湖がある街 /埼玉大学大学院理工学研究科教授 窪田 陽一

湖 がある街
窪田 陽一
埼玉大学大学院理工学研究科教授 レイクタウンと名付けられた街がある。埼玉県
こしがや
越谷市の南部に位置する地区で、人造湖を中心に環
必要な貯留容量を一か所に集めて湖を中心に据え
た市街地を形づくることは不可能ではないのだ。
境共生都市を目指して新しい市街地が平成 20 年に
越谷レイクタウンのような実例は他国にはかな
街開きし、今もまちづくりが進められている。地球
りある。ドイツの内陸都市ハンブルグには昼休みに
温暖化が進む現代、環境共生を旗印とする都市は他
ヨットのセーリングを楽しめるアルスター湖が、東
にもあるが、太陽光や風力をエネルギー源とするハ
京で言えば銀座と霞が関に似た街区に面している。
イテク型の装置群を組み込んだ市街地を意味する
アメリカでも半世紀以上前から実現されている。コ
スマートシティとこの街の景観は様相が大きく異
ロンビアシティと名付けられた東海岸の内陸都市
なる。三種の神器の如く IT を詰め込んだ区域はここ
では、元からあった池を塞き上げて湖に拡大し、水
にもあるが、最大の特徴は、建物が建つことを想定
面を取り囲む森の中に業務ビルが点在する、超高層
する平凡な土地造成を行わず、広大な水面を誕生さ
ビルが立ち並ぶ都心という凡庸な固定観念を覆し
せたことだ。元は豪雨の後に川から溢れ出た洪水が
た市街地を形成している。アメリカのウォーターフ
滞留する平坦な場所で、水田が土地利用の大半を占
ロントを再生させて都市再生の魔術師と敬愛され
め、沼も多く地下水位も高かった。当時の市長は日
たジェームス ・ ウィルソン ・ ラウスが手掛けた新都
本で実現されたことが無い環境の創出に大変意欲
市である。内陸都市にも水面は必要だ、いや内陸だ
的で、市は無秩序な乱開発が進む前に計画を策定し
からこそ水の存在は貴重なのだという思いが、同氏
て都市化の圧力を整然と受け止める方向を堅持し、
に面会した執務室の窓から見える湖を目にした私
私も基本計画の策定に参画した。土地を造成すれば
の胸中に沸き上がった。スマートな都市とは電力供
建物が建ち、人口も働く場所も増えるのに、そんな
給網を IT で管理するだけの一芸都市であってはな
水面を中心部に置くのは税の無駄遣いだ、と指弾す
るまい。水の多義的な意味を感受できる水辺の創出
る声も小さくはなかった。だが、土地開発に重点を
は、高温多雨に向かいつつある日本の都市に人間と
置くとしても雨水の排水調節を本務とする貯留施
自然が共生する環境を生み出す原点であると思わ
設を開発規制に則って確保することは免れ得ない。
ずにはいられない。
せ
越谷レイクタウン
すい滴
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