浜銀総合研究所 中国ビジネスサテライト「中国コラム」 2015 年 3 月号 http://www.yokohama-ri.co.jp 中国子会社再編の基本(5)不正常な撤退 チャイナ・インフォメーション 21 筧武雄 中国で現地任せの子会社経営を続け、挙句の果てに法手続きも経ずして撤退してしまうと、 中国だけでなく日本でも様々なツケが最後に回ってくる。中国に進出した日系企業に必ず訪れ る経営期限日には、中国法に沿った撤退手続き(企業清算処理、納税完納、従業員解雇、企業 登記抹消、銀行口座閉鎖、土地使用の返還等)が求められる。 1.日本での「海外関連者に対する寄付金」課税 日本親会社から中国子会社への資本金出資勘定は、清算に伴って抹消しなければならない。 その際、回収した清算分配金が当初出資額を上回れば益金課税、下回れば損金処理という原則 になるが、現地で合法的な企業清算手続きを行わず、企業登記を残し、銀行口座も解約しない まま「自己都合撤退」した場合、日本親会社の税務会計処理は損金処理どころか「海外関連者 への寄付金」として課税されることになりかねない。資本金だけでなく、残存する売掛金、貸 付元利金なども同様の扱いとなる。 本来、出資損金処理も貸倒損失処理も、正当な記録証拠があり、真にやむをえない結果と認 められた場合に限られるもので、何ら合法的手続き記録も無い「不正常な撤退」(中国語では 「非正常撤離」という)は日本税務当局への説明も不可能となる。 2.中国で受ける処分 (1) 国際指名手配と容疑者引渡要求 中国政府商務部、外交部、公安部、司法部は 2008 年 11 月 19 日付で「外資の不正常な撤退 に対する中国の関連利益当事者による国をまたぐ追及及び訴訟業務に係る指針」1を連名で公 布している。外資が正規の清算手続きを経ず撤退し債権者に損失をもたらした場合、出資者や 役員、経営者としての外国企業(親会社)・個人は、相応の民事責任や企業債務に対して連帯 責任を負わなければならず、同時に決算、清算監査を逃避・無視した一部の悪質な脱税行為、 犯罪の疑いのあるケースに対しては政府関係主管部門による立件の後、具体的な内容を踏まえ、 各国との条約に規定された国際機関あるいは外交ルートを通じ、逃亡先国政府に対して容疑者 の引き渡しを求め、法律責任を追及するものとしている。 (2) 出国停止処分と情報公開 外資の「不正常な撤退」により損害を被った中国パートナー、従業員、関係者が撤退企業、 経営者、親会社に対して損害賠償の民事訴訟を起こした時点、あるいはその前でも放置すれば 損害の拡大が確実と人民法院が認めた場合は、法院の裁定により被告人の資産(預金口座、資 本金等)が即時凍結される(「中国民事訴訟法」第 100 条)。また、同法第 252 条では、被告 が法律文書に指示された義務を履行しない場合、人民法院は当該被執行人に対し、出国制限(出 国停止処分)並びに信用情報システム記録及びメディアを通じた義務不履行情報の公表(ネッ 1 Copyright (c) 2015 Hamagin Research Institute,Ltd. All rights reserved. ト情報公開等)ならびに法律に定めるその他の措置を自ら行い、または関連機関に協力を求め てこれらの措置を行うことができると定めている。 (3) 出資親会社に対する連帯責任の追及 中国の会社基本法である「中国公司法」第 20、21 条には以下の規定がある。「有限責任会 社だから日本親会社の負う損害賠償責任は出資した資本金額の範囲内に限られる」という考え 方を中国会社法はとっていない。 第 20 条(株主の権利濫用の禁止) 「会社の株主は、法律、行政法規及び会社定款を遵守し、法に従って株主の権利を行使しな ければならず、株主の権利を濫用して会社又はその他の株主の利益を損なってはならず、会 社法人の独立的地位及び株主の有限責任を濫用して会社の債権者の利益を損なってはなら ない。 会社の株主が株主の権利を濫用して会社又はその他の株主に損害をもたらした場合は、法 に従い賠償責任を負わなければならない。 会社の株主が会社法人の独立的地位及び株主の有限責任を濫用して、債務を逃れ、会社 の債権者の利益を著しく損なった場合は、会社の債務に対して連帯して責任を負わなけれ ばならない。 」 第 21 条(支配株主等の地位濫用の禁止) 「会社の支配株主、実質支配者、董事、監事、高級管理職員はその関連関係の地位を利用し て会社の利益を損なってはならない。 前項の規定に違反し、会社に損害をもたらした場合は、賠償責任を負わなければならな い。」 経営期限の到来により中国子会社は「自動消滅」する等の勘違いから、万一意図せずして結 果的に「不正常な撤退」となってしまった場合、現地で労働紛争や訴訟が起きている状況で日 本から経営者や関係者が不用意に訪中すると、入国できても出国停止処分となるリスクがある。 このような場合は、国外から現地取引先や知人、残されたローカル社員等と電話連絡などによ り情報収集し、日本や香港の専門弁護士に相談し、信頼できる中国内弁護士を起用して、海外 からひとつひとつ法的解決を図っていくしか対処法は無い。 以上 本レポートの目的は情報の提供であり、何らかの行動を勧誘するものではありません。本レポートに記載されて いる情報は、執筆者個人が信頼できると考える情報源に基づいたものですが、その正確性、完全性を保証するも のではありません。ご利用に際してはお客さまご自身でご判断くださいますようお願いいたします。本レポート は著作物であり、著作権法に基づき保護されています。本レポートの無断転載・複製を禁じます。 1 (通知原文) http://www.mofcom.gov.cn/aarticle/b/f/200812/20081205963636.html 2 Copyright (c) 2015 Hamagin Research Institute,Ltd. All rights reserved.
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