ブラジル:見えてきた転換点 - JPモルガン・アセット・マネジメント

MARKET INSIGHTS
Market Bulletin
2015年8月11日
ブラジル:見えてきた転換点
要旨
• ブラジルは過去3年にわたり低成長となったが、今年は景気後退に直面す
るとみられる。市場予想によれば、今年のGDP成長率はマイナス成長が見
込まれている
• しかし、一部の経済指標やデータは、来年にかけてブラジル経済が持ち直
す可能性を示唆している。通貨の下落により国際競争力は回復に向かって
おり、一方で中央銀行の利上げサイクルは、終了に近づいている。利上げ
サイクルの終了を市場が認識するにつれ、GDP成長率見通しは底を打つ
だろう。一方、リスク要因は財政再建の行方である
• インフレ率の低下は、為替レートを上昇させる可能性がある。また、中央銀
行が利下げに転じれば、ブラジル債券の金利は低下する可能性がある(債
券価格は上昇)。投資家は、目先のネガティブなニュースのみならず、将来
ブラジルが迎えるであろう転換点にも目を向ける必要がある
2015年はブラジルにとって厳しい年
ブラジル経済は今年、国内外からの逆風にさらされています。現在中国で進
Gabriela D. Santos
行中の景気減速、とりわけ設備投資の減速は、コモディティ価格全般の見通し
Global Market Strategist
Market Insights
に下押し圧力となっています。特に、ブラジルの輸出品の1つである鉄鉱石は
打撃を受けています。
Akira Kunikyo
Global Market Strategist
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こうした傾向は過去3年続いてきましたが、ブラジルはいよいよ今年、景気後
退に直面するとみられます。個人消費は従来ブラジルの成長を安定的に支え
るための中心的役割を果たしていましたが、その強力な追い風となった雇用
や消費者マインドには現在のところ力強さはみられません。理由はブラジル政
府が、投資適格級の格付けを維持するため、緊縮財政を実施しているためで
す。また、一部の補助金の廃止が高インフレにつながり、ブラジル中央銀行は
継続的な利上げを余儀なくされています。ブラジル中央銀行は、2014年10月
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以降これまでに6回利上げを行い、上げ幅は合計3%にものぼります。
MARKET BULLETIN | AUGUST 11, 2015
カギは利上げサイクルの終了
ブラジル・レアルは2011年以降、下落を続けています。対米ドルの下落率
は2013年には13%を超え、昨年は11%、そして今年は年初来で24%と
なっています(なお、対円では2013年は5%上昇、2014年は1%上昇、今年
は年初来で20%下落。対ドル、対円ともに8月4日現在)。一方で明るい兆
しとして、各種の指標は、ブラジル・レアルはもはや割高でないことを示唆し
ています。図1に示したように、ブラジルの実質実効為替レートは長年にわ
たり割高となっていましたが、ここ数年の調整で、過去10年の平均水準に
戻りました。この先一段の下落が否定されるわけではありませんが、これ
までのような大幅調整は回避される可能性が高いとみています。また、レ
アル安はブラジルの輸出を促進する可能性があります。
ブラジル経済は、果たして持続的な回復軌道に戻ることができるのでしょう
か。これを決定付ける要因は、中央銀行による利上げサイクルの終了とみ
ています。サイクルの終了にどの程度まで近づいているかを判断するには、
インフレ率見通しに注目することが重要です。現在、インフレ率は前年比
8.9%の高水準にあります。市場予想によると、インフレ率は今年9月に9%
超でピークを付け、その後、来年末までに5.5%に低下する見通しです。イ
ンフレ率が確実に低下するために必要な条件は、サービス価格の下落で
す。経済指標では、既に雇用の悪化が賃金の伸びを抑制していることが示
されており、これは最終的にサービス価格の上昇圧力抑制につながる明る
い兆候です。また先の金融政策決定会合において、ブラジル中銀は利上
げを行ったうえで、「現在の政策金利水準を十分に長い期間、維持すること
が適当」と述べています。利上げサイクルの終了が示唆されたことは、ブラ
ジル経済に好転をもたらすきっかけとなるとみています。
図1: 為替レートの推移(2000年1月から2015年7月31日まで)
2010年=100
1ブラジル・レアル=円
70
160
60
140
ブラジルレアル・円
50
120
40
100
30
80
実質実効為替レート
20
60
10
40
0
'00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 '14 '15
