小腸 。 大腸に及が広範な病変を塁した CrOhn病 の 1例

日消外会誌.15(12):1933∼1936, 1982年
小腸 。大腸 に及 が広範 な病 変 を塁 した CrOhn病 の 1例
国立療養所宮崎東病院外科
山 俊
島
夫
藤 岡 俊
昭
同 小 児科
佐 藤
佗
子
宮崎医科大学第 1 外 科
香 月
武
人
同 第 1病理
住
CASE OF CROHN′
吉
昭
信
S DISEASE INVOLVING EXTENSIVELY BOTH
SMALL AND LARGE INTESTINE
Toshio SHIMAYAMA and Toshiaki FUJIOKA
Division of Surgery,Miyazaki‐
Higashi National Hospital
Kitsuko SATO
Division of Pediatrics,Miyazakl―
Higashi National Hospital
Taketo KATSUKI
First Department of Surgery,Miyazaki Medical College
Akinobu SUMIYOSHI
First Department of Pathology,Miyazaki Medical College
索引用語 i Crohn病,広 範腸切除
Crohn病 は原 因不 明 の慢性進行性炎症疾患 で ,し ば
しば内科的治療 に抵抗 し,ま た外科手術後 も再発率 が
きわめて高 く,治 療 の きわめて 困難 な難 治性疾患 で あ
predonineの投与 を受 け る.同 年 3月 肛 門周 囲膿瘍 切
開術。 同年 5月 腹痛,下 血 のため再 入院. 6月 末退院
す る も,時 々腹痛 と38℃台の発熱 がみ られ就学不能 と
る。
な り,昭 和 56年 1月 国立療養所宮崎東病院小児科 に入
今回われわれは内科的治療 に抵抗 し,貧 血 の増悪,
病変 の進 行す る小腸 。大腸型 CrOhn病 に対 して,小 腸
院.同 年 3月 腹痛,下 痢,発 熱,貧 血 の増悪 あ り外科
に転科 とな った.
広範切 除 お よび結腸亜全摘術 を施行 して順調 に軽快 し
た症例 を経験 したので報告す る。
症 例
患者 115歳 ,女 子,学 生.
主訴 :腹 痛,下 痢,発 熱.
入院時 現症 :身 長 155.5cm,体 重34.5Kg.皮 膚 は乾
燥 して蒼 白。結膜 に貪 血 を認 め るが黄痘 な し,頚 部 リ
ンパ節腫脹 な く,胸 部 に異常 を認めず.腹 部 は平担 で,
上 腹部 お よび左側腹部 に圧痛 を認 め るが,筋 性防御 な
し.腫 瘤 は触知 せず.肝 陣 触知 せず。肛 門周囲 4時 と
家族歴 !特 記す べ き こ とな し,
の部位 に手術 赦 痕 を認め る。 また 3, 7,11時
既往歴 !特 記す べ き こ とな し。
を中心 に全周性外痔核 を認めた。 四肢 に異常 な く,神
現病歴 :昭 和 54年 7月 頃 よ り腹痛 が 出現.同 年 11月
学校検診 にて貧血 を指 摘 され,ま た この頃 よ り下 痢 も
出現 した。昭和55年 1月 精査 のため 国立都城病 院 に入
の部位
経学的 に異常 を認めず 。
入院時検査成績 :強 度 の貧血 と低蛋 白血 症,低 アル
ブ ミン血 症,低 カル シ ウ ム血 症 を認 め る。 また血 沈 が
院. C r O h n 病
を 疑 わ れ s a l i c y l a z o s u l f a p y九進
r iし
d ,CRPは
i n e ,
強陽性 で あ った (表 1).
小腸 ・大腸 に及 ぶ広範 な病変を塁 したCrOhn病 の 1例
98(1934)
RBC
Hb
225x1 04
4,0。
d1
ア
60T
,ssiOn
20
6,T
S8
‖
: c : ! 3 8°
St
Se
L
41
65
24
12号
図 2 大 腸 X 線 検査
上行結腸 か らS 状 結 腸 口側部 が 伸展不 良で辺縁 が
不規則で不整形の濃場 を認め る.
表 1 入 院時検査成績
Labolatory data on a飾
日消外会誌 15巻
21
t2;2i6p7い
a
cholestero1
96
tOt31 billrubin O.3
静
ム品
ぶ
告謎
C l
1 0 ,
o c c u l t)
b , o 9 d ( ‐
X 線 所 見 i 小 腸 二 重 造影 検 査 で上 部 小 腸 は よ く仲
展 し, 正 常粘膜像 を示す が, 下 部小腸 は全体的 に仲展
し, 正 常粘膜像 を示す が, 下 部 小腸 は全体的 に仲展不
良で, 大 小 の バ リウ ム斑 がみ られ, 粘 膜像 の詳細 な半」
続 は不 能 で あ った ( 図 1 ) .
注腸造影検査 では, 上 行結腸, 横 行結腸, 下 行結腸,
S 状 結腸 口側部 が仲 展不 良 で, h a u s t r a は 消失 して管
腔 はせ ま く, 辺 縁 は不規則 な凹凸不整 を示 し, 粘 膜像
は粗大結節状で長 い不 整形潰瘍 を認めた。直腸 には異
常 を認め なか った ( 図 2 a , b ) .
