© toshi-kinoshita 米国発の金融危機が 北東アジアに及ぼす影響 2008年12月20日 北東アジア研究交流ネットワーク・政策セミナー用 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 木下俊彦 総 論 今時世界金融危機の本質と問題の所在 • 米国発の不動産取引バブルを主因とする証券化金融 商品、個人信用のシナジー化による信用の自己膨張、 +欧州金融機関も同商品に関与、さらに東欧・欧州新 興国へ過剰与信でバブル。それらが連動崩壊。 • 基軸通貨国米国は、双子の赤字により、一方で、ドル 通貨による世界への過剰流動性供給を行うとともに、 その過剰消費体質により、世界の過剰消費国としても 機能していた。バブル崩壊により、実体経済も悪化、世 界の商品・サービス需要の収縮へ。 • それらは世界的株安、不動産価格低落を招き、新興国 を含む世界金融逼迫と実体経済悪化へ悪循環。 G20(08年11月中旬)開催 史上最悪の事態は避けられた • 政策総動員で、危機回避に動くことで各国同意。 (30年代の教訓で、近隣窮乏化政策に走ることへの強 い反対をうたったことは極めて賢明)。 • 宿題の回答は09年4月。WTO新ラウンドは妥結?米 国新政権は、保護主義を排除するか。 • IMFなどの再編、格付け企業やヘッジファンドの規制・ 監督強化の必要性が列記された。今後どう進むか予 断許さず。欧州はIMFの保有シェアを下げることには 反対。米国政府の新金融・財政チームは規制緩和派。 また、欧州は、米国と考えが近い英国と仏(独)との原 理的対立がある。 国際金融協会(IIF)の08年、09年の 世界経済見通し(12月17日発表) 米国 ユーロ圏(15カ国) 日本 新興国 (中国) 2008年 1.2% 0.9 0.0 5.9 (9.3) 2009年 -1.3% -1.5 -1.2 3.1 (6.5) (注)中国の 09年成長率: 中国政府目 標は8.0%、 世銀予想は 7.5%。 Q. いつまで、金融危機は続くのか。 A. 1つのめどは、米国の不動産価格の底打ち 時点(2、3年後か)--木下 信用収縮の主因:世界の金融資産の損失 (単位)10億ドル 残高 推定損失率(%) 含み損失 米国ローン 12,370 14.0 1,738 米国証券 10,840 24.3 2,633 米国総合計 23,210 18.8 4,370 英国証券 1,095 24.0 263 ユーロ証券 7,830 14.5 1,134 欧州総合計 8,925 15.6 1,397 米欧総合計 32,135 17.9 5,767 (出所)みずほ証券、08年11月26日付報告。 (備考)1.サブプライムローン残高 1.3兆ドル(住宅ローン市場の1割) 2.欧米総合計5.8兆ドルの半分が金融機関の損失。世界の金融機関は 約1兆ドルを処理済み。含み損失の残り約2兆ドル。 3. 最終的な世界の含み損失として、10兆ドルも視野に入れる必要。 4. このほか、FRBが投融資、保証で抱えている含み金融損失8兆ドル。 5. 米国・家計資産も急減。本年7~9月で6.7兆ドルの株式時価などが消失。 (金融機関の損失と一部重複するので留意)。今後、不動産価値も減少見込み。 米国財政赤字、史上最高に。 どこの国がファイナンス?ドル価値は? • 08年9月の米国債の外国保有分2.9兆ドル(07年末比 +5,000億ドル)。うち、中国保有分が5,850億ドル[そ れ以外に不動産関連3,700億ドル]、日本5,732億ドル =04年7000億ドル弱、円売りドル買い停止で減少。 • 03年末~08年9月末、英国の保有額1,396億ドル増 (大半、産油国資金と推定される)。しかし、これは原 油価格低下で今後は続かず。 • 09年度の米国財政赤字1兆ドル超え?中国のシェア アップかリスク増大、発言力向上? FRBはTBの直 接引き受けも視野に?円高対策も含め、日本の円売 りドル買いはあるか?サムライ債発行が筋。 北東アジア3国の動向、留意点 日本、現在、何が問題か • 9月頃は余裕しゃくしゃくだったのに、なぜ、川向 きが変わって、景況観が急に悪化したのか。 <株価の大きな落込みによる逆資産効果(金融機関、貸し渋り) 、首相のリーダーシップへの落胆、急速な円高で企業収益落ち 込み、アジアや産油国経済も悪化で悪循環> • 日本政府の対内・対外措置は妥当だったか? • 日銀は機能的に動いたか?<日銀、政策金利引き下 げ、企業の資金繰り支援へ> • 日本の「失われた10年」の教訓は外国に適切に 伝えられたか? (1)中国、今、何が問題か? • 世界金融危機で国内構造問題が拡大。調整に苦慮。 • 通貨投機を伴うバブルの抑制と海外との通商摩擦回避 、「三農問題」解決の3兎を追って、内需志向経済転換 を決定。最低賃金の再度の引き上げ、産業政策(イン センティブ)の活用、労働法改定などにより転換を短期 間に行おうとしたため、比較優位や価格メカニズムの不 機能部分が拡大(世界不況で) 広東では政策論争。 • 軽工業、中小企業はもうからないからやめるという考え は粗っぽすぎる。付加価値率上昇、ブランド化のための 具体的検討が必要(政策誘導、R&D、人材投資が重 要)。各種産業政策、地域利害と衝突? • 国内消費が着実に増える制度・農業改革を前提に。 (2)中国、今後の経済動向のポイント 1.北京五輪関係投資(約4兆円相当)は小さく、終了に よる悪影響なし。上海万博、投資額は大きくない(産 業・消費行動転換の大きな契機となり、中長期効果。 2.4兆元(57兆円)財政投資による公共投資(2,3年は 財政に余裕)。雇用効果など不明。重複・不効率投 資のチェックの可否が将来に大きな影響。 3.株価年初来7割暴落の影響、日本(90年代)とは直 接比較できないが、逆資産効果は無視できず。 4.海外からの直接投資、なお高水準(サービス産業な どの増大、実行率次第に下がろう)。 5.国内貯蓄率、依然、世界的に高水準(構造要因)。 6.四川地震災害への支援継続と復興需要(効果、相 殺か)。 7.対外資金運用による含み損リスク(米国国債5100億 ドル、ファニーメイなど不動産関連債権3700億ドル)、 リーマンブラザーズの直接損失約10億ドル。 韓国、今、何が問題か • 07年は、株高、通貨高のバブル的状況。 • 政治が迷走、ロウソクデモなどの長期化、北朝 鮮・中国との関係悪化、引き続き改善しない労 使紛争が、経済面にも影響。企業体力低下。 • 97-98年の悪夢から、昨年末からまたIMFに行 くことにならないかといった論争発生。これに対 し(2400億ドルの外貨を持つ)政府がマネージ を誤り、国民の不安をあおってしまった。 • ウォン安の中、米国とのスワップ協定、日・中と のスワップ枠の拡大が実現。 北東アジア・日本のなすべきこと 北東アジア地域での協調 • マクロ政策(財政・金融政策、為替政策など) での政策協調(もちろん、限界はある)。 • 保護主義高揚を抑えるため、WTOドーハ・ラ ウンド成功に向けての協調。日韓FTAも。 • 証券会社、保険会社、ヘッジファンド、格付け 会社、カード企業への必要な規制・監督の導 入や特殊金融商品・デリバティブの透明性向 上を(北東)アジアの共同意見としてG20に。 • 中長期課題:産業構造転換・環境政策などで 日中韓の協力。とくにエネルギー協力。 日本のなすべきこと • 日本は、自国・アジア地域の利益だけでなく、国際公 共財(国際金融システムや貿易投資システム、知財保 護=WTOなど)維持・拡大にイニシアチブとるべき。I MF制度改善の提案やIMFへの外準からの1000億ド ル貸付は妥当。ただ、アジア諸国にはIMFへの強いア レルギーあり、IMF関連貢献は評価されていない。チ ェンマイ・イニシアチブ(800億ドル)の多角化と拡大、 日韓スワップ枠拡大を先行すべきだった。 • 米国新政権発足で日米中(韓)戦略対話の道の模索。 • 日本の90年代の失敗の教訓を他国にも共有させる。 • ADBの積極的活用。その他の制度機関(JBIC、JICA、 NEXI、JETRO等)利用による対アジア効果的支援。
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