トップに返り咲いた日本の金融機関、オフサイド

リサーチ TODAY
2016 年 2 月 2 日
トップに返り咲いた日本の金融機関、オフサイドトラップに留意
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
下記の図表に示されるように、昨年6月末の国別の対外与信供与額は約3.5兆ドルで、日本が久しぶり
に世界のトップに躍り出た。1980年代頃、日本が世界の対外与信額トップであったが、バブル崩壊後、長ら
く日本のプレゼンスが低下した状況が続いた。これは、状況が一転して、国際金融市場で日本のプレゼン
スが再び拡大したことを象徴する事例である。2007~2008年のサブプライム問題、リーマン・ショックを機に
欧米の対外与信が縮小に転じる中、日本は拡大を続けたことが日本の久方ぶりの首位への返り咲きにつ
ながった。日本では1990年代以降バランスシート調整が生じ債務圧縮が行われる一方、欧米金融機関は
2007年以降デレバレッジを迫られたことが今日の状況につながった。ただし、国際金融規制が強化され信
用拡張への規制が強まっていること、新興国を中心にした変調が生じていることから、対外与信拡大の先
頭になった日本にも選別が必要になっている。先頭になって後ろを振り向いたら皆がいなくなっていること
は大きなリスクでもある。オフサイドトラップ1には留意も必要だろう。
■図表:信用供与国別の対外与信残高推移
米国
ドイツ
(兆ドル)
5.0
日本
イタリア
英国
スペイン
フランス
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15 (暦年)
(資料)BIS よりみずほ総合研究所作成
今日、日本の金融機関は、国内の需要が伸び悩むなか、積極的に海外への信用拡張に戦略を見出す
状況にある。同時に、超金融緩和で低金利、ましてやマイナス金利になるような状況は、国内金融機関に
海外投資を積極化させて、円安圧力を強める「国益」に沿った動きともいえる。公的年金であるGPIFは海外
アセット(の保有)にアセットアロケーションを大幅にシフトし、その他の公的年金もこれに追随する動きを示
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している。日本の生損保のアロケーションも同様に、海外資産にシフトしている。また、ゆうちょ銀行・かんぽ
生命も外国債券へのシフトを強めている。次の図表に示されるように、日本の大手銀行も海外での貸出残
高の拡大を強化している。
■図表:メガバンクの海外店貸出残高推移
70
(兆円)
40%
海外店等
前年同期比伸び率(右目盛)
60
30%
50
20%
40
10%
30
0%
20
-10%
10
-20%
0
2010/3
11/3
12/3
13/3
14/3
15/3
-30%
15/9 (年/月)
(注)傘下都市銀行単体の残高。
(資料)各行決算資料より、みずほ総合研究所作成
日本の金融機関にとって海外投資の活動は、最も大きな経営課題であり、またチャンスの場でもある。し
かも、欧米の金融機関のプレゼンスが低下するなか、日本が主導的な地位を確保する絶好の好機ともいえ
る。ただし、昨年来世界のクレジット市場は、新興国ブームの歴史的な転換と、資源ブームの転換に直面し
ている。その結果、一部の新興国や資源関連企業のクレジットにはモニタリングが必要な状況だ。同時に、
国際的な金融規制の強化や、日本の金融機関にとって外貨ファンディングコストの上昇等の制約も存在す
る。従って、海外投資においては一層選別的な姿勢も必要な局面に転換している。日本は先頭を走る中、
後ろを振り向くと誰もいなくなって「オフサイドトラップ」にかかっても仕方ない。いまや日本の金融機関は海
外投資に対しては質を向上させる観点が必要になっている。また、先週、日本でもマイナス金利の次元に
金融政策が転換したなか、日本の銀行には、従来通り預金を拡大させる経営から、預金も含めたバランス
シートの管理への移行が重要になる。バランスシート管理は、同時にレバレッジ比率が金融規制で重視さ
れる潮流のなかでも重要である。既に1年前からマイナス金利が導入された欧州では、金融機関の収益性
に影響が生じていることも留意すべき点である。内外含め日本の金融機関にとっては、従来の量の拡大か
ら、バランスシートのサイズの管理、選別も含めた質の管理が重要になっている。
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サッカーの守備の戦術。攻め込んでくる選手とすれ違うように守備側選手が一斉に前へ出て、攻撃側の選手をオフサイ
ドの位置に残すもの。
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