海外での日本語の維持~我が家の場合 池谷明子 フレンズ 帰国生 母の会 Ikeya, Akiko 2001 年8月、3度目のアメリカ赴任が決まっ いては効果的かもしれない。ただ、家庭の中で た。過去2回の赴任と異なるのは、2人の娘が 四六時中英語で生活するのは現実的ではないと 学齢期となったことだ。7歳の娘は小学校に、 感じた。 2歳の娘も幼稚園に通うことになるので、英語 そ ん な 折、 『言葉と教育』 の習得と日本語の維持に思いを巡らせた。英語 (写真)という本に出合った。 は、 「子どもは自然に話せるようになる」と聞 バイリンガル研究の第一人者 くけれど、話せるだけでいいのか、日本語も、 でもある著者の中島和子氏 年齢によって留意しなければいけないことがあ は、膨大な研究データのもと、 るのではないかと考えていた。英語と日本語の 「母語の発達(基礎)がしっか 2つの言語を同時にバランス良く発達させるに りしていることが2番目の言 は、日本語の本を数多く読み聞かせて、努めて 葉の習得の成功のカギになる」また、「母語は 会話をしようとすることくらいしか思い浮かば アイデンティティの形成にも大きく影響する」 なかった。私はもっとはっきりとした方法を模 と述べている。 「これこそ、求めていた答えだ!」私は膝を 索していた。 母語の重要性を教えてくれた本 打った。それまで漠然と考えていたことは間違 いではなかったのだ。英語も大事だけれど日本 ニューヨーク州の公立小学校に、2nd Grade 語はもっと大事である。私は晴れやかな気持ち の新学期から編入した長女は、初め英語が分か で家の中では正しい日本語を使い、そして本を らず泣きながら帰宅することもあった。手ほど たくさん読ませようと決めた。 きで英語を教えられるだけの英語力がなかった 私は、ただただ長女の話を聞いてなだめるのが 日本語の本をたくさん読ませる 精いっぱいだった。そんな娘を心配してくだ 現地校では、勉強もだんだん難しくなってい さった担任の先生は、 「英語が話せるようにな き、宿題も増えていった。当たり前だが、学校 るには、家の中では英語で会話をして、テレビ へ行ってももちろん、友人の家に行ってもスー もたくさん見せてください」とか「プレイデイ パーに行ってもお医者さんに行っても、どこへ ト(遊ぶ約束)をたくさんしてください」など 行っても英語である。英語という大波にのみ込 とアドバイスをしてくださった。確かに、先生 まれそうになりながらも、日本語を維持しよう のおっしゃることは“英語上達”という点にお と必死にもがいているようだった。いっそのこ 32 2015年5月号
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