手術所 見 t 臓 上 5 c m よ り恥骨結節直 上部 に至 る正
中切開で開腹. 上 行結腸, 下 行結腸, S 状 結腸 口側部 の
外側 は壁側腹膜 と炎症性 に癒着 し, 盲 腸, 直 腸 以外 の
大腸 は腫瘤状 で , 連 続 して硬 く触知 された. 回 腸未端
部 よ り小腸 を 口側 に触診す る と, 腸 間膜付着側 の 内腔
に s k i p した 小腫瘤 を触知 し, ま た衆膜面 には炎症変化
図 1 小 腸二重造影検査
下部小腸は仲展不良で, 大小のパ リウム斑を認める。
が強 く, 血 管 が怒張 し, 腸 間膜 リンパ 節 も腫脹 してい
た。 ほぼ正 常 と判 定 され る空 腸 は T r e i t z 靭帯 よ り約
1 . 5 m で , こ こを 口側切 除線 とした 、結腸 は結腸壁在 リ
ンパ節, お よび芳結腸 リンパ節 も含 めて一 塊 として切
除 し, 空 腸 と直腸 S 状 部 を側端 に吻合 した。
病理所 見 : 切 除 した小腸 は約 3 m で , 回腸末端部 に
99(1935)
1982Z手12月
図 3 a切
ー
除小腸粘膜面 の シ ェ マ
扁
│
)│
図 5 切 除標本 の組織像
ラングハ ンス型 巨細胞 を含む肉芽腫 が認 め られ る。
1` 皿
一
b , 切 除小腸粘膜面 の 部敷石状外 観 と縦 走演場 を
認 め る.
図 6 術 後注腸造影検査
直腸お よび残存小腸 の粘膜面 に異常を認 めない
図 4 切 除大腸 の粘膜像
敷石状外観 と縦走潰瘍 が認め られ る。結腸壁 は著明
に肥厚 している.
4)。 また壁 は著 明 に肥 厚 していた。
組織学的 には,潰 瘍 を有す る全層性 の炎症 で,多 核
巨細胞 を有す る類上皮細胞 よ りな る肉芽腫 が認 め られ
た (図 5).
術後経過 :下 痢 の回 数 は術後 3∼ 5日 で20回/日 と
最 も多 か ったが,漸 次減少 した。術後 2週 目の小腸造
比較的大 きな不整形 の潰瘍 を認め,縦 走潰瘍,不 整形
stone appearanceを
の小潰瘍 が存在 し,一 部,cobble‐
呈 した。口 側小腸へ行 くに従 い病変 はまば らとな り,
少潰瘍,炎 症性 ポ リープが散在 していた (図3a,b).
結腸 には連続 した地図状の縦走漬瘍 が存在 し,残 存
呈 した (図
stone appearanceを
す る粘 膜 は cobble―
影 で は,残 存 小腸 の粘膜像 に異常 はなか ったが,パ リ
ウ ムは飲用後 5分 で直腸 に達 した。と腸造影 で も直腸,
吻合部 小腸 に異常 な く,正常 の粘膜像 を塁 した (図 6).
術後 12カ月を経た現在,術 前 にみ られた貧血 ,低 蛋 白
血症等 はな く,体 重 は 5 Kg増 加 してい る。
考
黎
Crohn病 は原 因不 明 の疾 患 で,い わ ゆ る難病 に指定
100(1936)
小腸 。大腸に及が広範 な病変を塁 したCrOhn病 の 1例
され , 治 療 としては, ま ず s a l i c y l a z o s u l f a p y r i d i n e や
日
消外会誌 15巻
12号
再 発 が 日側 小 腸 に 多 い こ とか ら十 分 な範 囲 の正 常 腸
steroid剤
を中心 とした内 科的治療 を行 うこ とが原 則
管 の 切 除 が 必 要 とされ て お り, 術 中 内視鏡 検 査 で病 変
とされ, 最 近 では中心静脈栄養や成 分栄養 が合併症 の
な い C r O h n 病 に有効 で あ る と言われてい る1 1 し か し,
の と り残 しが な い よ う確 認 の上 , 正 常 腸 管 の 切 除範 囲
長期 間 にわた る観察例 の報告 では手術 の適応 とな る例
瘍 の 根 治 術 に 準 じた所 属 リンパ 節 の 郭 清 が 望 ま しい と
され て もヽる。.
