学習メモ

科学と人間生活
テレビ学習メモ
第 19 回
科学と人間生活監修・執筆 杵島正洋
地学編
今回学ぶこと
太陽がもたらす景観と災害
太陽のエネルギーも地表にさまざまな景観をもたらし、地球上の水は太
陽の熱で循環し、その流れが地表に多様な地形をもたらす。また風が起
こす波も海岸を削って地形をつくるが、これも太陽のエネルギーによるものである。一方、
雨や風は自然災害ももたらし、私たちの生活に被害を及ぼすこともあるが、災害を軽減する
ための科学技術も進歩している。景観や災害だけでなく、私たちの社会を守る科学技術につ
いても理解を深めよう。
調べておこう・覚えておこう
◦侵食・運搬・堆積(流水の作用)
◦ V 字谷 ◦扇状地 ◦三角州 ◦海食崖
◦治水 ◦気象観測
太陽のエネルギーと流水の作用
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雨をもたらす雲は、太陽の熱によって地表や海面から蒸発した水蒸気が、大気の上昇とともに
上空に運ばれ、冷やされて細かい水滴となったものである。
雨として地表に戻った水は河川を通じて海へ戻るが、その際に地表に作用してさまざまな地形
をもたらす。これが流水の作用と呼ばれるもので、流速が速いと侵食作用が進み、遅くなるにつ
れて堆積作用が目立ってくる。
V 字谷、扇状地、三角州などはこうした作用がもたらした地形である。海岸では、海の波に
よる侵食作用が海食崖をもたらしたり、運搬堆積作用が卓越すると砂浜海岸や砂州が伸びたりす
る。波は風がもたらし、風は太陽がもたらす温度差や気圧差によって吹くので、これらの地形は
全て太陽のエネルギーがつくったということができる。
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高校講座・学習メモ
科学と人間生活
太陽がもたらす景観と災害
さまざまな気象災害
風や雨は時に災害(気象災害)をもたらす。大雨・洪水・暴風などは現在も私たちの生活を脅
かす自然災害である。
特に日本列島は温帯湿潤 ( モンスーン ) 気候に属し、列島の中央を走る山脈に風がぶつかって
雨や雪が降りやすいこともあり、年間降水量が世界平均の 2 倍もある多雨地域である。また、
上流から河口までの距離が短く、急激な増水によってがけ崩れや土石流、洪水の被害が出やすい。
また風の被害としては、台風や低気圧が通過する際の暴風のほか、竜巻などの突風も重大な被害
をもたらす。
私たちの生活を守る科学の力
自然現象は止められない。けれども人間社会に及ぶ被害を軽減することは可能である。例えば
洪水被害を防ぐため、河川の上流ではダム、中・下流では堤防や放水路が整備され、以前に比べ
て洪水被害は大幅に減少した。首都圏外郭放水路のような地下の人工構造物による放水システム
も構築されている。また、各地の気象台やアメダス、気象観測衛星や気象レーダーといった観測
技術を組み合わせて、高い精度の気象観測を行うことによって、大雨や暴風といった現象を事前
に察知している。こうした観測結果は天気予報や注意報・警報として情報提供されており、これ
column
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も被害を軽減するのに大きく貢献している。
伊勢湾台風から 50 年、気象観測の進歩 1959 年 9 月 26 日、紀伊半島に上陸した台風 15 号(伊勢湾台風)は、近畿・東海地方
を中心に 5000 人以上の死者・不明者をもたらす甚大な災害をもたらした。これだけの被害
となったのはなぜか。もちろん台風が猛烈な勢力を保ったまま日本列島を襲ったこともある。
台風進路と重なった伊勢湾は奥に向かうほど狭く、台風の風で湾内に押しこまれた海水が
奥に集められ、高潮となって沿岸を襲ったのも災いした。
だが気象情報が人々に正しく把握され、適切な行動につながっていれば、被害はもう少し
小さくできたかもしれない。天気図はかなり正確につくられていたが、当時は気象衛星も気
象レーダーもなく、
「台風がいつごろにどこを通過」という予測は現在よりも精度の低いも
のだった。また暴風で大規模な停電が生じ、テレビやラジオが使えなくなったことや、台風
ちゅうちょ
の通過が夜間だったことも、人々の速やかな避難を躊躇させた原因となった。
伊勢湾台風の被害は、日本の災害対策を根底から見直すきっかけになった。1961 年に
は災害対策基本法が制定され、全国の河川堤防は伊勢湾台風の水害を基準として改修され
た。また、より精度の高い天気予報のため、1964 年に富士山山頂に気象レーダーが設置さ
れ、日本列島に接近する台風をいち早く察知する体制が大きく前進した。1977 年には気象
衛星ひまわりが打ち上げられ、現在のひまわり 8 号まで常に上空から日本列島を監視してい
る。こうした気象観測技術の向上に加え、気象情報を速やかに伝達するしくみが拡充した
ことで、私たちの生活は当時とは比較にならないほど安全になったといえるだろう。ただし、
どんなに科学技術が進歩しても、最後は情報を受け取った私たち自身の行動にかかっている
ということ、このことは忘れないようにしたい。
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