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集合族
X を集合 (X ̸= ∅) とする.X の部分集合の集合を,X の部分集合を元 (要素) とする
集合族あるいは単に集合族という.
定義 集合族 F が次の 3 つの条件を満たすとき,F を有限加法族 (finitely additive class)
という.
(1) ∅ ∈ F .
(2) A ∈ F =⇒ Ac ∈ F.
(3) A, B ∈ F =⇒ A ∪ B ∈ F .
ただし,Ac = X − A は A の X における補集合 (complement) を表す.
注意 条件 (1) と (2) より,X = ∅c ∈ F である.有限個の A1 , . . . , An ∈ F に対して条
件 (3) を繰り返し適用すると,A1 ∪ · · · ∪ An ∈ F が得られる.A, B ∈ F について,ド・
モルガンの法則および条件 (2) と (3) より,A ∩ B = (Ac ∪ B c )c ∈ F となる.すなわち
(3)′ A, B ∈ F =⇒ A ∩ B ∈ F
が成り立つ.条件 (2) のもとでは,(3) と (3)′ は同値である.さらに,A − B = A ∩ B c ∈ F
である.
有限加法族 F に属する X の部分集合に対して,和集合をとる,共通部分をとる,差
集合をとるという操作を有限回行って得られる集合はすべて F に属する.
注意 集合族 F が条件 (2) と (3) を満たすとき,条件 (1) は F ̸= ∅ であることと同
値である.実際,F ̸= ∅ であれば A ∈ F に対して (2) より Ac ∈ F だから,(3) より
X = A ∪ Ac ∈ F ,したがって (2) より ∅ ∈ F が得られる.
定義 集合族 F が次の 3 つの条件を満たすとき,F を σ-加法族 (σ-additive class),可
算加法族 (countably additive class),あるいは完全加法族 (completely additive class) と
いう.
(σ.1) ∅ ∈ F .
(σ.2) A ∈ F =⇒ Ac ∈ F .
(σ.3) An ∈ F (n = 1, 2, . . .) =⇒
∪∞
n=1
An ∈ F .
注意 ド・モルガンの法則により,条件 (σ.2) のもとでは (σ.3) は次の (σ.3)′ と同値で
ある.
∩
(σ.3)′ An ∈ F (n = 1, 2, . . .) =⇒ ∞
n=1 An ∈ F .
σ-加法族 F に属する X の部分集合に対して,和集合をとる,共通部分をとる,差集合
をとるという操作を高々可算無限回行って得られる集合はすべて F に属する.
注意 σ-加法族の条件 (σ.3) において A1 = A, A2 = A3 = · · · = B のとき,∪∞
n=1 An =
A ∪ B となるので,条件 (σ.3) は有限加法族の 3 番目の条件を含む.よって,σ-加法族は
有限加法族である.
1
例 {∅, X} は σ-加法族の 3 つの条件を満たすので σ-加法族である.また X のベキ集
合 (power set) P(X),すなわち X のすべての部分集合からなる集合も σ-加法族である.
例 n 次元ユークリッド空間 Rn において,
I = (a1 , b1 ] × · · · × (an , bn ] = {(x1 , . . . , xn ) | ai < xi ≤ bi (i = 1, . . . , n)}
(ただし −∞ ≤ ai ≤ bi ≤ +∞) の形の区間を考える.ある i について ai = bi ならば I = ∅
(空集合) となる.ai = −∞ あるいは bi = +∞ の場合もある.bi = +∞ のときは,(ai , bi ]
は (ai , +∞) を意味するものと約束する.このような区間全部の集合を I(Rn ) で表す.ま
た,このような区間の互いに交わらない有限個の和集合として表される Rn の部分集合の
全体を F(Rn ) で表すことにする.
F(Rn ) は有限加法族であるが σ-加法族ではない.実際,F(Rn ) が有限加法族であるこ
とは次のようにしてわかる.
(i): ゼロ個の区間の和集合は空集合である.(ある i について ai = bi ならば上記の I は
空集合である,としてもよい.) すべての i について ai = −∞, bi = +∞ ならば上記の I
は Rn に一致する.よって ∅, Rn ∈ F (Rn ) である.
(ii): 上記の区間 I の補集合 I c について,I c ∈ F (Rn ) である.
