八条 北 遺跡出土耳 栓 報道発表資料

はちじょうきた
じ せん
八 条 北遺跡出土耳栓報道発表資料
奈良県立橿原考古学研究所
【発表日時】平成 27 年7月6日(月)
午前 10 時~
【調 査 地】大和郡山市八条町
【遺 跡 名】八条北遺跡
【調査機関】奈良県立橿原考古学研究所
【調査担当】調査部調査課
主任研究員 中野咲
【調査期間】平成 26 年9月 30 日~同 12 月 25 日
【調査面積】1200 ㎡
【検出遺構】縄文時代:柱穴、土器溜まり、自然流路
弥生時代:方形周溝墓
古
代:掘立柱建物、溝
【出土遺物】縄文土器、弥生土器、土師器、須恵器、黒色土器、石器など
1 はじめに
橿原考古学研究所では、平成 14 年以降大和郡山ジャンクションの建設に伴う発掘調査を
継続しています。ジャンクション用地内には、八条北遺跡、南六條北ミノ遺跡、横田堂垣
内遺跡の3遺跡が存在します。このうち、八条北遺跡では、古代の官道である下ツ道や、
奈良県下最大規模の弥生時代方形周溝墓群、縄文時代の自然流路などが確認され、各時代
にわたって大きな調査成果が上がっています。特に、縄文時代の自然流路は、時期ごとに
流れを換え、そのたびに人々が堅果類の貯蔵穴を設けたり、道具を投棄したりしたことが
分かりました。また、流路を埋めた土砂の分析から当時の自然環境なども明らかになりつ
つあり、縄文時代の人々の生活の実態を知るための良好な資料となっています。平成 26 年
度の調査では、この自然流路の中から、土器や石器、獣骨などとともに遺存状態の良好な
じ せん
耳飾が出土しました。今回出土したような形態の耳飾は、「耳栓」と呼ばれています。
2 概要
① 耳栓が出土した遺構について
耳栓は、幅 14.5m以上、深さ 1.3mの東から西へと蛇行して流れる縄文時代の自然流路か
ら出土しました。この自然流路は、埋没と流路の変更を繰り返しながら、縄文時代後期か
ら晩期(B. C.2000~B.C.1000)にかけて埋没しました。各時期の流路の中からは土器や石
器、獣骨などが出土し、流路の岸では堅果類の貯蔵穴なども確認されました。このことか
ら、付近の集落で暮らす縄文時代の人々が、集落で不要になった土器片や石器、食物残滓
などを流路に捨てたり、集めた堅果類を貯蔵するなどして、流路周辺で活動していたこと
が分かります。
耳栓は2点あり、流路の底付近から約 10m離れて出土しました。周辺で出土した土器な
どと同様に、集落で不要になったものが廃棄されたものか、上流に存在した遺構が出水時
の流水等によって破壊されて流されたものと考えられます。耳栓の時期は共伴した土器か
ら縄文時代後期後半(B.C.1500~B.C.1000)と考えられます。
② 耳栓について
2点の耳栓は、ともに完形であり、扁平な鼓形を呈します。耳栓1は、直径 4.0 ㎝、高さ
1.5 ㎝、孔径 1.8 ㎝、重さ 21g、耳栓2は、直径 3.7 ㎝、高さ 1.5 ㎝、孔径 1.4 ㎝、重さ 19
gを測ります。両者とも土製で、朱漆が塗られています。
3 まとめ
今回出土したような形態の耳飾は、滑車形耳飾や臼形耳飾と呼ばれていましたが、耳飾
じ せん
の本来の使い方は耳たぶにあけた孔にはめ込むものであったと考えられたことから、
「耳栓」
という名称が提唱され、広く使われるようになっています。耳栓は縄文時代中期(B.C.3000
~B.C.2000)に出現します。大きさは直径1㎝以下の小さなものから、直径 10 ㎝を超える
大型で装飾性が豊かなものまで多様です。使用方法としては、土坑墓から着装した状態で
出土した埋葬人骨の事例や、耳飾を付けた土偶の表現、民族例などから、耳たぶに孔を開
けて着装したことが分かっています。当初は、小さな耳栓を装着し、年齢を経るに従って、
徐々に大きな耳栓を装着したと考えられています。また、耳栓が魔除けやステータスのシ
ンボルとなっていたとも考えられています。
耳栓は、縄文時代中期から晩期(B.C.3000~B.C.400)の東日本を中心として盛行します。
この地域では、一遺跡で千点以上出土する場合もあります。西日本では、これほど多くは
出土しませんが、奈良県下では、これまで8遺跡 18 例が出土しています。特に橿原遺跡で
はもっとも多い8例が出土しており、その中のひとつが当研究所のシンボルマークとなっ
ています。
※耳栓は、当研究所附属博物館で開催される「大和を掘る 33」
(7月 18 日~9月6日)
に出品します。
※昨年度の八条北遺跡の調査成果は、「大和を掘る 土曜講座」(7月 25 日)で報告
します。
写真1 調査区全景(西から)
写真2 調査区全景(上空西から)
写真3 耳栓1出土状況(北西から)
写真4 耳栓2出土状況(南東から)
図1 調査地位置図
★耳栓2
★耳栓1
自然流路
図2 耳栓1・2出土位置(上が北)
表1 奈良県下耳栓出土遺跡
遺跡番号 遺跡名
1 古寺タムロ遺跡
2 竹内遺跡
3 橿原遺跡
4 阿部雨ダレ遺跡
5 箸中遺跡
6 飛鳥京跡
7 玉手遺跡
8 沢遺跡
市町村
広陵町
葛城市
橿原市
桜井市
桜井市
明日香村
御所市
宇陀市
遺跡の中心時期
後期
中期~晩期
中期~晩期
後期
前期
後期
中期~後期
中期~後期
点数
1
2(内1点赤彩)
8(内2点赤彩)
1(赤彩)
1
1
3(内2点赤彩)
1
合計18点(内6点赤彩)