時間依存密度汎関数法に基づいた理論研究

時間依存密度汎関数法に基づいた理論研究
最近のレーザー技術の発展から光の周期数サイクル分の超短パルスレーザーや電子ダイナミク
スと同程度の時間領域であるアト秒(10-18 秒)パルス光を利用した、超高速・非線形現象の観測
及び解明が注目を浴びています。このような時間領域はこれまで観測されていない電子ダイナミ
クスが見られる領域であり、物理過程を理解するにはこれまでとは違う理論的アプローチが必要
となります。
我々は、多電子系のダイナミクスを原子種と位置のみから記述することができる時間依存密度
汎関数法(TD-DFT)の基礎方程式である時間依存 Kohn-Sham 方程式(TD-KS eq.)を、実時間法を
用いて逐次的に解くことによりレーザー場アト秒から数十フェムト秒(10-15 秒)での非線形超高
速現象の解明を行っています。この手法を用いて、これまでに原子・分子のトンネルイオン化率
[1-3]や透明材料のプラズマ化[4]、コヒーレントフォノン生成過程といった様々な現象の解明に成
功しています[5]。
最近では電磁場ダイナミクスと TD-KS 方程式を融合した新しい多階層シミュレーション手法
[6]を開発し、レーザー加工過程の解明や、レーザー伝搬まで取り入れたより実験に近い状況での
シミュレーションも行っています。
超高速物性で最も興味深い研究対象として、強いレーザー場中での電子ダイナミクス及び電子
応答があります。図1に示したのは振動数 0.4eV の強いレーザー場中を光の周期より短い(中心
振動数 5.5eV, 700 アト秒)パルス光で刻むような超高速固体分光を行った場合に得られる誘電関
数の虚部(Im[ε])の変化量の第一原理シミュレーションの結果を示しました。横軸は観測光が照射
図 1(a) 励起光の電場波形。ピーク電場は規格化されている。(b)-(d) 各
電場強度での誘電関数の虚部の変化量。縦の実線(破線)は電場がピ
ーク(ゼロ)になる時刻。
された時刻(Tp)。(a)は励起光の電場波形、(b)-(d)は Im[ε]の変化量の励起光強度依存性を示して
います。(b)-(d)での縦軸は光のエネルギーです。対象物質はダイアモンドで計算上の光学ギャッ
プは 5.5eV となっています。電場強度が比較的弱い時には電場ピークと変化のピークは一致せず、
強いエネルギー依存性が見られます。電場強度が強くなるに従い、電場に対して即時応答になっ
ていきます。シミュレーションと同時に、解析的理論からこれは励起光によって生じた、光子を
纏った状態(ドレスト状態)間の干渉が観測光によって起きていることを明らかにしました[7]。本
成果は超高速固体物性制御の基本原理を明らかにしたもので All optical による超高速信号処理に
向けた大きな進展となります。
問い合わせ先: 乙部 智仁
E-mail:
[email protected]
参考文献:
[1] T. Otobe, K. Yabana, and J.-I. Iwata, Phys. Rev. A 69, 053404 (2004)
[2] T. Otobe, K. Yabana, Phys. Rev. A 75, 062507 (2007)
[3] H. Akagi, T. Otobe, et al., Science 325, 1364 (2009)
[4] T. Otobe, et al, Phys. Rev. B 77, 165104 (2008)
[5] Y. Shinohara, K. Yabana, Y. Kawashita, J.-I. Iwata, T. Otobe, and G. F. Bertsch, Phys. Rev. B 82,
155110 (2010)
[6] K. Yabana, T. Sugiyama, Y. Shinohara, T. Otobe, and G. F. Bertsch, Phys. Rev. B 85, 045134
(2012)
[7] T. Otobe, Y. Shinohara, S. A. Sato, and K. Yabana, Phys. Rev. B 93, 045124 (2016)