特集 ダイカストにおける「可視化」最新技術 総論 ダイカストの型内溶湯挙動の 可視化・計測の重要性とその取組み 岐阜大学 岩堀 弘昭* 「百聞は一見に如かず」のことわざがある。目で見 湯流動・凝固の非定常かつ非平衡な動的現象を測らな ることは何よりも確かな事実をわれわれに示してくれ ければならない。単に計測器があればよいものではな る。科学技術の進歩はこれまで見ることができなかっ い。何を観察し、何を測るかを明確にし、そのために たことを可能にしてきている。身近なところでは、不 必要な計測器とセンサをつくり、それを型内にどのよ 透明な金属でも凝固・結晶成長がリアルタイムで観察 うに設置するか、そこには多くの技術課題がある。目 されている1)。しかし、まだまだ見たくても見えない 的に合わせて試作した機器を検証して間違いのない状 物はたくさんある。それは“モノづくり”の世界にお 態で用いなければならないが、測定されたデータの信 いて意外と多いのではないか。 憑性確認も重要である。 アルミニウム合金ダイカストは複雑形状の部品を、 本特集では、それぞれの研究者が可視化・計測技術 滑らかな外観で、寸法精度よく、極めて効率よく生産 の高いハードルを克服して構築した特徴あるダイカス できる優れた加工法である。この利点を活かして自動 ト金型内の溶湯挙動の可視化・計測技術について、そ 車を中心に年 100 万 t を超える部品が生産されてい の技術内容とそれによって明らかになった知見が紹介 る。対象部品は薄肉化、大型化、複雑形状化し、さら される。本稿では、総論としてアルミニウム合金ダイ に機能や強度を必要とする部品へと広がっている。部 カストの可視化・計測技術の重要性とその取組み状況 品の信頼性確保と不良の低減、生産コストへの厳しい についての概略を記すとともに、今後の期待について 要求に応えていくためには、さらなる技術開発とその 述べる。 高度化が必要である。 この“モノづくり”における「加工現象の正確な理 解」は、良品をつくるための基本である。しかし、素 アルミニウム合金ダイカストの品質課題と その克服に向けた取組みの経緯 形材加工で使う金型は透明ではないために中を覗くこ アルミニウム合金ダイカストの生産量は 1970 年頃 とは難しく、型の中、すなわちその加工点でどのよう から急増し始めた。研究は少し遅れて始まったようで なことが生じているかは推測の域を出ず、多くの技術 あるが、ダイカストの品質や凝固組織調査を行うこと 者がそこに高い関心を寄せて技術開発に取り組んでき で、この魅力的なプロセスにも大きな課題のあること た。ダイカストにおける可視化・計測は高速下での溶 が認識された。 *Hiroaki Iwahori:イノベーション創出若手人材養成セン ター 特任教授 〒501−1193 岐阜県岐阜市柳戸 1−1 TEL(058)293−2737 018 鋳造の基本は「溶かす・流す・固める」にある。す なわち、品質のよい鋳物づくりでは、ガスや介在物を 含まない清浄な溶湯を、鋳型の中に早く、静かに、乱 れなく充填させて、指向性凝固させることが求められ
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