」というのが形式的要求です。
形式的要件を満たしていない資料は「却下」されます。つまり審査の対象とされません。
試験の場合は0点となります。なぜでしょうか?それは合理的だからです。合理的とは「必
要性」と「許容性」の両方が存在するということです。
ア.必要性
審査には人・金・労力・時間といったコストがかかります。コストはできるだけカッ
トする必要があります。形式要件を満たしているか否か、は一見して容易に判断できる
ので、これにより要件を満たしていないものを審査対象から形式的一律に除去できれば、
資源の大幅な節約が可能となります。
イ.許容性
形式的要件は、試験問題で言えば、問題文の指示に明確に書かれていることです。こ
の要求を満たすことは、通常の注意力を持っていれば誰でも可能です。たとえば「解答
欄からはみ出さないように」という指示を守るのは、どんなに学力が低い人でも容易に
できます。このようにちょっと注意すればできることをやらない人、というのは「門前
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払い」を食わされても仕方ない、という「非難可能性」が生ずるのです。また特に「コ
ミュニケーション能力のテストたる語学の試験で、問題文の指示を無視する人は、そも
そもコミュニケーションの資質に問題があり、中身を見てもダメな蓋然性が高い」と推
定されても仕方がない、とも言えるでしょう。
(2)実質審査
形式審査を通った人のみが、実質審査を受けられます。実質とは中身のことです。試験
で言えば、必ずしも問題文に明示的に要求されていません。たとえば、上述の和文英訳問
題があったとしましょう。この場合、問題文には書かれていなくても、当然問題としては
「正しい」英語に訳すことを要求しています。たとえばスペリングが正しいとか、文法的
に正しいということです。わざわざ問題文でそう指示しないのは「あたりまえ」だからで
す。実質的要件については、形式的要件とは異なり「通常の注意力さえあれば誰でも満た
せる」とは言えません(非難可能性が少ない)。だから、実質的要件が欠けたに過ぎない場
合は部分減点で処理される、つまり部分点がもらえるのです。
3.具体的方法
記述式問題というのは、そもそもマークシートとは異なり、本質的に「主観が入りやす
い」という性質があります。しかし、前述のとおりこれは資格試験ですので「できるだけ
客観的に」という正反対の要求があります。そこで考え出されたのが、次のような方法で
す。
(1)可能な限り客観性を保つため、採点基準を文書化し、採点官の間で共有する。
(2)問題をチャンクに切り、各チャンクに部分点を振る。
4.和訳・英訳問題の採点法
形式的要件を満たしたことを前提に、和訳・英訳などの答案の採点は、以下の順番で行
います。
(1)原文の「意味」が反映されているか?
(2)英訳問題の場合、英語として正しいか?
5.日本事象説明問題の採点法
形式的要件を満たしたことを前提に、日本事象説明問題の答案の採点は、以下の点に着
目して行います。
(1)「説明」になっているか?
(2)英語として正しいか?
(3)分量が少なすぎないか?
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