(iii): I と J が上記の形の区間ならば I ∩ J も同様の形の区間である.
(iv): A = I1 ∪ · · · ∪ Ip , Ii ∩ Ij = ∅ (i ̸= j), B = J1 ∪ · · · ∪ Jq , Ji ∩ Jj = ∅ (i ̸= j) と
互いに交わらない有限個の区間の和集合として表される A と B の共通部分について,
q
p
∪
∪
A∩B =
(Ik ∩ Jl )
k=1 l=1
となる.(iii) により Ik ∩ Jl (1 ≤ k ≤ p, 1 ≤ l ≤ q) は互いに交わらない区間だから,この
右辺は F(Rn ) に属する.よって,A, B ∈ F (Rn ) ならば A ∩ B ∈ F (Rn ) である.
(v): A = I1 ∪ · · · ∪ Ip , Ii ∩ Ij = ∅, (i ̸= j) と互いに交わらない有限個の区間の和集合
として表される A の補集合について,ド・モルガンの法則により Ac = I1c ∩ · · · ∩ Ipc であ
るが,(ii) により Ii c ∈ F(Rn ) なので,(iv) より Ac ∈ F (Rn ) が得られる.
(vi): A, B ∈ F(Rn ) について,(iv) と (v) より A ∪ B ∈ F(Rn ) である.
(vii): F(Rn ) の定義から明らかに F(Rn ) は σ-加法族ではない.
注意 可算無限個の部分集合の和集合あるいは共通部分を扱う際には注意が必要であ
る.たとえば a < b (a, b ∈ R) に対して,
∞
∩
(
a−
n=1
∞
1 ] ∩ [
1 ]
,b =
a − , b = [a, b],
n
n
n=1
∞
∪
(
n=1
a, b −
∞
1] ∪ (
1)
=
= (a, b)
a, b −
n
n
n=1
である.
補題 F を有限加法族とする.次の条件 (a) および (b) は,それぞれ F が σ-加法族で
あるための必要十分条件である.
(a) An ∈ F (n = 1, 2, . . .), A1 ⊂ A2 ⊂ · · · =⇒ ∪∞
n=1 An ∈ F.
2
(b) An ∈ F (n = 1, 2, . . .), Am ∩ An = ∅ (m ̸= n) =⇒ ∪∞
n=1 An ∈ F.
証明 σ-加法族の条件 (σ.3) より,F が σ-加法族であれば (a) も (b) も成り立つ.逆に
(a) が成り立つと仮定して,An ∈ F (n = 1, 2, . . .) とする.Bn = ∪nk=1 Ak とおくと,F は
有限加法族だから Bn ∈ F であり,また B1 ⊂ B2 ⊂ · · · である.よって条件 (a) により,
∞
∪∞
n=1 An = ∪n=1 Bn ∈ F が得られる.
次に (b) が成り立つと仮定して,An ∈ F (n = 1, 2, . . .) とする.C1 = A1 とおき,n ≥ 2
n−1
について Cn = An − (∪k=1
Ak ) とおく.F は有限加法族だから Cn ∈ F であり,m ̸= n な
∞
らば Cm ∩ Cn = ∅ である.よって条件 (b) により ∪∞
n=1 An = ∪n=1 Cn ∈ F となる.
注意 A1 ⊂ A2 ⊂ · · · であれば補集合 Anc = X − An については A1c ⊃ A2c ⊃ · · · なの
で,上記の補題の条件 (a) は次の条件 (a)′ に置き換えることができる.
(a)′ An ∈ F (n = 1, 2, . . .), A1 ⊃ A2 ⊃ · · · =⇒ ∩∞
n=1 An ∈ F .
X の部分集合 An (n = 1, 2, . . .) に対して,
∞ ( ∪
∞
∩
lim An = lim sup An =
n→∞
n→∞
k=1
)
An
n=k
を上極限集合 (superior limit set) という.また,
lim An = lim inf An =
n→∞
n→∞
∞ ( ∩
∞
∪
k=1
)
An
n=k
を下極限集合 (inferior limit set) という.上極限集合と下極限集合は,それぞれ
(1) lim An = { a ∈ X | a ∈ An となる n が無限個存在する }
n→∞
(2) lim An = { a ∈ X | a ̸∈ An となる n は有限個しか存在しない }
n→∞
という意味がある.
