概要 - 数理物理学研究室

d 波超伝導体におけるギャップ対称性と比熱の振動に関する理論研究
量子多体物理学 41420130 平木 将行
異方的超伝導体のいくつかは、運動量空間のフェルミ面でのある方向において超伝導ギ
ャップがゼロとなる節(ノード)を持つ。ノードを持つ超伝導体に対して磁場を印加する
と、磁場の方向とノード方向との相対角度によってゼロエネルギー状態密度が変化する。
それを反映して、異方的超伝導体のいくつかは、ab 面内での磁場回転に伴って比熱が振動
する。
本研究では、
d 波超伝導体の ab 面内に磁場を印加した際にできる磁束格子状態の超伝導
オーダーパラメーターの空間構造を、準古典理論を用いて自己無撞着に計算し、それをも
とに磁束状態での比熱の温度・磁場依存性を評価した。特に、面内磁場を回転させること
によって起こる比熱の振動に着目し、超伝導ギャップのノードの方向と磁場の方向との相
対角度によって振動する比熱の振幅が、どのような温度・磁場依存性を示すかを調べた。
その結果、図 1(a)のように、低温低磁場領域とその外側の領域とでは、比熱振動の符号が
反転すること[1]を確認した。低温の振動符号は磁場中状態密度から期待されるものと一致
している。更に、パウリ常磁性効果やフェルミ速度の異方性の影響を考慮し、振動符号の
振る舞いが定性的に変化するかを調べた。これらの結果(図 1(b))は、物性研榊原グルー
プの CeCoIn5 における実験結果[2]と定性的に一致し、この物質の超伝導対称性が dx2-y2 で
あることを示唆するものである。これらに加えて、ab 面内に磁場を印加した際に安定とな
る渦糸格子の形状の磁場角及び温度依存性についても評価した。
[1] A. B. Vorontsov and I. Vekhter, Phys. Rev. B 75, 224501 (2007).
[2] K. An, T. Sakakibara, R. Settai, Y. Onuki, M. Hiragi, M. Ichioka, and K. Machida, Phys. Rev. Lett. 104,
037002 (2010).
図1 (a)
(b)
図1.比熱振動の振幅の温度・磁場依存性。フェルミ速度の異方性と常磁性効果がある場
合(a)と無い場合(b)。図中の線より原点側と外側とでは、振動振幅の符号が反転している。