World View 3Q 2015~米国および欧州:株式・債券市場の投資妙味

MARKET INSIGHTS
World View 3Q | 2015
2015年9月18日
米国および欧州:
株式・債券市場の投資妙味
要旨
• 米国株式は、目先、上値が重いものと見られる。しかし、長期的には米国
株式は回復が期待される企業業績を背景に、上昇していくと見ている。利
上げについても、株価上昇を阻むことはない見込み
• 米国債券については、FRBの利上げ開始に伴い、金利上昇(価格下落)圧
力がかかる可能性がある。しかし、利上げペースが緩やかであれば、市場
における過度な混乱は回避されると見ている
• 欧州においては、企業業績の下方修正は終わりを迎えたと見られる。既に
多くの企業において業績の反転が見られている。中でも銀行セクターは、
貸出先企業の財務改善によって、大きく業績が改善する可能性がある
市場環境は引き続き不透明
今年の金融市場においては、実に様々なイベントが起こりました。例えば、低
迷する原油価格、欧州中央銀行(ECB)による債券買い入れ策の導入、悪天
候による米国経済の減速、ギリシャ情勢の混迷、中国人民元の基準レート引
き下げ、中国株式の急落などが挙げられます。
しかし、これだけのイベントを経た後でも、今後の市場環境は不透明なままで
す。それは年内のどこかで、連邦準備理事会(FRB)による利上げが予想され
るからです。この影響は米国のみに留まらず、世界経済全体に影響を与える
Maria Paola Toschi
要因となります。
Global Market Strategist
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一方で欧州に目を向けると、ECBによる債券買い入れ策の導入によって、一
Samantha Azzarello
時危ぶまれていた「デフレ化」や「日本化」への突入は一旦回避されたように
Global Market Strategist
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見えます。しかし、ギリシャ情勢の混迷は、欧州が引き続き火種を抱えている
Akira Kunikyo
ことを明らかにしました。
Global Market Strategist
Market Insights
本稿では、米国および欧州の現状を確認し、それぞれの株式や債券への投
資について考えます。
Guide to the Markets Japan
のダウンロードはこちらから
www.jpmorganasset.co.jp/guide
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米国:ドル高と原油安による下押し圧力は減退
2015年の米国のGDP成長率は、第1四半期が前期比年率0.6%、第2四半
期が同3.7%となりました。第1四半期の減速は悪天候による一時的なもの
でしたが、依然として景気の拡大ペースは緩やかです。ドル高による企業
の海外業績の目減りと、原油安を受けた投資の減少は、依然として米国経
済の足を引っ張っています。
しかしながら、今回のドル高局面は終盤に差し掛かった可能性があります。
米国の利上げを見越した資金移動および、その結果としてのドル高は相当
程度、織り込まれたと考えています。今後、ドル高による成長下押しの圧力
は減退していくでしょう。ただし、その圧力が実際に剥落していくのは、現在
のドル高の影響が実体経済に波及しきった後になると考えられます。例え
ば、ドル高の進行を受けて米輸出企業の収益性の低下が見られたとしても、
企業が輸出品の原料調達先を変更するには時間を要します。
原油安はこれまでのところ、マクロ経済全体には負の影響を与えてきまし
た。企業によるエネルギー関連の投資が減少したからです。
しかし、長期の時間軸でみれば、原油安はマクロ経済にとってプラスの材
料です。米国の一般的な人々にとって、ガソリン関連の支出は毎月支払わ
なければならない『税金』のようなものです。原油安を通じてガソリン価格が
低下をすれば、消費者の実質的な所得は増加することとなります。そして
実質的な所得の増加は、消費の増加に繋がります。
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図1:主要中央銀行の政策金利とドル・インデックス
(1970年1月1日~2015年9月11日)
21%
150
18%
ドル・インデックス
130
ドル高
15%
110
12%
90
70
9%
ドイツ連銀
(1998年まで)
50
ドル安
FRB
6%
30
ECB
(1999年~)
10
3%
日本銀行
0%
'70 '72 '74 '76 '78 '80 '82 '84 '86 '88 '90 '92 '94 '96 '98 '00 '02 '04 '06 '08 '10 '12 '14
出所:米連邦準備制度理事会(FRB)、ドイツ連邦銀行、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行、Intercontinental Exchange、
Thomson Reuters 、Bloomberg、J.P. Morgan Asset Management
注:ドル・インデックスは、米ドルの貿易加重為替レート(実効為替レート)であり、対象通貨はユーロ、日本円、英ポンド、
カナダ・ドル、スウェーデン・クローナ、スイス・フランで構成される。データは2015年9月14日時点で取得可能な最新の
ものを掲載。
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米国株式:企業業績を背景に長期的に強気
筆者は、長期的に米国株式に対して強気ですが、目先は上値が重いもの
と見ています。
足元のS&P500の予想PER(株価収益率)は現在15.4倍で、過去10年間
の平均13.9倍を上回っています。市場のバリュエーションは若干割高であ
