リサーチ TODAY 2016 年 11 月 25 日 欧州リスクは世界からの後退、イタリアはその号砲 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 先週11月17日の安倍・トランプ会談は、成功に終わったとされる。首相と就任前の次期米大統領との会 談は異例とされるが、なぜ次期米大統領の相手が安倍首相であったのか考える必要がある。トランプ氏と すれば、最初の会談として世界に姿勢を示す以上、相手は「西側」のG7を中心とした主要国を対象としや すく、自ずとプーチンや習近平といった選択にはならないだろう。G7のなかで自らの任期である2021年ま でを展望し、安定感があるのは日本の安倍政権しかなかったという消去法的選択だったのではないか。G7 の国々は日本とカナダを除けば欧州諸国であるが、欧州では2021年まで安定した政権を期待できるところ が見当たらない状況にある。ここに、欧州問題の本質がある。欧州各国は自らの国の政治問題で忙殺され ており、外交どころではない状況だ。今週のTODAYで、2021年まで米国はトランプ、中国は習近平、ロシア はプーチン、日本は安倍のグローバル・レジームの国際関係に注目としたが、これは欧州のグローバルな 政治舞台からの後退を意味する。2016年を振り返ると、トランプ氏当選と並ぶ「世紀の誤算」はBrexitであっ たが、これは欧州の内向きの流れへの号砲ともいえる。下記の図表は欧州の選挙スケジュールを示すが、 12月4日にはイタリア国民投票とオーストリア大統領選がある。来年は、3月にオランダの選挙、4月以降に フランス大統領選があり、秋にはドイツの国政選挙が続く。まさに政治の年を迎え、EU懐疑政党の台頭に 注目だ。 ■図表:欧州の選挙スケジュール 年 月 2016年 12月 2017年 内容 ポイント イタリア国民投票(4日) 上院の権限削減を可能にする憲法改正の是非を問う国民 投票。否決されれば、レンツィ首相は辞任の可能性あり。 オーストリア大統領選挙(4日) EU懐疑政党、オーストリア自由党のホーファー候補と緑の 党、ベレン候補の支持率は現在拮抗。 英国はEUに脱退通告を実施(3月ま で、予定) EUとの離脱協議が開始される。 オランダ下院選挙(15日) EU懐疑政党、オランダ自由党が第一党となる可能性あり。 但し、単独過半数の獲得は困難。 4月 フランス大統領選挙・初回投票(23日) EU懐疑政党、フランス国民戦線のルペン党首が決選投票 に進む公算大。 5月 フランス大統領選挙・決選投票(7日) 国民戦線は決選投票では勝てない公算大。 3月 8~10月 ドイツ連邦議会選挙 与党CDU・CSUが議席数を落とす可能性あり。 2018年 5月頃 イタリア総選挙 反政府・EU懐疑政党の五つ星運動が得票を伸ばす可能性 あり。 2019年 5月頃 欧州議会選挙 この時までに英国のEU離脱が確定していなければ、議席 配分が難しい。 2020年 5月 英国下院選挙 英政府はこれまでの交渉結果の信を国民に問うことに。 (資料)各種報道等よりみずほ総合研究所作成 1 リサーチTODAY 2016 年 11 月 25 日 年内の注目は、やはり1週間後に迫ったイタリアの国民投票だろう。憲法改正の是非を問う国民投票が 行われる。下記の図表のように、政権が進める上院の権限削減を可能とする憲法改正案が否定される可能 性が高まっている。否決の場合、レンツィ首相が辞任し政局が流動化する可能性がある。 ■図表:イタリアの国民投票に関する世論調査 50 (%) 賛成 45 反対 未定 40 35 30 25 20 (月/日) (資料)Acqua Group よりみずほ総合研究所作成 下記の図表のように、今日、ユーロ圏はドイツを筆頭に世界の中で圧倒的な経常黒字をため込む状況 にある。これはグローバルなマクロバランス上、世界の需要を吸収する「ブラックホール」のようなものだ。し かも、ドイツを中心に財政緊縮を頑なに続けている。こうした動きは、保護主義と“Make America Great Again” のスローガンを掲げるトランプ政権のターゲットにもなりうる。トランプ新大統領は、世界各国、なか でも経常黒字国に財政拡張の内需拡大を迫ると展望されるため、米欧の分断は経済面でも生じやすいの ではないか。 ■図表:ユーロ圏の経常収支 (10億ドル) 500 スペイン オランダ イタリア 400 ギリシャ ドイツ ユーロ圏 300 200 100 0 -100 -200 -300 -400 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (年) (資料)IMF よりみずほ総合研究所作成 筆者の都合により、11 月 28 日(月)から 12 月 12 日(月)は休刊とさせていただきます。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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