MARKET INSIGHTS Market Bulletin 2015年8月18日 インド:モディ政権の滑り出しは上々 要旨 • インドでモディ政権が誕生してから1年余りが経過した。筆者はモディ首相 の取り組みを概ね期待通り、もしくは期待を上回るものだったと考えている • 今後、海外直接投資の拡大や改革の進展を背景に、インドは相対的に高 めの経済成長を遂げると見られる。インドの中長期的な見通しについて、 筆者は引き続き強気の見方を維持している • インド株式のバリュエーションは過去平均よりも高い水準となっており、や や割高感がある。また、企業業績は期待外れの結果に終わっていることか ら、年初来のインド株式は上値の重い展開となっている。株式市場全体が 上昇していくには、モディ政権が改革をより一層推進し、公約を実現してい くことが必要となる モディノミクスの最新動向 インドでモディ政権が誕生してから、1年余りが経過しました。 モディ首相は経済通として知られ、グジャラート州首相時代、インフラ整備や 外資企業誘致を積極的に行い、高い経済成長を実現しました。こうした実績や 今後への期待も含め、同氏の経済政策は「モディノミクス」と呼ばれています。 Tai Hui これまでのところ、筆者はモディノミクスについて、概ね期待通り、もしくは期待 Global Market Strategist Market Insights を上回るものだったと考えています。就任してわずか1年余りで多くの計画が Ian Hui 実行に移されました。 Global Market Strategist Market Insights モディ首相は長期的な視点で、インドの構造問題に取り組んでいます。首相と Akira Kunikyo して5年の任期があるため、短期的な成果を追うのではなく、着実にインドのビ Global Market Strategist Market Insights ジネス環境を改善させていく方針と考えられます。 Anthony Tsoi, CFA 本稿では、モディ政権の取り組みについて確認し、最後に株式市場への影響 Market Analyst Market Insights Guide to the Markets Japan のダウンロードはこちらから www.jpmorganasset.co.jp/guide について考えます。 MARKET BULLETIN | AUGUST 18, 2015 改革は着実に進んでいる 多くの改革がこれまで実施されてきましたが、過去1年に行われた改革の 中で、成果を挙げたと考えられるものを以下に列挙します。 1. 「メーク・イン・インディア」 「メーク・イン・インディア」とは、海外企業の誘致政策であり、海外企業の製 造拠点の一部を、インド国内に設立してもらおうという政策です。防衛・保 険・鉄道の分野で、海外直接投資(FDI)の上限が引き上げられ、海外から の投資が増加しました。また、建設計画に関し、海外からの投資に課せら れる最低投資金額が引き下げられました。こうした規制緩和により事業の 効率性改善や、インフラ整備の拡大が見込まれます。 インドの生産活動は、依然として電力や港湾施設などの不足が足かせと なっており、前年比1ケタ程度の伸びに留まっています。しかし、インドは豊 富な労働力を武器に、自らを製造業の主要拠点に変貌させる可能性を 持っており、「メーク・イン・インディア」では生産活動を年率12~14%程度 押し上げることを目指しています。 2. 投資プロジェクト関連の行政手続きの見直し 政府は、行政手続きの改革にも着手しました。事業認可までの時間短縮を 狙い、また事業設立の手続きが1ヵ所で行えるよう、オンラインのビジネス ポータルサイトを導入しました。図1に示すように、長期にわたる低迷期を 経て、投資プロジェクトの新規発表額は増加傾向にあります。特に、直近 の四半期では、民間による投融資額の増加が顕著です。 図1:投資プロジェクトの新規発表額 10億ルピー 9,000 7,500 政府による投融資 民間による投融資 6,000 4,500 3,000 1,500 0 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 '14 '15 出所:Guide to the Market Japan 3Q P28、Centre for Monitoring Indian Economy, CLSA, J.P. Morgan Asset Management 2 I N D I A : G E T O F F TO A G O O D S TA R T MARKET BULLETIN | AUGUST 18, 2015 3. エネルギー分野 インド政府は、原油価格の大幅下落を受けて、ディーゼル燃料の補助金削 減を行いました。これにより、インドの財政赤字を削減し、浮いた予算の一 部は投資に当てられました。また、ガソリン価格も国際相場に基づいて柔 軟に変更できるようになり、インドのエネルギー企業が採算割れに陥るとい う懸念は後退しています。 4. 税制改革 政府は、複雑な税制を刷新し、企業にとって良好なビジネス環境の整備に 努めてきました。昨年、大手海外企業がインド政府を相手取り行った税務 訴訟では、企業側に有利となる判決が下されています。これは、海外投資 家に対し、インドの劇的な変化を印象付ける出来事でした。 しかしながら、4月後半、投資家に対する突然の課税請求が、過去に遡及 する形で行われました。海外投資家からインド政府へ多くの苦情が寄せら れるなど、政府の税制改革への本気度が問われています。 3 I N D I A : G E T O F F TO A G O O D S TA R T MARKET BULLETIN | AUGUST 18, 2015 投資への示唆 インドの中長期的な見通しについて、筆者は引き続き強気の見方を維持し ています。モディ政権の改革は今後も着実なペースで進められるものと考 えています。 モディ政権の改革は様々な分野に及んでおり、これまでのところは汚職ス キャンダルもなく、幸先の良い滑り出しを見せたといえます。今後、海外直 接投資の拡大や改革の進展を背景に、インドは相対的に高めの経済成長 を遂げると見られます。 株式の投資家にとっての目先の問題は、企業収益が景気回復に追随する までにどのくらいの時間がかかるのか、ということです。恐らく市場は当初、 改革の進展や企業収益の改善を期待しすぎたように思われます。