【KR13-18】 南西諸島南部における反射法・屈折法構造調査

南西諸島南部における反射法・屈折法構造調査
○新井隆太・海宝由佳・高橋努・仲西理子・藤江剛・三浦誠一・
小平秀一(海洋研究開発機構),金田義行(名古屋大学)
南西諸島では歴史的に海溝型巨大地震の痕跡が乏しく、また現在背弧拡大が活動的であることから
プレート境界の固着が弱いものと考えられてきた(Peterson and Seno, 1984)。しかし、琉球海溝南部にお
いて M7 クラスの地震が続発している点や、2004 年スマトラ地震を発生させたスンダ沈み込み帯との
テクトニクスの類似性から、南西諸島における巨大地震・津波の発生可能性が活発に議論されるよう
になってきた(Hsu et al., 2012; Lin et al., 2014)。また近年、島弧直下で繰り返し発生する slow slips (Heki
and Kataoka, 2008)や海溝軸近傍で発生する超低周波地震(Ando et al., 2012)といった多様な現象が観測
されている。歴史地震からは、最大遡上高約 30 m の津波により約 12,000 人の犠牲者を出したとされる
1771 年の八重山地震が知られており、プレート境界浅部周辺にその波源域が推定されている(Nakamura,
2009)。こうした一連の地震活動はプレート境界および周辺断層における摩擦特性の多様性を示唆して
おり、これらの実態解明が求められている。
文部科学省による受託研究「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」内の「巨大地震発生域調
査観測研究」では、地震発生の連動範囲及び地震や津波の時空間的な広がりを見積もるため、ほとん
ど知見のない九州から南西諸島海域にかけての沈み込み帯の構造と、地震発生の構造的な背景を明ら
かにすることを目的としている。その一環として、2013 年度に南西諸島南部の前縁断層構造及びプレ
ート形状を明らかにするための大規模構造調査と自然地震観測(KR-13-18)を実施した。本発表では主に、
反射法探査と海底地震計を用いた屈折法探査の解析結果について報告する。
調査測線(YA-05 測線)は東経 124-125 度において琉球海溝・琉球弧・沖縄トラフを南北に縦断する約
390 km である。測線上に海底地震計 60 台が約 6 km 間隔で設置され、「かいれい」に搭載される 7800
cu.in.エアガンを用いた発振が 200m 間隔で行われた。同一測線上において、ストリーマケーブル(長さ
6 km、444ch)を用いた反射法データも取得された。また、本測線の約 70 km 西方の沖縄トラフ内におい
ては、反射法データのみの取得もなされた(YA-01 測線)。
本航海で取得された反射法データから、プレート境界から上盤側に派生する反射面が発見され、プ
レート境界からの分岐断層と解釈した(図1)。屈折法解析から得られたP波速度構造(図1)を見ると、こ
の分岐断層はプレート境界との間に楔型構造を形成しており、低速度(Vp<5.0 km/s)の堆積物で充填さ
れている。この領域はNakamura (2009)による八重山地震の津波波源域と概ね一致することから、この
分岐断層での逆断層運動が津波の発生要因となった可能性が考えられる。反射法データからはプレー
ト境界は深さ約18kmまで追跡でき、約5°と非常に低角に沈み込んでいる。屈折法によるモホ面のマッ
ピングおよび震源分布(図2)を見ると、深さ30 km程でプレートの傾斜が急になり、深部では20-30度で
沈み込んでいる。また、琉球弧ではP波速度約6 km/sの上部地殻が厚さ10 kmほど存在し、一般的な大陸
地殻と似た構造を持つことがわかる(図2)。一方、背弧側の沖縄トラフ直下では地殻の厚さは約15 km
と推定され、背弧リフトにより地殻が薄化している。
図 1. 海溝軸近傍のおける反射断面(上)と OBS 記録から得られたP波速度構造(下)
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図 2. 屈折法データから決定した P 波速度構造とモホ面分布(白黒)と自然地震観測から決定した震源分布(オレンジ)
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