「途上国」から「新興国」へ

第
2 「途上国」から「新興国」へ
回
イラスト・題字:長峯亜里
「理想的な世の中?」とかけて、
「自己顕示欲の強い
能ある鷹の爪」と解く、その心は……
(本稿末尾へ)
ぶ人たちもいる。「新興国」は、主に経済面に主
眼を置きつつ、急速な発展を遂げている国を指し
ており、平たく言えば「勢いのある国」なのだ。
勢いの違い
企業に例えると、どんなに小規模で赤字続きで
私がアジアと直接関わり始めた 1980 年代半ば
あっても、勢いがあり将来大きな成長が期待でき
当時、アジアは「開発(発展)途上国」という言
る会社は、「ベンチャー企業」と呼ばれる。「中小
葉から連想されるイメージ一色だった。
すなわち、
企業」には変わりないが、勢いや将来性ゆえに前
工業面のみならず教育や保健衛生などの水準が低
向きなレッテルを貼ってもらえるのだ。
く、経済は ODA や海外からの投資に大きく依存
する他力本願的で、低所得者層が大勢を占める地
ぜいじゃく
域という、どこか後ろ向きで脆 弱なイメージだ。
波に乗るタイミング
細かい定義はともかくとして、世の中がアジア
ところがどうだろう、最近はこの「途上国」とい
に勢いを感じ、そのダイナミズムの空気の中で自
う言葉はアジアではあまり耳にしない。代わりに
分自身も日常を送れていることは、素直にうれし
「新興国」という言葉が流行語となって久しい。
い。私が ODA の世界で仕事をし始めていた 1980
ちょうど私がベトナムのハノイからシンガポール
年代当時、
「自分たちの仕事が世の中から将来な
へ移り住んだ 2001 年頃から使われ始めたのだと
くなるために開発支援をしているのだ」と言い聞
記憶している。この言葉は、
内なるパワーを伴う、
かせていた。こと ASEAN に関しては、加盟 10
前向きで力強いイメージである。日本の高度成長
カ国のうちシンガポールとブルネイを除く8カ国
期のような勢いを想起させる
はいまだに援助受入国であるし、援助が完全にな
だが、そもそも「開発途上国」や「先進国」の
くなったわけではないが、隔世の感を禁じ得ない
定義は曖昧であり、国連や世界銀行、OECD な
ほどの躍進である。アジアよ、よくぞ頑張った!
どの国際機関により定義が異なる。さらに「新興
だが、新興国ともてはやされてきたこの十余年、
国」となると、
その定義は極めて主観的でファジー
そして日本企業が大挙して東南アジアを本格市場
なものだ。
開発途上国が成長すると新興国になる、
として目指してきたここ数年の間、1つの疑問が
という訳ではない。事実、世の中で新興国と呼ん
常に自身に付きまとっていた。
「日本企業はこの
でいる国の多くが途上国でもある。中には、
「後
成長の勢いをもっと早期に予測できなかったの
発開発途上国」である CLM3カ国のカンボジア、
か?」「もっと早くから成長の波に乗れなかった
ラオス、ミャンマーのことを「新・新興国」と呼
のか?」世界中の誰もが勢いを感じるようになっ
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2015年3月号