実際、イ ンド株式のバリュエーションは過去平均よりも高い水準となっており、やや 割高感があります(図2)。また、企業業績は期待外れの結果に終わってい ることから、年初来のインド株式は上値の重い展開となっています。 一方、一部のセクターにおいては、改革の進展が株価上昇に繋がっている ことが確認できます。例えば金融セクターを見ると、農村部を対象とし銀行 口座の普及を進める改革が実施されており、この影響で、同セクターは比 較的良好なパフォーマンスをみせています。株式市場全体が上昇していく には、モディ政権が改革をより一層推進し、公約を実現していくことが必要 となるでしょう。 図2:株価収益率(PER) 予想PER、6月30日時点 41.7 30倍 20倍 37.7 16.8 16.4 13.9 15.4 12.4 10倍 12.5 12.1 14.2 11.7 11.3 15.0 16.1 13.7 13.8 11.8 16.3 16.1 過去10年のレンジ 過去10年の平均 直近 36.7 18.2 16.0 18.7 16.3 15.4 14.5 9.7 10.6 12.4 12.7 10.3 15.3 9.8 9.7 9.5 0倍 米国 欧州 アジア (英国を除く)(日本を除く) 新興国 ASEAN オースト 中国A株 ラリア 中国 香港 インド 日本 韓国 台湾 ブラジル メキシコ トルコ 出所:Guide to the Market Japan P38、S&P Dow Jones Indices、MSCI、China Securities Index、FactSet、I/B/E/S、J.P. Morgan Asset Management 4 I N D I A : G E T O F F TO A G O O D S TA R T MARKET INSIGHTS 本資料は、JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が作成したものです。2015年8月18日時点におけるJPモルガン・アセッ ト・マネジメントの見通しを含んでおり、将来予告なく変更されることがあります。「JPモルガン・アセット・マネジメント」は、JPモル ガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスのブランドです。 過去のパフォーマンスは将来の成果を保証するものではありません。本資料に記載のすべての予測は例示目的であり、投資 の助言や推奨を目的とするものではありません。意見または推計、予測、金融市場のトレンドに係る記載は、作成時点の市 場環境下での我々の判断に基づいており、将来予告なく変更される場合があります。記載された情報の正確性および完全 性を保証するものではありません。本資料はいかなる金融商品の売買も推奨するものではありません。見通しや投資戦略は すべての投資家に適合するものではありません。特定の証券、資産クラス、金融市場の関する記載は例示を目的とするもの であり、これらの推奨または投資、商品、会計、法務、税務に係る助言を目的とするものではありません。JPモルガン・チェー ス・アンド・カンパニー・グループはこれらに関して責任を負うものではありません。記載された見通しはJPモルガン・アセット・マネ ジメントによるものであり、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー・グループの他のグループ会社または他の部門の意見を必ず しも反映していません。 「J.P.モルガン・アセット・マネジメント」は、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーおよび世界の関連会社の資産運用ビジネスの ブランドです。本資料は、以下のグループ会社により発行されたものです。 香港:証券先物委員会の監督下にあるJFアセット・マネジメント・リミテッド、JPモルガン・ファンズ(アジア)リミテッド、JPモルガン・ アセット・マネジメント・リアル・アセット(アジア)リミテッド、インド:証券取引委員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメ ント・インディア・プライベート・リミテッド、シンガポール:金融管理局の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(シンガ ポール)リミテッド、JPモルガン・アセット・マネジメント・リアル・アセット(シンガポール)プライベート・リミテッド、台湾:金融監督管 理委員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(タイワン)リミテッド、JPモルガン・ファンズ(タイワン)リミテッド、日 本:金融庁の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社(金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第330 号 加入協会:日本証券業協会、一般社団法人投資信託協会、一般社団法人日本投資顧問業協会)、韓国:金融委 員会の監督下にあるJPモルガン・アセット・マネジメント(コリア)カンパニー・リミテッド(韓国預金保険公社による保護はありませ ん)、オーストラ リア:証券 投資委員会の監督下に あるJPモルガ ン ・アセ ット・ マネジ メ ン ト(オーストラ リ ア)リミ テッ ド (ABN55143832080)(AFSL376919)(Corporation Act 2001(Cth)第761A条および第761G条で定義される販売会社に配布が限 定されます) 本資料は、配布される国・地域の法令や規則によって、受取人が他者に転送したり、他者に見せたりすることはできない場合 があります。 投資にはリスクが伴います。投資資産の価値および得られるインカム収入は上下するため、投資家の投資元本が確保される ものではありません。投資判断する際は、ご自身で調査、評価するか、もしくは投資助言を受けるようにしてください。本資料 が配布され、投資判断を行う国・地域で適用される法令諸規則に従う責任は受取人ご自身にあります。 © 2015 JPMorgan Chase & Co. jpmorganasset.co.jp/mi
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