ギリシャ:国民は緊縮受け入れに反対~危機が他国に広がる可能性は低い

MARKET INSIGHTS
Market Bulletin
2015年7月6日
ギリシャ:国民は緊縮受け入れに反対
危機が他国に広がる可能性は低い
要旨
• 5日に実施されたギリシャの国民投票では、EUなどの債権者が提示した緊
縮策への反対票が賛成票を大きく上回り、ギリシャ国民は更なる緊縮の受
け入れに反対の意思を表明した
• 当面、金融市場ではギリシャのユーロ離脱や債権者側の出方を含め、「わ
からないこと」が支配的になるため、リスクテイクが控えられるだろう
• 一方で、EUでは十分な金融政策ツールや財政支援機関が控えているため、
ギリシャの問題が他の高債務の南欧諸国に波及して、ソブリンや銀行部門
の危機が再燃する可能性は低いと見られる
ギリシャ国民は緊縮策の受け入れに反対
ギリシャでは、現地時間の5日日曜日に、EU(欧州連合)などの債権者が提示
した財政再建案についての是非を問う国民投票が実施されました。投票結果
は反対が賛成を大きく上回り、ギリシャ国民は更なる緊縮の受け入れに反対
Yoshinori Shigemi
Global Market Strategist
Market Insights
の意思を表明しました。
6日の日本株式市場では、リスクオフの姿勢が鮮明となり、日経平均株価は前
週末比427円67銭下落の20,112円12銭で取引を終えています。
本稿では、今後のギリシャと、金融市場全般の見通しについて検討します。
Guide to the Markets Japan
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MARKET BULLETIN | JULY 6, 2015
先行きが不透明となり、金融市場はリスクを取りづらい:
EUは少なくとも当面は譲歩せず、ギリシャの出方を待つ
ギリシャの今後については、債権者側が提示した財政再建策を拒否する
民意が示されたことで、見通しが立たない状況に陥っています。先行きに
不透明な要素が出てくると、金融市場はリスクを取りづらくなります。
金融市場の参加者にとってみると、①ギリシャがユーロから離脱する可能
性を以前よりも大きく見積もる必要がある一方で、②EU側がこれまでの厳
しい姿勢や投票前の発言を撤回し、ギリシャに譲歩する可能性も排除はで
きない状況です。
ただし、次頁で述べるように、ギリシャが銀行システムを中心として日々追
い込まれている状況に変わりはなく、EU側としても有権者からの支持を考
慮すると、ギリシャにそれほど簡単に譲歩することは不可能と見られます。
しばらくはギリシャをさらに追い込むことで、同国の出方を待つと見られま
す。
当面のスケジュールは次のとおりですが、いずれも目が離せない状況です。
なお、財務相会合は状況に応じて何度か開催される可能性があります。
 6日月曜日:独仏首脳会談、ECB理事会(→ギリシャへの緊急流動性支
援(ELA、緊急融資枠)の設定金額を決定)
 7日火曜日:ユーロ圏首脳会合、ユーロ圏財務相会合
 20日月曜日:ECBとユーロ圏の各国中央銀行が保有するギリシャ国債
の償還日(約35億ユーロ)
図1:日経平均株価(2015年3月1日から同7月6日まで)
21,000
20,500
20,000
19,500
19,000
18,500
3月
4月
5月
出所:東京証券取引所、J.P.モルガン・アセット・マネジメント
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G R E E C E : S A Y S N O TO A U S TE R I TY
6月
7月
MARKET BULLETIN | JULY 6, 2015
IMF(国際通貨基金)は、先週の金曜日にギリシャの債務の安定性に関す
る分析を出しています。この分析によれば、ギリシャの債務が安定するた
めには、IMFとEUが今後3年間で、2010年の第1次支援と同額程度の520
億ユーロの資金を追加融資する(もしくは、第1次支援の債権の大部分を
ヘアカットする)と同時に、利息や元本の返済スケジュールについても、現
行よりも大幅に先延ばしする必要があるとしています。
IMF・EU首脳の最近の発言やこうした分析結果を踏まえ、EU側としても、
ギリシャへの追加融資や、債務の返済条件緩和について前向きに検討す
る用意があると見られます。ただし、これまでの支援が返済されておらず、
しかも、有権者の税金をさらに投入する以上、EU側は、融資が確実に返済
されることを担保する必要があります。
したがって、EUや各国の議会が追加融資や返済条件の緩和を承認するた
めの前提についてはこれまでと変えようがなく、あくまでギリシャが厳しい
緊縮策の実行を確約することに他なりません。特に年金の支給削減など、
緊縮策の主要な部分で譲歩するのは困難と見られます。
また、今年の終わりにはもう1つの高債務国であるスペインの総選挙を控
える中、EUにとってはここでギリシャに譲歩すると、スペインの左派政党ポ
デモスを中心とする緊縮反対勢力がさらに党勢を強める恐れもあります。
対するギリシャ首脳は、「緊縮策に反対の民意を示し、EUなどの債権者か
ら譲歩を引き出せば、銀行は再開され、ユーロに留まる」という見解を示し
ています。しかしながら、上記のとおり、追加融資や債務の返済条件につ
いての譲歩は得られても、緊縮策の内容について譲歩を得られる可能性
は(少なくとも当面は)高くないと見られます。
預金の流出が続き、これを相殺するためのECBからの資金の追加供給も
途絶える中、1日当たり60ユーロの引き出し制限がさらに引き下げられる
可能性も十分に考えられます。EUからの譲歩も(少なくとも当面は)拒否さ
れれば、現政権は「EUから譲歩を引き出し、銀行も再開できる」との選挙
前の約束を果たせないことが明らかとなり、支持を失い始める可能性があ
ります。
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MARKET BULLETIN | JULY 6, 2015
南欧諸国を巻き込んで危機が再燃する可能性は低い:
十分な金融政策ツールや財政支援機関が控える
当面、金融市場では「わからないこと」が支配的になるため、リスクテイクが
控えられる可能性があります。
一方で、ギリシャの問題が他の高債務の南欧諸国に波及して、ソブリンや
銀行部門の危機が再燃する可能性は低いと見られます。
欧州中央銀行(ECB)は、OMTと呼ばれる国債買い入れプログラムによっ
て、国債の返済能力が確実な国の国債については無制限で買い入れるこ
とができます。実際に買い入れるかどうかは別として、ECBが必要に応じて
国債市場に積極的に介入するという姿勢が、南欧諸国の国債利回りの急
上昇を防ぐと見られます。また、財政資金が必要であるものの、金融市場
からの調達ができない国については、欧州安定メカニズム(ESM)が融資
を行うことができます。
現在のEUは、このような金融政策ツールや財政支援機関を有しているた
め、欧州債務危機が生じた2010-2012年当時とは大きく異なります。南欧
諸国が緊縮策を進めていくとの公約を守る限り、こうしたツールや機関が
下支えとなり、景気の底割れや、ソブリン債務危機の再燃は防がれると見
られます。また、ギリシャ以外の銀行部門についても、これまでの不良債権
処理とストレステストを経て、安定性が確認されています。
このようにユーロ圏を保護するための様々な歯止めはあるものの、目先は
金融市場の変動が大きくなると見られることから、日本の個人投資家は引
き続き、警戒を怠らず、リスク資産と安全資産との間での十分な分散を進
めることが適切と見られます。
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MARKET INSIGHTS
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