MARKET INSIGHTS Market Bulletin 2015年9月18日 FOMC:取り得る限り最善の選択肢; 適切な政策判断は資産市場にプラス 要旨 • FRBは利上げを見送ったが、遅くとも向こう半年以内に利上げを開始する とのメッセージを市場に送った • 中国や新興国の動向を注視する姿勢は示したものの、仮想的に①「海外 情勢によって利上げ開始の時期は見通せなくなった」、あるいは逆に②「海 外情勢は米国に全く影響を与えないために利上げする」という2つの極端な ケースを考えると、両者の間を通す、今回の政策決定は最善と考えられる • FRBも金融市場も引き続き、米国(とおそらくは中国や新興国)の経済・金 融指標を眺めつつ、利上げ開始の時期を見極める必要がある。したがって、 短期的には今までと同様、経済指標に振らされる展開が続くだろう。しかし ながら、中長期的には適切な政策判断はリスク資産にとってプラスと考える 利上げは見送られたが、なくなったわけではない 米連邦準備制度理事会(FRB)は16-17日に、連邦公開市場委員会(FOMC) を開き、ゼロ金利政策の据え置きを決定しました。政策決定に関する声明と同 Yoshinori Shigemi Global Market Strategist Market Insights 時に公表されたFOMC参加者による政策金利の見通しによれば、全17人中 16人のメンバーは依然、米国経済のさらなる拡大に伴って、年内もしくは来年 の(おそらくは)早い時期の利上げ開始が必要と考えています。したがって、利 上げは遅くとも来年3月頃までには開始されるものと見られます。 米ダウ平均株価は、声明の発表直後には前日終値比200ドル近い水準まで 上 昇 を 見 せ ま し た が 、 そ の 後 は 売 り に 押 さ れ 、 前 日 比 65.21 ド ル 安 の 16,674.74ドルで取引を終えました。一方の債券市場では、米10年国債利回 りは発表直後から低下し、前日比0.10%低い2.19%で取引を終えています。 また、ドルは対円、対ユーロなどの主要通貨に対して下落し、ドル・インデック ス(ドルの実効レート)は前日比1%近い下落となりました。 Guide to the Markets Japan のダウンロードはこちらから www.jpmorganasset.co.jp/guide 本稿では、まず、今回の政策決定について確認し、続いて、今後の資産市場 の動向について検討します。 MARKET BULLETIN | SEPTEMBER 18, 2015 取り得る限りの最善の選択肢:上下を仮想してみる 今回の政策決定について、重要な点は次の2つに要約されます; 1. FRBは、海外の経済情勢や世界の金融市場の動向を注視している 2. しかし、利上げが必要なほどに米国経済は拡大を続けると考えている 言い換えれば、幅広い金融市場における変動性の高まりやその背景と考 えられる中国や新興国経済への懸念を受けても、米国経済が労働市場を 中心に拡大を見せるとの見方に変わりはないということです。 ここで少し仮想してみましょう。仮に、①FRBが見通しを下方修正し、「米国 経済は堅調だが、中国や新興国経済が相当に気がかりなため、利上げは 当分、見込めない」としていたら、金融市場はどのような反応を示していた でしょうか。引き締めがないことはプラスかもしれませんが、FRBのそうした 悲観的な見方に金融市場は大幅な落胆を見せていたと推測されます。 今度は反対に、仮に、②FRBが、「海外の経済情勢や世界の金融市場が 米国経済に与える悪影響は小さいと考えられ、米国の労働市場が完全雇 用に近づいているために、利上げを行う」としていたら、どうでしょうか。 金融市場の変動性が高止まりする背景がFRBによる利上げ観測にあり、 ドル高や資源価格安が新興国や資源国の景気に下押し圧力をかけたり、 ドル高が人民元高につながって中国が競争力を失ったりしているとすれば、 さらなるドル金利の上昇やドル高を招きかねないFRBの利上げは懸念材 料に映っていた可能性があります。 また、最近の金融市場は、8月末の同時株安を経た変動性の高まりを反映 し、FRBが利上げせずとも引き締めが進んでいたと言えます。例えば、米 国のハイ・イールド債券や、ドル建ての新興国債券の利回りはいずれも FRBの利上げ1回に相当する分程度に上昇を見せていました。既に、利上 げは1度、実施されている状況とも言い換えられます。 表1:FOMCメンバーによる見通し中央値(2015年9月FOMC時点) 2015年 2016年 2017年 2018年 長期 GDP成長率(%) 6月時点 2.1 1.9 2.3 2.5 2.2 2.3 2.0 - 2.0 2.0 失業率(%) 6月時点 5.0 5.3 4.8 5.1 4.8 5.0 4.8 - 4.9 5.0 インフレ率(%) 6月時点 0.4 0.7 1.7 1.8 1.9 2.0 2.0 - 2.0 2.0 コア・インフレ率(%) 6月時点 1.4 1.3 1.7 1.8 1.9 2.0 2.0 - - 政策金利(%、年末) 6月時点 0.375 0.625 1.375 1.625 2.625 2.875 3.375 - 3.50 3.75 出所:米連邦準備制度理事会、J.P.