GABA含有チーズを製造するための乳酸菌発酵スターター農研機構畜産草地研究所畜産物研究領域上席研究員野村将「農研機構」は独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネームです。はじめに牛乳生産者が自ら乳加工・販売まで業務展開する六次産業化を目指す動きが強まっています。これら乳製品製造においては、産地ごとに特色のある製品を生産して差別化を図ることが必要です。生産者は他製品と差別化したい消費者の嗜好は多様化従来技術とその問題点乳製品に特色を付ける目的で、さまざまな乳酸菌が探索されている。しかし、一般の事業者はスターター会社から販売されているものを購入するほかなく、選択肢は限られる。 ※ 乳酸菌は、原料乳に添加し乳酸発酵を行う。・ DVS(ダイレクトバットセット)スターター（製造メーカーが乳酸菌をブレンドして濃縮乾燥冷凍させたもの、自家培養不要、現在の主流）・自家培養スターター（伝統的）従来技術とその問題点畜産草地研究所は、γ-アミノ酪酸(GABA)生成乳酸菌を発見し、GABA高含有チーズの製造技術を開発した。しかし、・通常の発酵スターターとGABA生成菌を各々用意し、原料乳に混合接種する必要・GABA発酵が不安定等の問題があり、広く利用されるまでには至っていない。 GABA（ギャバ）とは？ • γ -アミノ酪酸（Gamma-AminoButyric Acid） • 動物、植物、微生物に広く存在する生体成分。 • 血圧降下作用や抗ストレス作用などの生理作用が報告されている。 • 通常のチーズにはほとんど含まれていない。 • GABA強化食品（お茶、チョコ、発酵乳、・・・） L-グルタミン酸 GABAを生成する乳酸菌 GABA生成乳酸菌01-7株 (Lactococcus lactis subsp. lactis) • チーズ乳酸菌から分離 • 豊富な食経験があり安全 • チーズ中のグルタミン酸をGABAに変換 • GABA生成効率が高いチーズスターターには、いろいろな乳酸菌が混ざっています新たに発見した GABA生成乳酸菌 GABA 一般の乳酸菌新技術の特徴・従来技術との比較 • 本チーズスターターは乳酸菌3株の混合培養物である。 • チーズの風味をよくする株、乳酸生成力が強い株、およびGABA生成力の強い株が長期間安定した比率で存在し、常に均一なGABA含有チーズの製造を可能とする。 • 本3種混合スターターを用いれば、1種類の培養物を接種するだけで、GABA含量が高く風味に優れたチーズの製造が可能となる。 GABA生成菌を配合したチーズスターター • GABA生成菌を配合した乳酸菌混合チーズスターター。 • 継代を繰り返しても菌株比率が維持されるため、GABA含量が高く風味の良いチーズを安定して製造することができる。菌数 (cfu/ml) 1.01010 1.0109 1.0108 1.0107 総コロニー数 527：乳酸生成力が強い株 01-7： GABA生成力が強い株 01-1：チーズの風味を良くする株本スターターを週1回継代したときの生菌数の推移本スターターを用いたチーズの GABA含量 GABA (mg/100g) 本チーズスターター 113 Glu 1.0%添加* 26 Glu 無添加市販チーズ 18 ゴーダ 5 チェダー 0 エダム 0 エメンタール 0 カマンベール * GABA生成の基質としてグルタミン酸ナトリウム（Glu）をチーズに添加 GABA含有チーズの特徴 • 市販チーズにはほとんど含まれていない GABAが、熟成中に多量に生成される。 • マイルドな香りと爽やかな酸味 • GABAは熟成タイプチーズでのみ生成される。フレッシュタイプチーズでは生成されない。チェダータイプカマンベールゴーダソフトタイプチェダーＧＡＢＡチーズ 0 50 100 150 200 GABA (mg/100g) GABAチーズと市販チーズのGABA含量の比較（GABA生成菌を別途添加した例この方法は、通常のチーズ用乳酸菌とGABA生成菌を別々に用意する必要がある）ヤギ乳を用いたチーズ想定される用途 6次産業化を目指す小～中規模の製造に適用可能。本技術を利用した商品を製造・販売してくださる連携先を募集中。乳製品 • GABA含有チーズ GABA生成菌を用いて乳製品製造を行うには、ご自身で菌を培養し増菌する必要があります乳酸菌 • GABA生成乳酸菌スターター（イメージ画像）ラクトコッカス属乳酸菌畜草研鈴木チセ博士提供牛乳の他に、植物等の発酵原料でもGABA生成が可能。実用化に向けた課題 • 乳酸菌を自家培養できる事業者は、すぐに利用可能。 • DVSスターターが販売されていないため、菌を自家培養できない事業者は利用できない。企業への期待 • 特徴ある発酵乳製品を開発中の事業者には、本技術の導入が有効と思われる。 • 乳酸菌スターター調製技術を持つ企業との共同研究を希望。本技術に関する知的財産権 • • • • 発明の名称特許番号出願人発明者：新規チーズスターター：特許第4185125号：農研機構、日本全薬工業：野村将、森智之お問い合わせ先（必須）農研機構畜産草地研究所畜産物研究領域上席研究員野村将ＴＥＬ０２９－８３８－８６００(代表) ＦＡＸ０２９－８３８－８６０６詳しくは、畜産草地研究所ホームページからお問い合わせください。 http://nilgs.naro.affrc.go.jp/