IBD治療における抗TNF製剤と免疫調整剤の併用について

はじめに
︶および
Crohn’s disease
松
本
主
之
減弱する二次無効の問題もあり、より治療効果
IBD治療における抗TNF製剤と
免疫調整剤の併用について
クローン病︵CD
を高めるための工夫が求められている。
3)
未だ根本的な治療法はないが、近年インフリキ
シマブ︵IFX
︶やアダリムマブ︵A
infliximab
︶などの抗TNF製剤の登場
adalimumab
により寛解の達成と長期寛解維持が目指せるよ
ない。また、IMの併用は感染症、悪性腫瘍の
発生リスクの増加や血球減少、肝障害、脱毛な
どの副作用を生じる可能性もあり、リスクとベ
ネフィットを考えて慎重に行うべきとされてい
る。そこで、本邦で実施されたADA単独治療
とADA・IM併用治療の多施設共同前向きラ
128
CLINICIAN Ê16 NO. 652
(1046)
DA
効果が認められない一次無効や使用中に効果が
うになってきた。しかしながら抗TNF製剤も
2)
4)
その一つとして、免疫調節薬︵IM
︶といっ
潰瘍性大腸炎︵UC
ulcerative
colitis
immu ︶の併用はIFX使用時の治療効果
た炎症性腸疾患︵IBD
infl
ammatory
bowel
nomodulator
︶は原因不明の難治性疾患であり、患者
を高めることが示されているが、ADA使用時
disease
の生活の質︵QOL︶は大きく損なわれている。 におけるIMの併用効果に関しては明らかでは
1)
IBD 領域
結果を含めて、抗TNF製剤とIMの併用効果
ンダム比較試験︵DIAMONDスタディ︶の
ラ型の抗TNF製剤である。IFXに対する自
無効の発生と密接に関係することが報告されて
︶は、
己抗体であるATI︵ antibody to inf liximab
投与時反応の発生や血中濃度の低下に伴う二次
IFXとIMの併用について
CDを対象としたSONICスタディ、UCを
8)
ている︵図①︶
。実際の臨床効果においても、
M併用例で非併用例よりも有意に低かったとし
と報告している。さらに、ATIの出現率はI
58
IFX使用時には原則としてIMを併用するこ
示している︵図②︶
。以上のようなことから、
IFX単独治療に比較して有意に高い有効性を
きランダム比較試験で、IFXとIMの併用が
対象としたSUCCESSスタディなどの前向
9)
ADAとIMの併用に関する既報の臨床研究
ADAはマウス由来タンパクを含まない完全
対象・方法:IFX を投与した IBD 125例(CD:98例/ UC:27
例)で、ATI の発生率を評価した(観察期間中央値11.5カ月)
。
IFX:infliximab、ATI:antibody to infliximab、IM:
immunomodulator、IBD:inflammatory bowel disease、CD:
(文献 7 より)
Crohn’s disease、UC:ulcerative colitis
らはIFXを使用したIBD 1
いる。 Ungar
25例の検討においてATIが %に出現した
7)
とが推奨されている。
4)
IFXは %マウス由来タンパクを含むキメ
25
(1047)
CLINICIAN Ê16 NO. 652
129
5)
6)
について紹介する。
① IFX の ATI 発生率の推移
୸ਛ૨‫ق‬٫‫ك‬
བੰ૨‫ق‬ౝ‫ك‬
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Q Q Q Q Q Q ヒト型の抗TNF製剤である。ADA投与例に
︶と
おいてもAAA︵ anti-adalimumab antibody
呼ばれる抗体が産生され、血中濃度の低下や二
次無効に至ることが報告されている。AAAの
10)
発生率は %前後と比較的低率であることは報
10
は併用治療で有意に高かったものの、長期的治
比較したメタ解析の結果では、短期的治療効果
方、ADA単独治療とADA・IM併用治療を
の発生率の違いに関しては未だ不明である。一
告されているが、IM併用の有無によるAAA
11)
12)
皆無と考えられた。そこで、本邦多施設前向き
以上のように、海外ではADA単独治療とA
DA・IM併用治療の比較試験に関する報告は
DIAMONDスタディの概要と結果
比較で検討したものは含まれていない。
療とADA・IMの併用治療を前向きランダム
のメタ解析に引用された研究に、ADA単独治
療効果には差が認められていない。しかし、こ
13)
130
CLINICIAN Ê16 NO. 652
(1048)
8&68&&(66
&'621,&
‫ٮ‬3
‫ٮ‬
‫ٮ‬
‫ٮ‬
‫ٮ‬
୸ਛ૨‫ق‬٫‫ك‬
② IFX と AZA の併用効果
IFX:infliximab、AZA:azathioprine、CD:Crohn’s disease、UC:ulcerative colitis
(文献 8 、 9 より)
③ DIAMOND スタディ:試験デザイン
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ౝ৑৏峘བੰ૨‫'&ق‬$,‫ك‬
14)
比較試験としてDIAMONDスタディを行う
こととした。抗TNF製剤やIMの治療歴がな
く臨床的活動指数︵CDAI︶が220∼45
0ポイントの活動期CD患者を対象とし、AD
52
52