モルガン・アセット・マネジメント 注:インフレ率およびコア・インフレ率は、個人消費支出に関する価格指数(PCEデフレーター)。 コアは、食品・エネルギーを除く指数。 2 S E P ’ 15 F O M C M E E TI N G : THE F E D S TA N D S S TI L L A S THE M A R KE T TI G HTE N S MARKET BULLETIN | SEPTEMBER 18, 2015 このように考えると、今回の政策決定は「取り得る中では最良の選択肢」と 評価できるでしょう。 米国のグローバル企業は、主戦場である中国や新興国の景気がしばらく 停滞を続ける可能性を認識しているはずです。そうした中で、今回の政策 決定が、ドル金利の上昇やドル高を通じて、自社の調達コストやドル換算し た自社の海外業績のみならず、これらの地域の経済活動にも追加的な圧 力をかけなかったという点は安心材料として作用します。米国企業による 業績の見通しは、米国国内の雇用に直結するために重要です。 また、大局的に考えると、現時点において、グローバルな経済・政策運営 の観点から重視すべき点は3つあります; 1. (成熟期に入り、ドル高・資源安が響く)米国の景気拡大を持続させる 2. (ドル高でストレスを受けている)新興国企業のドル調達を円滑にする 3. (ドル高・資源安が響く)中国・新興国・資源国の景気刺激を可能にする 経済政策は決して万能ではなく、現時点では手段も限られ、しかも実体経 済は政策にかかわらず自律的に動いていく「生き物」と考えられますが、今 回の政策決定は、上記3つを最大限にサポートするものと言えるでしょう。 図1:米国ハイ・イールド債券市場とドル建て新興国債券市場の動向 7.75% 7.50% 7.25% 7.00% 米国ハイ・イールド債券 6.75% ドル建て新興国国債 6.50% ドル建て新興国社債 6.25% 6.00% 5.75% 5.50% 5.25% 5.00% 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 出所:Merrill Lynch、J.P.モルガン、J.P.モルガン・アセット・マネジメント 期間:2015年1月1日から2015年9月17日まで 3 S E P ’ 15 F O M C M E E TI N G : THE F E D S TA N D S S TI L L A S THE M A R KE T TI G HTE N S MARKET BULLETIN | SEPTEMBER 18, 2015 中長期的にリスク資産は買い、目先は変動性残る 総じて、今回のFRBの政策決定は、 1. 景気の持続的な拡大により、利上げはまもなく必要になるとの前向き な見通しを維持するとともに、 2. (労働市場が完全雇用に近づく中で、経済の過熱を抑制するはずの) 足元の金融環境の引き締まりを考慮した ⇒利上げせずとも、金融市場を通じて少し引き締めが進んだために、 今すぐの利上げは必要ないとの判断をした という点で、米国経済のみならず、米国以外の経済や世界の金融市場に とっても最善の判断であったと見られます。中央銀行による適切な政策判 断は、中長期的な資産価格の動向にとってはプラスに働きます。 ただし、短期的には、金融市場のボラティリティは高止まりすると見られま す。イエレンFRB議長は今朝の記者会見で、まもなくの利上げに自信を見 せる一方、「中国や新興国の情勢を注視」すると共に、「(そうした気がかり を相殺するように、見込んだとおりの)労働市場の拡大が確認できれば、物 価の上昇を(再度)確信することができ、これをもって利上げに進むことが できる」という趣旨の発言をしています。 これを逆に捉えると、FRBも金融市場も引き続き、米国(とおそらくは中国 や新興国)の経済・金融指標を眺めつつ、利上げ開始の時期を見極める必 要があるということでしょう。経済指標次第で、金融政策に関する見通しが ゆらめく状況はこれからも続きそうです。こうした状況はおそらく今回の FOMCで利上げが決定されていたとしても同様なはずです。なぜならば、 利上げをしていた場合には、「利上げして米国や中国、新興国は大丈夫な のか?」という点を確認しなければならないためです。 日本の個人投資家への示唆 日本の個人投資家は引き続き、長期の視点に立ち、分散投資をすることが 肝要と考えます。また、投資信託の為替ヘッジについても同様で、「ヘッジ なし型」に偏らず、「ヘッジあり型」にも分散を進めることが重要と考えます。 なぜならば引き続き、日米の金融政策の動向によって、円相場のボラティ リティも高止まりすることが予想されるためです。 