るため、目先において、投資家はなかなか上値を追いづらいと見ています。
一方で、今後予定されている一連の利上げは、株価上昇を阻む要因には
ならないと見ています。過去3回の利上げサイクルを見ると、図2にある通り、
S&P500は利上げ開始から最後の利上げまでの間に上昇しています。具
体的には、1993年~1995年の利上げサイクルでは若干上昇し、それ以外
の2回のサイクルでは大幅に上昇しました。長期的には、今回も利上げが
株価上昇を阻むことはなく、米国株式は回復が期待される企業業績を背景
に、上昇していくと見ています。
米国債券:利上げペースが重要
過去3回の利上げサイクルを見ると、一般に予想される通り、10年国債利
回りは上昇しています。今後、債券価格の先行きを見通すには、利上げ
ペースが最も重要です。利上げペースが緩やかであれば、市場における
過度な混乱は回避されると見ています。
ただし、FRBは短期金利を引き上げることはできますが、長期金利を完全
にコントロールすることはできません。今後、インフレ率は緩やかな水準に
留まると見られることから、米国債に対する投資家の需要は一定程度見込
まれます。欧州や日本で大規模な金融緩和が行われ、米国以外の金利が
低水準で推移している中では尚更です。これらはFRBの行動に関係なく、
長期金利の上昇を抑制すると考えています。
図2:過去の米利上げ時の株価
データ期間:1993年11月~1995年5月
7.0%
550
利上げ期間
米政策金利
(左軸)
6.0%
データ期間:1999年3月~2000年9月
7.0%
1550
利上げ期間
1450
6.0%
5.0%
500
4.0%
475
1350
利上げ期間
1500
米政策金利
(左軸)
525
データ期間:2004年3月~2006年9月
6.0%
米政策金利
(左軸)
4.0%
1250
2.0%
1150
1400
1350
5.0%
1300
3.0%
S&P500
(右軸)
450
S&P500
(右軸)
S&P500
(右軸)
2.0%
425
Nov-93 Feb-94 Jun-94 Sep-94 Dec-94 Apr-95
’93/11
‘94/2
‘94/6
‘94/9
‘94/12
‘95/4
1200
4.0%
’99/3
‘99/6
‘99/10
出所:FactSet、Standard & Poor’s、J.P. Morgan Asset Management
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1250
‘00/1
‘00/4
‘00/8
1050
0.0%
’04/3
‘04/8
‘05/1
‘05/6
‘06/4
‘06/9
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欧州:ギリシャ情勢は一旦落ち着き
ギリシャとEU・IMFの間で合意が成立したことで、ギリシャのユーロ圏離脱
は、少なくとも当面回避されました。約860億ユーロ規模の第3次支援に関
する交渉が再開され、投資家はこの決定を好感しました。
今回、市場はギリシャ情勢を巡って右往左往しましたが、最終的には、1国
の機能不全がユーロ圏の金融システム全体に波及する事態は未然に防
がれました。これは、2010年と11年の欧州債務危機を反省として、加盟国
同士が様々な金融支援を行うための法整備がなされていたからです。例え
ば、欧州金融安定ファシリティ(EFSF)は、ギリシャへのつなぎ融資を提供
することによって、ギリシャが無秩序にデフォルトに陥ることを回避させまし
た。ECBも、緊急流動性支援(ELA)を通じてギリシャの銀行の資金繰りを
支え、債券買い入れ策はユーロ圏の国債市場の混乱を防ぐ手立ての1つ
となりました。
図3:欧州の政策金利と10年国債利回り
(2010年1月1日~2015年9月11日)
16%
15%
14%
13%
12%
11%
10%
9%
ギリシャ
8%
7%
6%
5%
4%
ポルトガル
米国
スペイン
イタリア
フランス
ドイツ
主要政策金利
中央銀行
預金金利
3%
2%
1%
0%
-1%
'10
'11
'12
'13
'14
'15
出所:(左)欧州中央銀行(ECB)、Bloomberg、J.P. Morgan Asset Management (右)
国際通貨基金(IMF)、J.P. Morgan Asset Management
注:(左)主要政策金利は、主要リファイナンス・オペレーション適用金利を、中央銀行預金
金利は、預金ファシリティ適用金利をそれぞれ指す。
データは2015年9月14日時点で取得可能な最新のものを掲載。
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欧州株式:銀行セクターに強気
直近の決算は企業業績の好調さを確認する結果となり、欧州企業の増益
率は前年比10%程度の伸びとなりました。セクター別では、プラス寄与した
セクターとして資本財や金融セクターがあり、マイナス寄与したセクターは
エネルギー・セクターがあります。
欧州では、以前から見られていた企業業績の下方修正は終わりを迎えた
と見られます。既に多くの企業において業績の反転が見られています。特
に、景気循環セクターは欧州経済の持ち直しの恩恵をより受けるでしょう。
中でも銀行セクターは、貸出先企業の財務改善によって、大きく業績が改
善する可能性があります。
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本資料は、JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が作成したものです。2015年9月18日時点におけるJPモルガン・アセッ
ト・マネジメントの見通しを含んでおり、将来予告なく変更されることがあります。「JPモルガン・アセット・マネジメント」は、JPモル
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