株式市場が実体経済に近づく~低金利とボラティリティの高止まりは続く

MARKET INSIGHTS
Market Bulletin
2015年7月9日
中国:株式市場が実体経済に近づく
低金利とボラティリティの高止まりは続く
要旨
• 昨日8日の中国株式市場は大幅な下落となり、日本や米国の株式市場に
も波及した。9日の日本株式市場は乱高下したものの、反発して引けた
• 金融市場は、中国経済がそう遠くないうちに、4-5%の成長に鈍化していくこ
とを織り込み始めるだろう
• 中国を含む世界経済の低成長は低金利や低利回りの環境を正当化する。
低利回り環境の下でも、ボラティリティの高止まりは続くと見られ、分散投資
や、プロの目利きによる資産選択のアドバイスがカギを握る
中国発の株価下落が世界の金融市場に波及
昨日8日の中国株式市場は大幅下落となり、日本や米国の株式市場にも波及
しました。8日の上海総合指数は、前日比5.9%下落の3,507.192ポイントとな
り、6月12日の高値からは47.3%低い水準になっています。日経平均株価は
前日比638円95銭安の19,737円64銭で取引を終えました。
Yoshinori Shigemi
Global Market Strategist
Market Insights
一方、本日9日については一時は前日比600円以上、値を下げる場面もありま
したが結局、前日比117円86銭高の19,855円50銭で取引を終えています。
中国当局はこのところの株式市場の急落を受け、矢継ぎ早に株価維持政策を
打ち出しました。今月1日には証券会社の信用取引業務に関する規制緩和を
発表し、3日には新規株式公開(IPO)を抑制する方針を示すと共に、信用取
引の与信業務を行う中国証券金融の資本を4倍強に引き上げることを明らか
にしました。さらに、先週末の4日には、大手証券会社21社に対して、総額
1,200億元(約2兆4,000億円)を株式市場に投じるように命じました。
しかしながら、いずれも意図したどおりの成果は上げられていません。
Guide to the Markets Japan
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www.jpmorganasset.co.jp/guide
MARKET BULLETIN | JULY 9, 2015
過剰な生産能力のため、設備投資の需要はない:
緩和マネーは実体経済ではなく、株式市場に流れる
筆者は、5月13日付けレポート『4つのくちばし:株価と実体経済 ボラティリ
ティの高い状況は続く』の中で、日本に続いて欧州、中国が相次いで大規
模な金融緩和をしている状況を受け、「株価(期待)は走っているものの、
実体経済(現実)とのかい離が拡大している・・・弾薬が尽きつつある中、だ
んだんと勝ち目の薄い作戦が実施されているように思える」と述べました。
年初以降の主要な月次指標や、特に前期比で見たGDP成長率を見る限り、
中国経済は急速なスピードで鈍化を続けています。このスピードは、中央
政府の想定をはるかに上回るものであったと見られ、当局は矢継ぎ早に、
①政策金利や預金準備率の引き下げ=金融緩和、②鉄道建設の加速=
公的投資の拡大などを発表・実施してきました。
金融緩和の主な目的は、民間部門の投資を刺激することです。しかし、卸
売物価指数でのデフレが3年以上も続いているように、企業部門の生産能
力は国内の需要を大幅に上回っています。金融緩和で投資を刺激しようと
しても、企業にとってみれば、新しい投資を行えば行うほど、既に過剰な生
産能力は一層拡大してしまうため、自らを更なる窮地に追い込むだけです。
図1: 上海総合指数(2014年1月から2015年7月8日まで)
図2: 株価と名目GDPの動き
5,500
240
5,000
220
4,500
200
米国
4,000
180
中国
3,500
160
3,000
140
2,500
120
2,000
100
各国・地域の主要な株価指数
各国・地域の名目GDP
日本
ユーロ圏
1,500
80
'14
'15
出所:Bloomberg、J.P.モルガン・アセット・マネジメント
2
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'11
'12
'13
'14
'15
出所:日本内閣府、米経済分析局、中国国家統計局、
ユーロスタット、J.P.モルガン・アセット・マネジメント
注:株価はそれぞれTOPIX、S&P500、上海総合指数、
ユーロストックス50を使用。
名目GDPは、2015年3月時点まで、株価は同7月3日時点まで。
MARKET BULLETIN | JULY 9, 2015
実際に、企業の設備投資は金融緩和には反応せず、大手行も預金金利の
上限規制=安定した利ざやが維持される中、当局が意図する中小企業へ
の融資を積極的に進めるには至っていません。結果として、金融緩和に
よって調達しやすくなった資金は、不動産市況の低迷も手伝う形で、企業