出所:Guide to the Market Japan 3Q P29、国際決済銀行(BIS)、
Bloomberg、J.P. Morgan Asset Management
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成長率見通しの底打ち
市場予想によると、ブラジルの今年および来年のGDP成長率見通しはあ
まりぱっとせず、それぞれ前年比-1.4%、同0.9%となっています。問題は、
これらが既に想定されるマイナス要因を織り込んだ現実的な予想なのか、
もしくは達成不可能な予想なのかという点です。景気後退が予想される中、
ブラジルが再び成長を遂げるには、中央銀行が利上げサイクルを終了させ、
さらに利下げを視野に入れる必要があります。先に述べたとおり、インフレ
率が見通しどおりに低下すれば、中央銀行は利下げを検討し始めるでしょ
う。これに伴い、市場が予想するGDP成長率は底を打つ可能性があります。
リスク要因
注意すべきリスク要因は、ブラジル政府が財政再建への道筋をつけられる
かどうかです。ブラジルのプライマリー・バランス(基礎的財政収支)など財
政に関する指標は2013年以降、大幅に悪化しています。ブラジルの格付
けが投資適格級を維持するためには、格付機関に対し、財政再建が進む
見通しをアピールしなければいけません。これは景気後退期のような、政
府の歳入に悪影響が及ぶ時期には難しいことです。先日、レヴィ財務相は、
今年のプライマリー・バランス目標をGDP比+1.2%から同+0.15%へ引き
下げ、同時に向こう2年の目標も引き下げています。景気減速による歳入
下振れが理由です。もともとの目標そのものが野心的すぎた面もあります
が、市場は目標引き下げに大きく落胆し、S&Pはブラジルの格付けについ
て、見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げました。格付け見直しの
時期は来年以降となりますが、ブラジルが投資適格級から転落した場合、
金融市場の反応は相当なものとなる可能性があります。現時点では先行
きの予想は困難ですが、今後の政府による取り組みが何より大事になりま
す。政府にとっては正念場であり、一部報道によればレヴィ財務相は「議会
の協力が得られれば、今年のプライマリー・バランスは新目標のGDP比
0.15%を上回る、同0.4%となり得る」と財政再建に前向きに取り組む発言
を行っています。
図2:新興国の信用格付け
外貨建て長期債務
AAA
AA
A+
ABBB
2000年
直近
アジア
アジア以外の新興国
投資適格
基準
BB+
BBB
Singapore
シンガ
ポール
China
中国
Korea
韓国
Malaysia
マレー
シア
Thailand
タイ
Philippines
フィリピン
India
インド
Indonesia
インド
Poland 南アフリカ
South Africa メキシコ
Mexico
Brazil
ポーランド
ブラジル
Turkey
トルコ
ネシア
出所:Guide to the Market Japan 3Q P64、Standard & Poor’s、J.P. Morgan Economics、Bloomberg、FactSet、J.P. Morgan
Asset Management
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投資への示唆
日本の個人投資家にとって、ブラジル債券は馴染みの深い商品かもしれま
せん。BRICSの成長ストーリーを背景に、多くの資金が日本からブラジル
に投資されたと見られます。
その期待とは裏腹に、過去数年のブラジル債券は、2つの逆風に見舞われ
てきました。まず、高インフレによって通貨の価値が目減りしたことから、ブ
ラジル・レアルは下落基調を辿りました。また高インフレへの対応として、中
央銀行が行った連続利上げにより、金利は上昇し債券価格は下落しました。
結果として、為替と金利という2つの要因によって、円ベースでみたブラジ
ル債券の価値は目減りしたと見られます。
しかし、先に見た通り、こうした状況は反転する可能性があります。インフレ
率の(相対的な)低下は、為替レートに上昇圧力をもたらします。またインフ
レ率の低下がみられれば、中央銀行が利下げに転じることで、ブラジル債
券の金利は低下する可能性があります(債券価格は上昇)。このように、投
資家が苦しんできた2つの逆風は、来年にかけて追い風に変わる可能性が
あります。投資家は、目先のネガティブなニュースのみならず、将来ブラジ
ルが迎えるであろう転換点にも目を向けていく必要があるでしょう。
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