X における An の補集合 Anc の上極限集合と下極限集合について,ド・モルガンの法
則により
(
(
)c
)c
c
lim An = lim An ,
lim An = lim Anc
n→∞
n→∞
n→∞
n→∞
となる.
lim An ⊂ lim An は常に成り立つが,特に
n→∞
n→∞
lim An = lim An
n→∞
n→∞
が成り立つとき,この等しい両辺を集合族 (An )n=1,2,... の極限集合 (limit set) といい,
lim An
n→∞
で表す.
上極限集合および下極限集合について,次のことが成り立つ.
(1) lim (An ∪ Bn ) = ( lim An ) ∪ ( lim Bn ).
n→∞
n→∞
n→∞
3
(2) lim (An ∩ Bn ) = ( lim An ) ∩ ( lim Bn ).
n→∞
n→∞
n→∞
極限集合について,次のことが成り立つ.
∞
∪
(1) A1 ⊂ A2 ⊂ · · · であれば, lim An =
An である.
n→∞
(2) A1 ⊃ A2 ⊃ · · · であれば, lim An =
n→∞
n=1
∞
∩
An である.
n=1
F が σ-加法族のとき,An ∈ F (n = 1, 2, . . .) であれば lim An と lim An は F に属
n→∞
n→∞
する.
定義 集合 X とその部分集合の σ-加法族 F の組 (X, F) を可測空間 (measurable space)
という.F が集合 X の有限加法族のとき,組 (X, F) を有限加法的可測空間という.
定義 A を集合 X の部分集合の集合とする.ベキ集合 P(X) は A を含む σ-加法族であ
る.A を含む σ-加法族すべての共通部分を σ[A] で表す.
∩
σ[A] =
{F | A ⊂ F ⊂ P(X), F は σ-加法族 }
σ[A] は次の (i), (ii), (iii) の条件を満たす.
(i) σ[A] は σ-加法族である.
(ii) A ⊂ σ[A] である.
(iii) A ⊂ F で F が σ-加法族ならば σ[A] ⊂ F である.
すなわち,σ[A] は A を含む σ-加法族のうち最小のものである.σ[A] を,集合族 A で
生成される σ-加法族という.
実際,σ[A] が σ-加法族であることは,次のように容易にわかる.F が σ-加法族なら
ば ∅ ∈ F なので,∅ ∈ σ[A] である.A ∈ σ[A] とすると,A ⊂ F を満たす任意の σ-加
法族 F について A ∈ F だから,Ac ∈ F である.よって,Ac ∈ σ[A] である.同様に,
A1 , A2 , . . . ∈ σ[A] とすると,A ⊂ F を満たす任意の σ-加法族 F について A1 , A2 , . . . ∈ F
∞
だから,∪∞
n=1 An ∈ F である.よって,∪n=1 An ∈ σ[A] も成り立つ.
定義 X の部分集合の集合 F が次の (1) と (2) の条件を満たすとき,単調族 (monotone
class) という.
(1) An ∈ F (n = 1, 2, . . .), A1 ⊂ A2 ⊂ · · · =⇒ ∪∞
n=1 An ∈ F.
(2) An ∈ F (n = 1, 2, . . .), A1 ⊃ A2 ⊃ · · · =⇒ ∩∞
n=1 An ∈ F.
定義 A を集合 X の部分集合の集合とする.ベキ集合 P(X) は A を含む単調族である.
A を含む単調族すべての共通部分を τ [A] で表す.
∩
τ [A] =
{F | A ⊂ F ⊂ P(X), F は単調族 }
τ [A] は A を含む単調族のうち最小のものである.τ [A] を,集合族 A で生成される単
調族という.
4
定理 (単調族定理) F が有限加法族ならば σ[F] = τ [F] が成り立つ.
証明 σ-加法族は単調族なので,σ[F] ⊃ τ [F] である.M が有限加法族のとき,M が
単調族の定義の条件 (1) を満たせば σ-加法族であることは既知である.よって,τ [F] が有
限加法族であることを示せば σ[F] ⊂ τ [F] が得られる.
∅ ∈ F ⊂ τ [F] より,∅ ∈ τ [F] である.
