概要 - 数理物理学研究室

多成分サイクリック d 波超伝導体における渦糸の理論研究
量子多体物理学
41421131
秋山 貴信
重い電子系をはじめとする多くの異方的超伝導体においては、超伝導秩序変数が多成分
となる新たな超伝導機構が実現している可能性があり、その解明は非常に興味深い問題で
ある。このような多成分超伝導の新奇な系においては、単一超伝導秩序状態では見られな
い渦糸物理の現象が期待されるが、カイラル p 波超伝導[1]の他には、十分な理論解析が行
なわれていない。これらの渦糸状態について微視的な準古典理論による正しい解析を行な
うことは、多成分超伝導体の物理を理解する上でも非常に重要である。本研究では、カイ
ラル p 波とは異なる形式で時間反転対称性を破るサイクリック d 波超伝導体における渦糸
状態に注目し、面内の磁場回転下で理論解析することで、多成分の超伝導秩序変数を持つ
系における新しい知見を得ることを目指した。
軌道角運動量 L=2 を持つ d 波対状態は等方的な 3 次元空間では 5 重縮退しているが、
立方晶においては結晶場の効果より三重縮退した t2g 軌道と、二重縮退した eg 軌道に分裂
する。この内、eg 軌道の 2 成分を線形結合させて 2 種類の”サイクリック d 波”と呼ばれ
る状態を作ることができる。これらは互いに復素共役の関係で、無磁場において立方晶の
対称性を保ちつつ時間反転対称性が破れている。また[±1, ±1, ±1]の8つの方向にポイント
ノードをもち、[1,1,1]軸まわりに3回回転対称な形をしているなど、他の d 波にはない特
徴的な性質を保有している。
本研究では、超伝導秩序変数として 2 成分のサイクリック d 波が存在する系を考え、
その渦糸状態の特徴を解明することを目指した。例えば、渦糸が侵入し主成分局所的に抑
制されると、その主成分まわりに対相互作用を介した副成分が誘起されることを確認し、
その空間構造を明らかにした[図(a)]。また、実際の超伝導体でサイクリック d 波の秩序状
態が存在する可能性として、充填スクッテルダイト超伝導体 PrOs4Sb12 を挙げ、面内磁場
回転に対するドップラーシフトに起因した比熱振動[2]についても考察した[図(b)]。
[1] 例えば M. Ichioka and K. Machida, Phys. Rev. B 65, 224517 (2002).
[2] T. Sakakibara et al., J. Phys. Soc. Jpn. 76 (2007) 051004.