マーケット展望 「地方創生特区」が選定、活性化問われる地方経済;pdf

マーケットウィークリー・821号
2015.3.27
マーケット展望 「地方創生特区」が選定、活性化問われる地方経済
作成者:奥村義弘
「地方創生特区」
が選定される
政府は3月19日、「地方創生特区」の第1弾として、秋田県仙北市、
宮城県仙台市、愛知県の3カ所を選定した。規制緩和で地域の活性化を
目指すもので、仙北市は温泉を核とした医療ツーリズムや国有林での
無人飛行機の実証実験、仙台市は起業手続きの簡素化や地域限定の保
育士創設、愛知県は公設民営学校の設置や自動走行自動車の実証実験
などを提案している。今回の選定発表のタイミングは、4月統一地方選
に合わせたもので、政策への有権者の支持を問うものと言えそうだ。
地方活性化は日
本の中長期的成
長に不可欠
今後加速度的に進行するとみられるのが人口減少だ。地方では既に
その傾向が顕著で、若い世代や女性の就労・子育て意欲を高める対策
が不可欠である。日本の合計特殊出生率は1.43(2013年)、数字は若
干改善傾向だが、20代若年層の減少は続いている。国立社会保障・人
口問題研究所が2012年1月に推計した日本の将来人口は、2010年の国勢
調査による1億2,806万人から、2048年 に は 1億 人 を 割 り 込 み 、 2060
年 に は 8,674万 人 に な る と 推 計( 出 生 中 位・死 亡 中 位 )し て い る 。
持続的な成長が可能な地域経済の形成は、人口を維持し、中長期的な
経済発展を目指すための、重要な試金石と言えよう。
自然資産など地
域の持つ資産の
活用が重要
今回の「地方創生特区」の選定から意識されることは、地域が持つ
特徴的な資産を活かすことが重要なポイントである。今回の特区では
温泉を持つ仙北市の医療ツーリズム への取り組みが関心を集めてい
る。温泉に限らず、「世界遺産」に登録されているような文化・自然
資産は日本を象徴する重要な観光資源である。京都など日本を代表す
る観光地などと並び、富士山周辺の別荘地や北海道ニセコのスキー場
なども人気を集めている。海外投資家の日本の観光資源への関心の高
まりを示すものと言えよう。
女性の活用も大
企業のみならず
幅広く
女性の活躍・起業の積極化による地域活性化を目指しているのが仙
台市である。先に戦略特区に選定され、ベンチャー企業の育成を図る
福岡市とも共通の点が多いが、東北復興の象徴としても注目される。
仙台市の場合は地域限定の保育士など女性活用に力を入れている点に
注目できよう。人・モノ・金の好循環が地域経済の活性化につながる
ことが期待される。ちなみに女性活躍推進の上場企業として、18日に
経済産業省から2014年度版の「なでしこ銘柄」が発表された。選出さ
れたのは40社。3年連続選出は東レ(3402)、住友鉱(5713)、日産
自(7201)、ニコン(7731)、東急(9005)、KDDI(9433)。こ
れら大企業のみならず幅広い産業、地域での広がりを期待したい。
先端技術を生む
人材育成も大き
な課題
愛知県は、「モノづくり・農業の産業強靭化特区」として選出され
た。経済規模の大きさから、東京圏、関西圏と並ぶ重要地域と言えよ
う。交通アクセスの面では、3大経済圏をつなぐリニア中央新幹線の工
事も始まり、様々な開発 事案がテーマとなる可能性がある。ト ヨタ
(7203)など自動車産業、三菱重(7011)など航空機産業といった日
本のリーディング産業の集積地であり、いかなる未来図を描けるかに
注目が集まる。ユニークなのが教育分野に対する取り組みで、自治体
が委託料を払い、民間に公立学校の運営を委託する「公設民営学校」
というコンセプトを掲げた。先端産業への人材輩出に期待が高まる。
マーケットウィークリー・821号
(千人)
140,000
◇我が国の人口推移と見通し
2015.3.27
◇我が国の世界遺産
(1)法隆寺地域の仏教建造物(奈良県生駒郡斑鳩町)
(2)姫路城(兵庫県姫路市本町)
120,000
100,000
80,000
(3)屋久島(鹿児島県熊毛郡屋久町、上屋久町)
(4)白神山地(青森県西津軽郡、秋田県山本郡)
(5)古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)
(6)白川郷・五箇山の合掌造り集落(岐阜県白川村、富山県平村、上平村)
(7)原爆ドーム(広島市中区大手町)
60,000
(8)厳島神社(広島県佐伯郡宮島町)
(9)古都奈良の文化財(奈良県奈良市)
40,000
20,000
(10)日光の社寺(栃木県日光市)
(11)琉球王国のグスク及び関連遺産群(沖縄県那覇市他)
(12)紀伊山地の霊場と参詣道(三重、奈良、和歌山三県)
0
(13)知床(北海道斜里町、羅臼町)
(14)石見銀山遺跡とその文化的景観(島根県大田市)
(15)小笠原諸島(東京都小笠原村)
(注1)実績値(1920年~2010年)は総務省「国勢調査」、「人口推計」、
「昭和20年人口調査」
(注2)推計値(2011~2060年)は国立社会保障・人口問題研究所「日本の
将来推計人口(平成24年1月推計)」の中位推計による
(出所)内閣府「平成25年版少子化社会対策白書」
(16)平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群
(岩手県西磐井郡平泉町)
(17)富士山-信仰の対象と芸術の源泉(静岡県・山梨県)
(18)富岡製糸場と絹産業遺産群(群馬県)
(出所)外務省公表資料より抜粋
◇「地方創生特区」3区域の目標
Ⅰ.秋田県仙北市
国有林野の民間開放特区
-「農林・医療ツーリズム」のための改革拠点-
目標: 市域の6割を占める国有林野について、その豊富な土地・資源を最大限有効に活用する
ため、内外の林業者や放牧等の食関連事業者への民間貸付・使用の拡大を推進するとと
もに、無人自動飛行(ドローン)の実証などにより、最先端の地方創生のモデルケース
を発信する。また、医師不足の解消や温泉等の観光地における外国人医師の受入れ環境
を整備し、農林・医療などの総合的なツーリズムを形成する。
Ⅱ.宮城県仙台市
ソーシャル・イノベーション創生特区
-「女性活躍・社会企業」のための改革拠点-
目標:女性、若者、シニアが主導するソーシャル・イノベーション(社会起業)を推進す
るため、開業手続きの迅速化や保育士不足の解消を図るとともに、産学連携の下、
自動走行等の実証などの新たなイノベーションを通じ、被災地からの新しい経済成
長のモデルを構築する。
Ⅲ.愛知県
モノづくり・農業の産業強靭化特区
-「産業の担い手育成」のための教育・雇用・農業等の総合改革拠点-
目標:自動車・航空宇宙等の国内最大のモノづくりの集積地として、教育・雇用分野にお
ける規制改革を通じた産業人材の育成や次世代技術の実証を通じ、成長産業・先端
産業・先端技術の中枢拠点を形成する。併せて、農業分野においても農地の流動化、
耕作放棄地の解消等を図ることにより、第一次産業も含めた総合的な規制・制度改
革を実現する。
(出所)首相官邸、国家戦略特別区域諮問会議(第13回)配布資料より抜粋