世界バランスシート調整「第4局面」のリスクは世界

リサーチ TODAY
2016 年 1 月 18 日
世界バランスシート調整「第4局面」のリスクは世界連鎖不況
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
昨年来、みずほ総合研究所が抱いている基本シナリオは、2000年代以降の世界経済の長期に亘るバラ
ンスシート調整が今は「第3局面」、つまり新興国問題を抱える局面にあるというものである。2016年を展望
すると、先進国は緩やかな改善を見込むが、新興国は下振れリスクを内包する局面にある。バランスシート
調整のこれまでの3局面の展開は、下記の図表にまとめられる。第1局面は、2000年代以降の先進国の民
間セクターでの過度な信用拡張の反動が、2007年のサブプライム危機、2008年リーマン・ショックにつなが
ったときまでである。第2局面では、第1局面の危機に対処するための財政拡大により、2009年以降、政府
債務問題が生じた。第3局面は、先進国のバランスシート調整が自らの財政政策だけでは収まらず、新興
国の信用拡張によって対処されてきた時期だ。第3局面では新興国が新たなバランスシート調整を迎え、
世界のバランスシート調整が新たな局面に入った。第3局面は「端境期」であり、けん引役が交代する、つま
り新興国が減速し先進国が回復するとのシナリオを取ってきた。しかし、ここにリスクシナリオがあるとすれば、
世界のバランスシート調整の「第4局面」として、新興国が深刻なバランスシート調整にあるなか、先進国で
もバランスシート調整が長引き、世界が同時不況に陥ることだ。これは、唯一のけん引役である米国が利上
げによって失速し、世界にけん引役が不在となるリスク、つまり極端に言えば世界連鎖不況の再来である。
年初来の世界的な株安はそうした悲観シナリオへの不安による面が大きい。
■図表:世界経済のバランスシート調整の3局面とそのリスクシナリオ概念図
第1局面
先進国の債務問題
(2007~2008)
(2000年代の欧米の住宅ブーム)
第2局面
(2009~2012)
先進国の財政問題
(サブプライム問題以降の財政拡大、
ユーロ統合以降の対外バランス悪化)
第3局面
新興国の債務問題
(2015~)
(2008年の中国4兆元対策等に伴う信用拡大)
リスクシナリオ
第4局面
世界連鎖不況
(2016~)
(先進国の長期停滞、米国利上げで失速、
世界的レベルでの危機の波及)
(資料)みずほ総合研究所作成
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2016 年 1 月 18 日
筆者は今から4年前の2012年に、『20XX年世界大恐慌の足音』 1と題する本を刊行した。これは、世界の
バランスシート調整の第2局面が終わったことを前提とし、世界が経済戦争を通じて「新重商主義」の局面
にあることへの問題提起であった。この認識は今日も変わらない。下記の図表は、歴史的に振り返り、深刻
なバランスシート調整で生じやすい国際的な環境を示す。欧州はブロック化し、中国も新シルクロード計画
で自らの経済圏を確保しようとし、米国はTPPで影響力を確保しようとしている。通貨面では「金利水没(マ
イナス)」に至る超金融緩和で実質的な通貨戦争が続けられている。
■図表:バランスシート調整が引き起こす影響の総括
分
野
影 響
海外関係
保護主義とブロック化
通貨引き下げ(通貨戦争)
フロンティア、はけ口を求めた海外進出と紛争
市
場
資源価格安
政
治
政治不信、特に政権与党への批判
社
会
社会不安
(資料)みずほ総合研究所
メインシナリオが「端境期」、つまり新興国がバランスシート調整に入っても、先進国がバランスシート調整
に目途をつけ回復に向かうなら、第3局面に世界経済の好転への解決の糸口はある。しかし、リスクシナリ
オに世界が入れば、先進国のバランスシート調整が長引き、新興国の調整の影響を受け、再び先進国も
含め世界中が調整に陥るという「第4局面」が現実となる不安がある。
こうした危機シナリオからの回避にはどうしたらいいのだろうか。1930年代の世界大恐慌のときは、世界
各国の緊張が軍事的衝突である第二次世界大戦という悲劇的な結末を招いた。戦後の国際的な枠組み
はその教訓から戦争の悲劇を回避するために作られた。大恐慌の後を振り返れば、通貨競争に先んじた
国家が経済の回復を先導し、同時にソ連やドイツのように、国家主導での財政政策を拡張した国の回復が
早かった。今日は、軍事的側面が捨象されつつも、いかに回復を実現できるかの英知が世界に問われる。
そこでは、まず、先進国が回復を確実にすべく、財政も含めた成長率の底上げを行うことが必要だ。
2014年のG20では、「ブリスベン行動計画」で2018年までに成長率を2%以上底上げすることが謳われてき
たが、実現できていないが故にその実効性が改めて問われる。G7やG20の場で各国の景気底上げが財政
政策の活用も含めて議論されやすいのではないか。同時に、金融の面でも米国は成長に軸足を置いて利
上げを抑制することになるだろう。先の図表で「フロンティア」を求める動きは、地域的な拡張ではなく、技術
やテクノロジーの面でのフロンティア、新技術開発で新たな市場ができることが理想である。従来の規格を
変えた姿をもたらす環境規制や技術革新も有効だ。また、フロンティアとした地域では、新興国のなかでも
バランスシート調整に陥っていない新たな新興国に期待をかけることも重要だ。そうした対象は、アジアの
CLM諸国、アフリカ諸国等であろう。今日の課題はいかにリスクシナリオの「第4局面」、世界連鎖不況を回
避できるかにある。
1
『20XX 年世界大恐慌の足音』 (高田創 東洋経済新報社 2012 年)
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/book/121213.html
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