A単独療法とADAとアザチオプリン︵AZA
12
26
︶の併用療法にランダム割り付けを
azathioprine
行い 週間の治療効果を比較検討した︵図③︶
。
52
主要評価項目は 週の寛解率とし、副次評価項
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26
目として4週、8週、 週および 週における
26
寛解率、 週および 週の内視鏡所見改善率、
91
週のAAA陽性率とADAトラフ濃度、およ
52 85
び安全性を評価した。最終的に176例︵単独
131
治療群 例、併用治療群 例︶が検討対象とな
71
った。 週の観察期間において薬剤の副作用に
26
15
よる脱落は、単独治療群が1例であったのに対
68
し、併用治療群では 例と有意に多かった。
一方、主要評価項目である 週の寛解率は、
︶解析で単独治療群 ・
ITT︵ intention to treat
8%、併用治療群 ・1%であり、さらに有害
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6 TGN: 6 - thioguanine nucleotides、CDAI:clinical disease activity index、ADA:adalimumab、
(文献14より)
AZA:azathioprine、AAA:anti-adalimumab antibody
(1049)
事象による脱落例を除外したPP︵ per protocol
︶
解析でも単独治療群で ・6%、併用治療群で
・5%となった。すなわち、統計学的にはい
ずれの解析においても、主評価項目に有意差は
認められなかった︵図④︶
。一方、副次評価項
目の 週における内視鏡所見の改善率を比較し
たところ、併用治療群で ・2%、単独治療群
26
で ・8%となり、前者で有意に高値であった。
ただし、 週の内視鏡所見改善率には有意差は
なかった︵図⑤︶
。また、 週のAAA陽性率
52
&KLVTXDUHWHVW
16
72
84
はなかった。
果におけるAZA併用の臨床的効果は明らかで
の観察期間では、CDに対するADAの治療効
はなかった︵図⑥︶
。前記の結果から、1年間
濃度が高い傾向がみられたが、いずれも有意差
療群においてAAA陽性率が低くADAトラフ
とADAトラフ濃度を比較したところ、併用治
26
132
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(1050)
79
63
ADA+AZA
(n=78)
ADA
(n=84)
ADA+AZA
(n=91)
ADA
(n=85)
副作用を発現した患者を除いたPP集団
NRI を用いた ITT 解析
16
)LVKHU’
VH[DFWWHVW
བੰ૨‫كق‬
④ DIAMOND スタディ:26週の寛解率(主要評価項目)
ITT:intention to treat、PP:per protocol、ADA:adalimumab、AZA:azathioprine
(文献14より)
⑤ DIAMOND スタディ:内視鏡所見改善率(副次評価項目)
内視鏡所見の改善(Δ SES-CD ≧ 8 または SES-CD ≦ 4 )
৔ଳྰਚৄ峘੝ఒ૨‫كق‬
$'$
$'$$=$
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100
3 3 Q Q Q Q 90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
:
:
SES-CD:simple endoscopic score for Crohn s disease、ADA:adalimumab、AZA:azathioprine
(文献14より)
⑥ DIAMOND スタディ:26週の AAA 陽性率・ADA トラフ濃度(副次
評価項目)
AAA 陽性率
&KLVTXDUHWHVW
¡JP/
ADA トラフ濃度
8QSDLUHGWWHVW
3 3 ž
ž
13.2%
4.0%
ADA
(n=76)
ADA+AZA
(n=75)
ADA
(n=76)
AAA:anti-adalimumab antibody、ADA:adalimumab、AZA:azathioprine
133
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ADA+AZA
(n=75)
(文献14より)
(1051)
おわりに
IFXを用いたIBDに対する抗TNF療法
では、IM併用の意義や必要性を証明するデー
タが集積されている。これに対し、DIAMO
NDスタディではADAを用いたCD治療にお
けるIMの併用効果は明らかでなかった。すな
わち、IM併用の観点からみた場合、IFXと
ADAは必ずしも同じではないと考えられる。
ADAとIMの併用療法の長期成績について今
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後さらに解析する必要はあるが、本研究により
本邦から世界に貴重なエビデンスを発信するこ
とができたと考えられる。ご協力いただいた全
国の先生方に深謝したい。
︵岩手医科大学医学部
内科学講座
消化器内科消化管分野
教授︶
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