科学と人間生活 テレビ学習メモ 第 20 回 科学と人間生活監修・執筆 松本直記 総合 今回学ぶこと ゼロからの出発 科学の進歩によって、人類は宇宙さえも利用できるようになった。潤沢 な資金を投入して競争的に宇宙開発をした米国と(ロシアの前身であ る)ソ連とは対照的に、日本の宇宙開発は何もないところから始まった。そして独自の技術 で巨大衛星を宇宙に運べるにまでに進歩した。宇宙を利用することで、普段の生活や防災な どさまざまな場面で私たちの生活に役立っている。 調べておこう・覚えておこう ◦ペンシルロケット ◦人工衛星 ◦ JAXA(宇宙航空研究開発機構) 無いものはつくる ▼ 第二次世界大戦で敗北した日本は、航空機やロケットの開発を禁じられた時期があった。そ の間、アメリカ、ソ連はドイツの開発したロケット兵器をもとにより発展させていった。日本 の宇宙開発は東京大学の糸川英夫教授が作った長さ 23cm のペンシルロケットから始まった。 1955 年に初の発射実験を行うと、1958 年にはカッパロケットが高度 60km に到達し、国際 地球観測年の科学観測を行うことができた。1970 年には世界で 4 か国目となる衛星の軌道投 入に成功した。兵器を由来としないロケットとしては世界で初めてである。 より大きくて重い産業用の人工衛星を宇宙に運ぶため、日本は宇宙開発事業団を組織しアメリ カの技術を導入して大型ロケットの開発に着手したが、開発に必要な情報のすべては公開されな かったため失敗の原因究明ができなかった。そこで、純国産の大型ロケットを開発することと した。開発は困難を極めたが、1994 年、純国産ロケット H2 の打ち上げに成功した。その後は、 外国部品も取り入れてコストダウン化した H2A、メインエンジンを 2 本束ねて能力を増強した H2B の開発にも成功した。一方、ペンシルロケットの流れをくむイプシロンロケットも 2013 − 41 − 高校講座・学習メモ 科学と人間生活 ゼロからの出発 年に打ち上げに成功した。 何もない状態から始まった日本の宇宙開発は、現在では目的に応じた複数のロケット持つ「宇 宙先進国」と言える状態にまで至ったのである。 生活と宇宙開発 宇宙へ行くのには地球の重力を振り切って宇宙機を秒速約 8km 以上に加速しなくてはならな い。そして宇宙は真空で、宇宙放射線に直接さらされる極限環境だ。このような場所に精密機械 や人間を安全に送り届けるためには人類が今まで経験したことのない技術が必要となった。その 中から生まれた新たな技術開発が我々の生活の役に立っている。例えば宇宙ステーション用に開 発された有機物処理システムが地上でのゴミ処理システムに応用されたり、ロケット用に開発さ れたゴム素材がビルの免震ダンパーとして利用されたりしている。他にも宇宙開発技術が身の回 りの生活に役立っている例を探してみよう。 宇宙から地球を眺める 人類は人工衛星を地球周回軌道に投入することにより、宇宙から地球を見る「目」を持つこと ができた。天気予報でよく聞く気象衛星「ひまわり」は、天気予報のみならず、気象防災の情報 布や量を全球的に調べたり、降水を観測し降雨メカニズムの解明に役立っていたりもする。日頃 利用している GPS も宇宙開発の恩恵といえるだろう。宇宙機はそれだけではない。 「はやぶさ」 が小惑星のサンプルを地球に持ち帰ったように、他の天体や宇宙空間を観測したり、地上からで は決して得ることのできないデータやサンプルを取得したりして、人類の知の拡大に役立っている。 column ▼ 源として今やなくてはならないものだ。他にも、地球大気を観測して温室効果ガスやオゾンの分 宇宙にものを運ぶのには多額の費用がかかる。国際宇宙ステーションの軌道に 1 グラムの ものを持って行くのには数千円のコストがかかる。静止軌道(地上から 36,000km の高度) であれば更にその倍以上の費用が必要だ。もっと安く宇宙にものが運べないものだろうか。 アメリカのベンチャー企業と日本の JAXA は再利用ロケットの研究に取り組んでいる。 ロケッ トの中でも最も巨大な 1 段目は上段を加速し終わると切り離されて役目を終える。アメリカ のスペース X 社は、切り離された 1 段目を地上に軟着陸させる試験を行っている。1 段目が 再利用できれば打ち上げコストは劇的に低くなる。 ひも さらに安くできる方法はあるだろうか。静止軌道の宇宙機から紐をたらす。静止軌道とは 地球を回る周期が地球の自転周期と同じになる場所で、地上から見るとあたかも止まってい るように見えるので静止軌道という。静止軌道から垂らした紐が地上に届くと、ロボットに その紐を登らせてだんだん紐を太くする。これを繰り返せば紐をたどって静止軌道にものを 運ぶことができるようになる。これを宇宙エレベーターと呼んでいる。宇宙エレベーターが 実現すれば費用面でも安全面でも宇宙はぐっと近くなる。問題は紐の素材だ。36,000km も の長さの紐で自分の重さに耐えられるものは現在存在しない。しかし、将来的には開発され る可能性はあるだろう。そうなれば、宇宙はより身近になる。太陽電池パネルを宇宙空間に 浮かべて電力を常に生み出すことが大規模に可能になったり、静止軌道から月や他の天体に ものを運んだりするのも簡単になる。恒常的に人が居住できる月面基地を作ることも現実味 を帯びてくるだろう。そして、一般の人が気楽に、しかも今とは比べものにならないほど安く 宇宙旅行を楽しめるようになることだろう。 − 42 − 高校講座・学習メモ
© Copyright 2024 ExpyDoc