EU Trends

EU Trends
今そこにあるギリシャの資金繰り危機
発表日:2015年3月11日(水)
~資金繰り確保と政治リスクのトレードオフ~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ ギリシャの国庫は枯渇寸前。3月中の財政資金の不足額は15億ユーロ程度とされ、政府は社会保障基
金や政府関係機関の積立金を中銀管理口座に移管することを要請しているほか、政府調達の一部支払
いを延期することを検討している。
◇ ギリシャ政府としては、3・4月中の財政資金不足をどうにか乗り切る間に、次回融資の一部実行と
政府短期証券の発行増額を勝ち取る算段のようだ。支援提供国側も融資の分割実行の可能性を排除し
ていないが、それにはギリシャの改革実行と関連法案の可決が大前提となる。
◇ 改革関連法案の採決に際して、ギリシャの政治リスクが高まる可能性がある。支援協議が終了するま
での間、連立組み換えによる挙国一致内閣で乗り切ることが出来れば「御の字」。再選挙となれば、
支援協議の中断で資金繰り危機に見舞われる。
■ 国庫は枯渇寸前、埋蔵金に手を付け始めている
各種報道によれば、ギリシャ政府の財政資金は既に枯渇寸前で、月内に予定されるIMF融資の返済と
公務員の給与支払いや年金給付に充てるため、社会保障基金や国営企業・政府関係機関が民間銀行に預け
ている積立金や現預金をギリシャ中銀が管理する預金口座に移管することを要請しているほか、政府調達
関連の納入代金の支払いやVATの還付金の支払いなどを延期することが検討されているようだ。
11日付けの英ファイナンシャル・タイムズ紙によれば、社会保障基金や国営企業・政府関係機関が保有
する現預金は20億ユーロ程度とされ、15億ユーロ程度とされる3月中の財政資金の不足額をどうにかカバ
ーすることが可能だ。ギリシャの公的債務管理局(PDMA)は民間銀行よりも高い預金金利を支払うことを
約束し、社会保障基金や国営企業・政府関係機関の預金移管を勧めているが、幾つかの国営企業・政府関
係機関は難色を示しているとされる。関係者の発言によれば、万が一、ギリシャ政府がデフォルトした場
合、中銀管理預金のヘアカットが求められる可能性があり、預金移管を決定した理事会は訴訟リスクに晒
される。同記事によれば、社会保障基金の保有する現預金については、休眠中の60年前の法律を適用する
ことで強制的に預金移管をすることも検討されているようだ。
また、財政資金不足を穴埋めするため、ギリシャの金融安定基金(HFSF)が保有する5.5億ユーロの準備
金を国庫に移管することが可能とされる(9日付けのギリシャのカティメリニ紙は、HFSFが保有する4.5億
ユーロの準備金が国庫に移管されたと報道している)。なお、20日のユーロ圏財務相会合(ユーログルー
プ)では、HFSFが管理していたギリシャ二次支援で拠出された銀行救済費用の残額109億ユーロについては、
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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欧州金融安定基金(EFSF)の管理下に移され、銀行救済以外の目的に援用することが出来なくなった。今
回のHFSFの5億ユーロ前後の準備金は、二次支援以前に積み立てられたもので、ギリシャの財政資金に充
当することが認められるようだ。
■ 改革履行が大前提、綱渡りの資金繰り
ギリシャのプライマリー・バランスは黒字化し、対外債務の支払いと利払いの履行が可能な限り、本来、
公務員の給与支払いや年金給付などの支払いに窮することはない筈だ。だが、政権交代後の税制変更を見
越した税滞納や先行き不透明感の台頭による景気再失速も加わり、1月の税収は計画対比で10億ユーロ近
く下振れした(図表1)。このまま税収の下振れが続けば、公務員給与や年金給付など国内向けの支払い
にも支障が出始める。対外債務の返済スケジュールを確認すると、3月中に残されたIMFへの融資返済
は13日に約3億ユーロ、16日に約6億ユーロ、20日に約3億ユーロの合計約12億ユーロ。4月のIMF融
資の返済額は約5億ユーロとそれほど大きな金額ではない(図表2)。ギリシャ政府としては、3・4月
の財政資金不足を預金移管と政府調達の一部支払い停止で乗り切る間に、72億ユーロの次回融資(EUに
よる二次支援の最終トランシェ、中断中のIMF融資の次回分、ECBが保有するギリシャ国債の超過収
益還元分の合計額)の一部実行や政府短期証券の発行増額を勝ち取る算段と考えられる。
ユーログループのダイセルブルーム議長は9日、ギリシャ政府が改革リストを実行に移すのであれば、
次回融資の一部を前倒しで分割実行する可能性があることを示唆している。過去にも支援融資を分割実行
したことがあるが、分割実行にあたっても改革の履行を条件としてきた点には変わりがない。また、政府
短期証券の発行上限を引き上げることに対しては、銀行を迂回した間接的な財政ファイナンスに相当する
可能性があるとし、ECBが難色を示している。だが、ECB関係者の発言とする9日付けのロイター通
信の報道によれば、例えば外国の銀行団を対象にギリシャが政府短期証券を発行するのであれば、財政フ
ァイナンスには相当しないとも述べている。無論、ECBも無条件で発行上限の引き上げを認めることは
なく、ギリシャ政府に改革履行を求めることが予想される。こうしてみると、ギリシャが目先の資金繰り
危機を回避できるかは、4月末までに改革の具体策で関係諸機関(旧トロイカ)と合意し、関連の法案を
議会で可決できるかに掛かっている。それまでは正に綱渡りの資金繰りが続くことになる。
改革関連法案の議会採決に際しては、連立政権の存続が危ぶまれる事態も想定される。一部議員の離党
後も連立政権が過半数を辛うじて維持する場合や、支援協議が終了するまでは連立の組み換えによる挙国
一致内閣で乗り切ることができれば「御の字」だろう。連立政権の崩壊で再選挙が必要となれば、支援協
議の中断は避けられず、資金繰り危機に見舞われる。緊縮受け入れの是非を問う国民投票を実施する事態
となれば、ユーロ離脱リスクを意識せざるを得なくなる。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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(図表1)ギリシャの月次財政収支の累積値
【一般政府歳入】
【プライマリー・バランス】
(億ユーロ)
(億ユーロ)
40
600
2013年
2014年
500
30
2013年
2015年
2014年
400
20
2015年
300
10
200
0
100
-10
0
-20
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月11月12月
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月11月12月
出所:ギリシャ財務省資料より第一生命経済研究所が作成
(図表2)ギリシャ政府の当面の債務返済額
(億ユーロ)
債券の利息
80
IMF融資返済
70
政府短期証券
60
政府機関債
50
国債
40
30
20
10
2015年12月
2015年11月
2015年10月
2015年9月
2015年8月
2015年7月
2015年6月
2015年5月
2015年4月
2015年3月
0
出所:Bloombergより第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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