4 S E P ’ 15 F O M C M E E TI N G : THE F E D S TA N D S S TI L L A S THE M A R KE T TI G HTE N S MARKET INSIGHTS 本資料は、JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が作成したものです。2015年9月18日時点におけるJPモルガン・アセッ ト・マネジメントの見通しを含んでおり、将来予告なく変更されることがあります。「JPモルガン・アセット・マネジメント」は、JPモル ガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスのブランドです。 過去のパフォーマンスは将来の成果を保証するものではありません。本資料に記載のすべての予測は例示目的であり、投資 の助言や推奨を目的とするものではありません。意見または推計、予測、金融市場のトレンドに係る記載は、作成時点の市 場環境下での我々の判断に基づいており、将来予告なく変更される場合があります。記載された情報の正確性および完全 性を保証するものではありません。本資料はいかなる金融商品の売買も推奨するものではありません。見通しや投資戦略は すべての投資家に適合するものではありません。特定の証券、資産クラス、金融市場の関する記載は例示を目的とするもの であり、これらの推奨または投資、商品、会計、法務、税務に係る助言を目的とするものではありません。JPモルガン・チェー ス・アンド・カンパニー・グループはこれらに関して責任を負うものではありません。記載された見通しはJPモルガン・アセット・マネ ジメントによるものであり、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー・グループの他のグループ会社または他の部門の意見を必ず しも反映していません。 「J.P.モルガン・アセット・マネジメント」は、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスの ブランドです。本資料は、以下のグループ会社により発行されたものです。 香港:証券先物委員会の監督下にあるJFアセット・マネジメント・リミテッド、JPモルガン・ファンズ(アジア)リミテッド、JPモルガン・ アセット・マネジメント・リアル・アセット(アジア)リミテッド、インド:証券取引委員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメ ント・インディア・プライベート・リミテッド、シンガポール:金融管理局の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(シンガ ポール)リミテッド、JPモルガン・アセット・マネジメント・リアル・アセット(シンガポール)プライベート・リミテッド、台湾:金融監督管 理委員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(タイワン)リミテッド、JPモルガン・ファンズ(タイワン)リミテッド、日 本:金融庁の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社(金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第330 号 加入協会:日本証券業協会、一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会)、韓国:金融委 員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(コリア)カンパニー・リミテッド(韓国預金保険公社による保護はありませ ん)、オーストラ リア:証券 投資委員会の監督下に あるJPモルガ ン ・アセ ット・ マネジ メ ン ト(オーストラ リ ア)リミ テッ ド (ABN55143832080)(AFSL376919)(Corporation Act 2001(Cth)第761A条および第761G条で定義される販売会社に配布が限 定されます) 本資料は、配布される国・地域の法令や規則によって、受取人が他者に転送したり、他者に見せたりすることはできない場合 があります。 投資にはリスクが伴います。投資資産の価値および得られるインカム収入は上下するため、投資家の投資元本が確保される ものではありません。投資判断する際は、ご自身で調査、評価するか、もしくは投資助言を受けるようにしてください。本資料 が配布され、投資判断を行う国・地域で適用される法令諸規則に従う責任は受取人ご自身にあります。 © 2015 JPMorgan Chase & Co. jpmorganasset.co.jp/mi
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