詳細はこちらへ - 生命環境科学研究科

血圧降下作用や精神安定作用で注目の GABA 合成に大きく貢献するトマト遺伝子の発見
γ−アミノ酪酸(GABA)は血圧降下作用や精神安定作用をもつことから、近年健康機能性成分と
して注目を集めています。トマトは野菜の中でも比較的多くの GABA を蓄積することが分かってお
り、健康食品素材として期待されている一方で、その生合成に大きく貢献する遺伝子は未だ明らか
になっていませんでした。筑波大学生命環境系の江面浩教授、同生命環境科学研究科大学院生の高
山真理子氏らは、GABA の生合成の鍵となる遺伝子を発見しました。これは理化学研究所・環境資源
科学研究センターとの共同研究です。この成果は国際学術誌「Plant & Cell Physiology」に掲載
予定です(すでにオンラインで先行公開されています)。
■背景
GABA はアミノ酸の一種であり、抑制性の神経伝達物質の一つとして作用することが知られており、
口から摂取した GABA は血圧降下や精神安定作用をもつことから、健康機能性成分として注目を集
めています。高等植物において、GABA はグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)の働きにより、グルタミ
ン酸から合成されます。野菜の中でも比較的 GABA を蓄積しやすいトマトにおいては、少なくとも
3つの GAD 遺伝子が存在していることが報告されています。しかしながら、これら GAD 遺伝子と果
実成熟過程における GABA の蓄積との関連については未だ明らかになっていませんでした。
■成果
本研究では、トマトの3つの GAD 遺伝子 SlGAD1、SlGAD2、SlGAD3 の発現をそれぞれ抑制した形
質転換体(RNAi-SlGAD1、RNAi-SlGAD2、RNAi-SlGAD3)や3つの遺伝子全てを同時に抑制した形質
転換体(RNAi-SlGADall)の解析を行いました。各形質転換体の果実内 GABA 含量を調査した結果、
特に RNAi-SlGAD3
RNAi-SlGAD2、RNAi-SlGAD3 および RNAi-SlGADall 系統において減少傾向がみられ、
および RNAi-SlGADall 系統では赤熟果実の GABA 含量が非組換え体の 10%以下にまで減少することが
分かりました (参考図 1A, 1B, 1C)。これらの結果は、トマト果実に蓄積される GABA の大部分が
GAD 遺伝子の働きによって生合成され、その中でも SlGAD2 および SlGAD3 が主要な役割を担ってい
ること示しています。
また、RNAi 法による GAD 遺伝子の発現抑制実験から果実内 GABA 含量に特に大きく影響すること
が示された SlGAD3 を、トマト植物体で過剰発現させてみると、非組換え体と比較して GABA 含量が
葉で最大 17 倍、
赤熟果実で最大 5.2 倍に増加することが分かりました (参考図 1D)。このことから、
SlGAD3 はトマトにおいて実際に GABA の生合成に大きく貢献する遺伝子であることが確認されまし
た。さらに、SlGAD3 過剰発現体は非組換え体と比較して、草丈や果実の重さなどに違いが見られな
かったことから、SlGAD3 が引き起こす GABA の蓄積は果実の形態に異常を引き起こさないことを示
しています(参考図 2)。
■ 今後の期待
本研究の成果によって、トマトにおいて GABA の生合成に大きく貢献する遺伝子が明らかになり
ました。今後、血圧降下に効果の高いトマトジュースといった機能性食品開発といった GABA 蓄積
の向上が求められる応用研究において、有用な遺伝資源としての活用が期待されます。
■ 参考図
図1 形質転換トマトの赤熟果実における GABA 含有量
SlGAD2 あるいは SlGAD3 の発現をそれぞれ抑制した形質転換体(A, B),3つの SlGAD 遺伝子全てを
同時に抑制した形質転換体(C), および SlGAD3 過剰発現体 (D)の果実内 GABA 含量を非組換え体で
ある野性型(WT)と比較した.
図2 SlGAD3 過剰発現株の形態
SlGAD3 過剰発現体 (HO)と非組換え体(WT, AZ)の植物体および赤熟果実の様子.
掲載論文
【題名】Tomato Glutamate Decarboxylase Genes SlGAD2 and SlGAD3 Play Key Roles in Regulating
γ-Aminobutyric Acid Levels in Tomato (Solanum lycopersicum).
トマトの SlGAD2 及び SlGAD3 は,トマトの GABA 含有量を制御する鍵遺伝子である。
【著者名】Takayama M, Koike S, Kusano M, Matsukura C, Saito K, Ariizumi T, Ezura H.
江面浩、高山真理子、小池悟志、松倉千昭、有泉亨(以上、筑波大学);草野都、斉藤和季(以上、理
研・環境資源科学研究センター)
【掲載誌】Plant and Cell Physiology(2015 年 5 月 25 日にオンライン掲載)
問合わせ先
住吉美奈子(すみよし
筑波大学
みなこ)
生命環境エリア支援室
江面浩(えづら
プログラム・コーディネーター
ひろし)
筑波大学 生命環境系 教授
〒305-8574 茨城県つくば市天王台 1−1−1