駐在員の家族が心がけるべき安全対策

駐在員の家族が心がけるべき安全対策
外務省 領事局 政策課
新保 剛
領事専門官 Shimbo, Tsuyoshi
外務省で海外安全・危機管理の業務に携わっ
ているが、いつも心配なことがある。外国に滞
在する邦人一人ひとりに正確に情報を伝えるこ
とができているか、理解されているか、勧めた
安全対策が実行されているか、である。
家族に正しく伝わっているか?
正しい情報を得て正しく恐れる
昨年、エボラ出血熱が西アフリカで大流行
し、日本国内でも大きく報道されるようになっ
たころに、いくつかの企業から電話照会を受け
て驚いたことがある。外務省が渡航の延期を勧
昨年、筆者は海外在住体験のある母親たちの
める危険情報を出したのは3カ国のみであった
ボランティア団体「フレンズ 帰国生 母の会」
が、アフリカ大陸全域への出張を見合わせた企
の会合で講演したことがある。講演後に受けた
業や、患者が1人も出ていない国にも関わらず
質問は母親たちが海外在住時に不安に感じたも
アフリカ事務所開設を延期した企業があったか
のが中心であったが、ふと気が付いたことがあ
らである。未知の感染症ということから、やむ
る。彼女たちにとっては、夫の勤務先から提供
なく過剰な対応となったものと思うし、社員の
された情報に今ひとつ信をおけなかったか、説
安全を軽視するような企業よりは望ましいが、
明が不十分だったかもしれないということだ。
過剰な対応は企業活動まで停滞させかねない。
なぜそう感じたかと言えば、筆者自身の苦い
ある評論家がテレビで「エボラ出血熱の正し
経験からくるものである。筆者の海外勤務歴は
い情報を得て、正しく恐れる」べきだと述べて
20 年。その半分以上は家族帯同であったが、私
いた。全く同感である。インターネットの発達
の妻は西アフリカのガボンに転勤早々にマラリ
によって、得られる情報は膨大であり玉石混淆
アに感染した。ロシア勤務の時、長男、長女を
でもあるが、緊急事態が発生した際にネット上
わが家の運転手に託してピアノ教室に送ったら
で飛び交う流言飛語に惑わされないようにしな
途中で交通事故に遭ったし、南アフリカでは末
ければならない。
子の次男が自宅で飼い猫が捕まえたネズミを取
り上げて遊んでいたら噛まれた。幸いなことに
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全対策を施していなかったことが原因である。
こんこう
情報を一人ひとりに伝えたい
妻は平癒したし、交通事故はバンパーが凹んだ
昨年末と今年初め、シドニーとパリで衝撃的
程度だったし、ネズミに噛まれても狂犬病には
なテロ事件が発生した。現地の在外公館は直ち
ならなかった。大事には至っていないが、いず
に邦人が巻き込まれていないか情報収集を開始
れも筆者に知識がありながら、家族に十分な安
し、併せて在留邦人や旅行者に電子メールで事
2015年3月号