「 痔 の 話 」 浅草寺病院院長 碓井 貞仁 痔は日本人に特に多い疾患で成人では2人に1人はこの病気にかかっているといわれています。痔には、内痔核 (いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻(うみ痔)がありますが、痔になると痛みや出血だけでなく、肛門部が常にじゅ くじゅくした不愉快な感じがありとても厄介な疾患です。今回は誰もが経験する可能性の高い「痔」についてお話 します。 ★ 肛門部の解剖 直腸下部から肛門にかけて毛細血管が網目構造(静脈叢)を形成していますが、この部分が炎症で脆くなり、過 度の腹圧などで直腸静脈叢、皮下静脈叢がうっ血、感染腫脹してふくらんだものが痔です。肛門から3cmほどの 長さの肛門管の中央付近にある歯状線(腸と皮膚が結合した名残り)の奥にできた痔核を内痔核、手前の肛門側に できたものを外痔核と呼びます。 ★ 痔の症状 内痔核は新鮮な血液がシュッと飛び散ったり、ポタポタと滴り落ちるのが主な症状で、痛むことは通常はほとん どありません。しかし痔核が脱出したとき、特に脱出した痔核が嵌頓したりすると激しい痛みが出現します。 外痔核も一般に痛みや出血を伴いませんが、血栓が形成されると腫れと痛みが激しくなります。硬い便が出る時 や肛門に力を入れる運動をした時などには症状が強くなります。 切れ痔は肛門管の炎症により脆くなっている肛門上皮が、硬い便の排出時にいきみ過ぎたことが原因で裂けてし まったもので、排便時の痛みと出血が主な症状です。肛門管には神経が豊富にあるので激痛、時には頭に響くよう な痛みが排便時も続くことがあります。 ★ 痔の診断 患者さんの話を良く聞くことが重要です。確定診断をつけるには肛門に指を入れる肛門指診、肛門鏡を用いる方 法が一般に行われます。痔に似たような疾患に直腸ポリープ、直腸がん、直腸脱などがあるので、これらの疑いを 否定するためにも恥ずかしがらずにきちんと診察を受けることが大切です。 ★ 痔の治療 保存的治療 肛門部の炎症をひどくさせないようにすることが最も重要で、通常坐薬、あるいは軟こうを用いて炎症をおさめ ます。入浴は肛門部が温まって血行が良くなり、痛みがやわらぐのでおすすめです。患部を清潔に保つことも大切 です。内服薬は必ずしも必要ありませんが、症状によっては抗生物質や消炎酵素剤を使うこともあります。 特殊なレーザー光線を照射して内痔核を縮小させる方法(ICG併用半導体レーザー照射法)もあります。手術 が必要となる症例は全体のおよそ10%です。 外科的治療 慢性外痔核は症状が強い場合や患者さん自身が希望する以外は手術を行うことは少ないといえます。内痔核の手 術は肛門括約筋を保護する結紮切除半閉鎖法がよく行われます。入院期間はおよそ1週間ないし10日間程度です。 その他の治療としてはゴムバンド結紮法、硬化剤療法などがありますが、それぞれ適応となる症例を厳密に選択 する必要があります。 痔瘻は歯状腺に開口している肛門腺から便が逆行性に入り込み、感染が進んで肛門周囲や内部に膿瘍が形成され、 膿が断続的に排出されるようになった病態のことで、基本的に根治手術が必要です。切開排膿だけでは直ぐ再発す るので専門医の診断、治療を受けることをおすすめします。 ★ 生活上の注意 痔はできてからの治療も重要ですが、予防はそれ以上に重要です。一般的には便秘や下痢などの排便異常、疲れ やストレス、身体の冷え、飲みすぎ、長時間にわたる立ちっぱなし、あるいは座りっぱなし、妊娠などが痔の主な 原因なので、できる限りこれらの事を避けるのが大切です。すなわち排便は規則的にするようにコントロールする、 寒い所に出かけるときは温かくして行く、お酒は飲みすぎない、立ち通し、座り通しはできる限り少なくして時々 姿勢を変えたり、つとめて休養をとったり横になったりしてリラックスを心掛ける、といった注意を守ることによ り痔の発病をかなり軽減できます。 肛門括約筋の緊張をとり、静脈叢のうっ血をとるのに効果的には坐浴入浴です。排便後のシャワレットも有用で す。トイレはあまり長期間にいきむことは禁物で、そのためには緩下剤(カマ、センナ)を用いたり野菜、海草を 十分摂って便秘を治すことが大切です。 痔と仲良しにならないで快適な生活を送りましょう。そしてもし不幸にして痔かなと思うような症状が出たら、 恥ずかしがらずにすぐ浅草寺病院外科に来て相談してください。
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