や家計を問わず、株式市場に向かいました。
昨年11月から開始された上海・香港の株式市場間の相互取引の拡大が株
価上昇のきっかけとなったほか、今年になって相次いだ利下げもさらなる
緩和期待を呼び、個人の信用取引にも支えられて株価は急上昇しました。
過剰な生産能力とデフレの中、企業の業績は低迷が続くと予想される一方、
これを織り込むはずの株式市場は緩和マネーによって上昇を続け、結果と
して、実体経済と株価のかい離は拡大しました。
実体経済の鈍化は緩和の如何に関わらず、企業部門の過剰な生産能力
が解消されるまでは続くと見られ、解消が終わりに近づくまでに観察される
可能性のある、バリュエーション主導の株価上昇はいずれも水泡に帰する
可能性があります。
図3: 株価収益率(PER、2006年1月から2015年6月末まで)
45倍
35倍
深セン総合指数
25倍
15倍
上海総合指数
MSCI中国
5倍
'06
'07
'08
'09
'10
'11
出所:Bloomberg、J.P.モルガン・アセット・マネジメント
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MARKET BULLETIN | JULY 9, 2015
現在の中国は’90年代以降の日本と似る:
消費主導の経済への移行は容易ではない
中国経済の現状は、1990年代以降の日本に似通っている点があります。
日本は1960年代以降、貿易・外需主導の経済成長を続けていましたが、
特に1980年代に入ってからは巨額の貿易黒字を計上し、日米貿易摩擦が
大きな問題となりました。米国から内需拡大を求められる中、購買力と消費
を高めるはずの円高が生じましたが、円高が招いたのは消費の拡大では
なく、輸出の鈍化とこれに伴う設備投資の鈍化でした。輸出と設備投資の
鈍化はそのまま所得、そして消費の鈍化につながります。またその間には、
低金利に煽られたバブル経済があり、積み上げられた資本ストック=過去
の投資はデフレを呼び込みながら、解消にかなりの時間を要しました。
これと同様に、中国は賃金の上昇と人民元高=ドル高(他通貨の金融緩
和が影響)によって輸出競争力を失い、生産能力も行き場を失っています。
一方、人民元を安く誘導することは、米国からの「為替操作国」との批判を
免れないほか、人民元の国際化の先に世界の政治や経済の覇権を狙う中
国にとっては受け入れがたい選択肢です。
こうした中、政府が企図する消費主導の経済への移行は、かつての日本と
同様に困難に陥っているように思えます。社会保障制度が整備されていな
い中での少子高齢化は老後への不安から、消費を抑制し、貯蓄を促します。
貯蓄の拡大や消費の抑制は、既に十分なはずの投資の積み上げや、足
元の需要=景気の押し下げにつながっていると見られます。
さらには、汚職撲滅から続く「ぜいたく禁止令」が景気の循環にとって重要
な「無駄な消費」を抑制しているほか、日常の基礎的な消費については国
内製の製品への不信感も根強く、国内企業の業績の足かせになっている
と見られます。
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MARKET BULLETIN | JULY 9, 2015
低利回り環境の中、ボラティリティは高止まりする:
分散やプロの目利きによる資産選択がカギを握る
前頁で述べた背景から、中国ではこの先、消費の拡大が投資の減速を相
殺するようには見えず、投資が減速する分だけ、中国の経済成長率は鈍
化していく可能性があります。
最後の手段とも言える「株価主導の経済浮揚」も、資本市場の力によって
失敗に終わる可能性が視野に入っています。市場は中国経済がそう遠くな
いうちに、4-5%の成長に鈍化していくことを織り込み始めると見られます。
これは、新興国や資源国の経済成長にも大きく影響を与えます。足元の商
品市況の下落はこうした見方を多分に反映していると見られます。
今回の中国の株式市場の急落が示唆している点は大きく2つ挙げられます。
まずは中国経済が一段の低成長に移行することにより、世界経済の低成
長は続く可能性が高いという点です。低成長は低金利や低利回りの環境を
正当化します。
もう1つの点は、日本や中国、欧州などの金融市場が流動性に左右される
相場展開は今後も続く可能性があります。一方、米国では利上げ=引き締
めが開始されます。これらのいずれも今後ともボラティリティの高止まりが
続く可能性を示唆します。
低利回りの中でボラティリティが高まると、投資家の期待リターンは低下し
てしまいます。投資家は引き続き、分散投資を進めるか、プロの目利きによ
る資産選択のアドバイスが必要な局面と考えられます。
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MARKET INSIGHTS
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