が高率 で, 2 0 ∼ 3 0 年の経 過 中 に6 0 ∼9 0 % が 手術 を受 け
てい るり, 本 邦 では, 厚 生省特定疾 患 ク ロー ン病調査研
を 口側 , 肛 門側 と も1 0 c m 以 上 とす る こ と, ま た 悪 性腫
む す び
究班 で集計 した C r O h n 病 確診例2 5 6 例中2 1 9 2 1 1 ( 8 6 % )
が 手術 を受 けて い る釣. 手 術 として は b y ‐
p a s s 手術 あ
の
が
い
るいは病 変部腸管 切 除術 行 なわれて る. 近 年 ,
Crohn病 息 者 に ,小 腸広 範 切 除 ,結 腸 亜 全 摘 除 術 を施
中心静脈栄養法や成分栄養法 が発達 し, 術 前 の低栄養
報 告 した ,
や , 広 範 な腸切 除施行 に よる s h o r t b o w e l s y n d r o m e
本稿 を終 るに臨み,御 紹介 いただいた 国立都城病院外科
医長 ・奥村恭久博 士 に深 謝す る。
に対 して も管理 が安全 かつ 容易 とな り, 術 後 の合併症
や死亡 率 が 著 し く低下 し, p o o r d s k 症例 に対 して も病
変部腸管 の一 期的切除術 を行 う傾 向にあ る。 しか し,
病変部腸管切除術 々後 の再発率 は高 く, 笹 川 ら( 1 9 7 8 )
の 本 邦 集 計 で は2 7 % 。, 山 形 ら ( 1 9 7 9 ) の 集 計 で は
小 腸 ,大 腸 に 広 範 囲 に 病 変 を 有 す る15歳,女 子 の
行 して 軽 快 せ しめ た症 例 を経 験 した の で ,そ の 経 過 を
文 献
1)八 尾恒 良,藤 田晃一 ,渕 上忠彦 !ク ロー ン病 の診断
と治療.日 医新報 2950i3-11,1980
2)Wiekhjian,HS,Switz,DM,Watts,D.,et al.:
National cooperative Crohn's disease study;
Factors deteコ
mining recurrence of Crohn's dis‐
4 5 % り, G o l i g h e r ら ( 1 9 7 9 ) の報告 では4 3 % と な ってい
る。. ま た 術後再発 に対す る再手 術 例 も4 2 ∼6 5 % と 高
eatt
が, 内 科的 治療 で寛解 の 得 られ な い症例
率 で あ る6 1 - ゆ
907--913, 1979
に対 しては, 病 変 が進行 して複雑 な合併症 を来たす以
前 に外科的治療 を行 う方 が臨床的 に寛解 を得 られ る可
能性 が高 く, 後 療法 も容易 とな る. 本 症例 では, 肉 眼
的 に直腸 に病変 を認 めず, また若年者 で あ ることか ら,
直腸 を温存 す る術式 を とった。L e f t o n ら ( 1 9 7 5 ) は,
after surgery
Gastroenterology
77:
3 ) 笹 川 力 , 木 村 明 i 疫 学 分科会報告 ― ク , ― ン
病息者 の精密調査成績. 厚 生省特定疾患 ク P ― ン
病調査研究班昭和5 2 年度業績集, 1 9 7 8 , p 6 - 1 1
4)Yamagata,S.: Crohn's disease in Japan.Gas‐
troenterol Jpn 14 i 366--373, 1979
5)Goligher, J.C.: The outcome of excisional
若年 者 で 直 腸 に病 変 の 及 んで い な い結 腸 C r O h n 病 の
operation for prilnary and recurrent Crohn's
初 回手 術 としては, 肛門機能 を温存す る結腸亜全摘除,
disease of the large intestine. Surg Gyn Obst
回腸直腸 吻合 が安全 で有効 な術式 で あ る とし, さ らに
年齢 の若 い時期 に手術 を受 けた方 が予後 が 良好 で あ る
と報 告 して い る。. 本 症 例 で は さ らに, 小 腸 に s k i p
lesionが
散在 し, 回 腸末端 よ り3 m の
小腸広範切除 を
余儀 な くされ, 残 存 小腸 は T r e ■z 靭 帯 よ り約 1 . 5 m を
残す のみ とな った。 しか し, 術 後 は経 目的高 カ ロ リー
栄養法 に よる栄養管理 が可能 で, 下 痢 の 回数 も術後 2
週 目に 6 ∼ 7 回 / 日 とな り, 1 カ 月後 には 4 ∼ 5 回 / 日
の軟便 で, 日常生活 に支障を来 さないまでに改善 され
た。残存腸管 の代償機能 が早 かったのは, 術 前 より切
除部腸管 があま り機能 していなかったため と推察 され
る。
148: 1--8, 1979
6)亀 山仁一 ,佐 々木巌,今村幹雄 ほか :ク ロー ン病 の
外科治療, とくに術後再発 か らみた手術 々式 の検
討,日 消外会誌 14i584-587,1981
7)Alexander・
ヽ
Villiams, J,, Fieldillg, J.T,and
Cooke W.T.:
A comparinon of results Of
excision and bypass for ileal Crohs's disease.
Gut 13:973-975, 1972
8)Homan,W.P.and Dineen,P.: Comparison of
the results Of resection,bypass,and bypass with
exclusion for ileocecal Crohn's disease. Ann
Surg 187:530-535, 1978
9)Lefton, H.B`, Farmer, RG, and Fazlo, V.:
Ileorectal anastomOsis fOr Crohn's disease of
the colon.Gastroenterolo8げ
69:612--617, 1975