次に,A ∈ τ [F] ならば Ac ∈ τ [F] であることを示す.補集合について一般に (Ac )c = A
だから,ド・モルガンの法則を考えると,単調族の定義の条件 (1) と (2) からこのことは
容易にわかる.実際,
M = {A ∈ τ [F] | Ac ∈ τ [F]}
とおく.F ⊂ M ⊂ τ [F] である.An ∈ M (n = 1, 2, . . .), A1 ⊂ A2 ⊂ · · · とすると,
c
∞
c
Anc ∈ τ [F] で,A1c ⊃ A2c ⊃ · · · となる.τ [F] は単調族だから (∪∞
n=1 An ) = ∩n=1 An ∈ τ [F]
∞
∞
がわかる.一方,An ∈ τ [F] だから ∪n=1 An ∈ τ [F] も成り立つ.よって,∪n=1 An ∈ M
である.同様に,An ∈ M (n = 1, 2, . . .), A1 ⊃ A2 ⊃ · · · ならば ∩∞
n=1 An ∈ M となる
こともわかる.したがって M は F を含む単調族なので,τ [F] ⊂ M が得られる.これと
M ⊂ τ [F] より,M = τ [F] がわかる.これは,A ∈ τ [F] ならば Ac ∈ τ [F] であることを
意味する.
最後に,A, B ∈ τ [F] ならば A ∪ B ∈ τ [F] であることを示す.F ∈ F に対して
MF = {A ∈ τ [F] | A ∪ F ∈ τ [F]}
とおく.F は有限加法族で F ⊂ τ [F] だから,F ⊂ MF である.An ∈ MF (n = 1, 2, . . .),
A1 ⊂ A2 ⊂ · · · とすると,An ∪ F ∈ τ [F] で A1 ∪ F ⊂ A2 ∪ F ⊂ · · · だから
( ∞
)
∪n=1 An ∪ F = ∪∞
n=1 (An ∪ F ) ∈ τ [F]
∞
が成り立つ.また,An ∈ MF ⊂ τ [F] だから,∪∞
n=1 An ∈ τ [F] である.よって ∪n=1 An ∈
MF となる.すなわち,MF は単調族の条件 (1) を満たす.同様に,MF が単調族の条件
(2) を満たすこともわかる.よって MF は F を含む単調族になるので,τ [F] ⊂ MF であ
る.MF の定義より MF ⊂ τ [F] なので,MF = τ [F] が得られる.すなわち,F ∈ F,
A ∈ τ [F] ならば A ∪ F ∈ τ [F] であることがわかった.
次に,B ∈ τ [F] に対して
MB = {A ∈ τ [F] | A ∪ B ∈ τ [F]}
とおく.A ∈ F ならば上で示したことにより A ∪ B ∈ τ [F] なので,F ⊂ MB である.
An ∈ MB (n = 1, 2, . . .), A1 ⊂ A2 ⊂ · · · に対して,上の議論で F を B に置き換えたもの
を考えると,MB が単調族の条件 (1) を満たすことがわかる.同様に,MF は単調族の条
件 (2) を満たすことが確かめられる.よって,MB = τ [F] である.以上により,B ∈ τ [F],
A ∈ τ [F] ならば A ∪ B ∈ τ [F] となることがわかった.よって,τ [F] は有限加法族である.
定義 X が位相空間のとき,X の開集合系 O で生成される σ-加法族を B(X) で表し,
位相空間 X の Borel 集合族あるいは Borel σ-加法族という.また,B(X) に属する X の
部分集合を Borel 集合あるいは Borel 可測集合という.A を位相空間 X の閉集合系とす
ると,σ[O] = σ[A] が成り立つ.
X がユークリッド空間 Rn の場合,開集合系 O と閉集合系 A のほかに,区間全部の集
合 I(Rn ),互いに交わらない有限個の区間の和集合として表される Rn の部分集合全部の
5
集合 F(Rn ),あるいは Rn のコンパクト集合全部の集合 C(Rn ) も考える.これらで生成さ
れる σ-加法族はどれも同じである.
B(Rn ) = σ[O] = σ[A] = σ[I(Rn )] = σ[F(Rn )] = σ[C(Rn )]
問題 F を X の部分集合の σ-加法族とする.Y ⊂ X に対して FY = {A ∩ Y | A ∈ F}
は Y の部分集合の σ-加法族であることを示せ.
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