講演資料(翻訳版) - 琉球大学工学部 環境建設工学科 水工学研究室

この資料は、2015 年、6 月 9 日、J. Hsu 博士が琉球大学を訪問され、講演を行った際の PPT 資
料(英語版)を簡易的に翻訳したものです。あくまでも参考資料となっており、詳しい説明は原
本を参照されてください。引用の際には、下記 John Hsu 博士によるものであることを付記して
ください。
琉球大学 仲座栄三
1.海岸の管理及び防護のための安定海浜の概念
John R.C. Hsu (許栄中)
June 9, 2015 at University of the Ryukyus
台湾、国立中山大学名誉講座教授
オーストラリア、西オーストラリア大学 名誉研究員
オランダ、海岸工学(Coastal Engineering)編集委員(エルゼビア)
2.2013 年 4 月、トムソンロイター調査、工学部部門において非常に高い論文引用回数を
記録(トータル 261 人が引用)
3.最初に、私の指導教授であったリチャード・シルベスター教授(西オーストラリア大
学)
、土屋義人教授(京都大学防災研究所)に感謝の念を捧げたい。両先生からは、海
岸地形や海浜制御などの問題に対する実践的な考え方を教わった。
4.NSYSU(大学)の私の研究室からは、港、海や新しくできたヘッドランド海浜などが
見えます。
5.今日の話の内容
・海岸環境の大局的概念
・静的に安定しているヘッドランド海浜
2.1
湾状海浜の安定性
2.2
放物線湾形状の方程式
・ソフトウエア MEPBAY
と SMC の説明
・海浜の管理に関する地形学的なアプローチ
4.1 湾状海浜の安定性の検証
4.2 港の下手側へと進行する海浜侵食への対策
4.3 ヘッドランドによる制御:海浜保全
4.4 レクレーション用海浜の設計
4.5 海岸管理、EIA
4.6 海浜復元のケーススタディ
・まとめ
6. 第 1 章 海岸環境の大局的概念
7.海浜管理と保全のための SBBC
堀川による海浜の主要な海岸地形形成
ベイヘッドビーチ、ベイサイドビーチ、トンボロ、砂州、砂嘴、波の峰線など
8.海岸地形学について、我々は 1 つの世界にいる
9.安定な湾状ビーチの向きとうねりの大局的概念
10.西オーストラリア、デンマークの近くに見られる連続した安定湾状地形の繰り返し
継続的に来襲するうねりの主方向、海浜の下手側の地形の接線方向
11.ヘッドランド周りの波の屈折と回折(リーダーズダイジェスト、1983)
12.代表的な海浜の断面
代表的な砂浜海岸
砕波点を超えた辺りで沿岸漂砂を遮断する構造
13.応用海岸地形学
地球科学の内の 1 つの分野で以下の内容を含む
地質学:ソフト及びハード
平面図:形状(直線、曲線)そして寸法
外力 :うねり、台風、潮汐、流れ、安定性?
もし不安定ならー>海岸研究者や海岸技術者をよぶ???
14.平衡の概念
海岸線がその地形形状を維持しているときは、平衡状態にある(Bruun、1951)
海浜断面(Dean、1991, 1997)や平面形状(Taaner、1958; Hsu と Evans、1989)
の両方において平衡
放物線的な湾形状の方程式は、底質の供給が無い条件下(今日、これは実際のシナリ
オでもある)で静的平衡状態の湾曲したビーチに対して導かれている。
この巨視的なスケールでのアプローチは、海岸技術者やコンサルタンツそして地形学
者にとても有用となっている。
15.平衡海浜断面(EBP)
うねりは、ほぼ 1 つの周期を持つ波といえ
周期 T=6秒~12 秒の作用―>沿岸漂砂―>うねりが形成する海浜断面
暴風波浪はいろいろな周期の波から成る
方向が時間によって変動―>数時間の間に浜やバームから砂をシフトさせるー>
バーの形成―>暴風海浜断面
図中の説明:暴風波浪、風が作る流れ、減衰した波、うねりが作る断面、長時間の暴
風が作る断面、主として細砂、初期のバー断面、粗い砂、中間、細かい
16.Colin Woodroffe(2003)による海浜侵食の定義 侵食、安定、堆積
17.世界中でかなりの人口が海に近づいている・・・
最近多くの国において、人間と自然との間に対立が生じるようになってきた。
世界の海岸線において侵食状況はどうなっているか?
世界中で自然海浜は消滅し続けている。
砂浜海岸の 70%以上が過去数十年に亘って侵食された。
18.海岸浸食の主要因
自然が要因の場合
うねり― 斜め入射及び突き出たヘッドランド
暴風― 浜およびバームの侵食、バーの形成
その他自然要因― 海面上昇、地殻運動
人工的な要因(人為起源)
(1)沿岸漂砂の連続性の攪乱(海岸構造物など)
(2)波セルター(港の防波堤、沖防波堤)
(3)川からの底質供給の減少(ダム、堰)
(4)川や航路からの砂の抜き取り、浚渫
(5)地盤沈下(養殖のための地下水のくみ上げ)
(6)マングローブ林伐採
(7)不適切な海岸管理、他
19.海浜侵食の要因分類
人工起源・・・
(宇多、2010:日本における海浜侵食)
(1)沿岸方向砂輸送への障害
(2)波避難施設の建設
(3)河川からの底質供給の減少
(4)沖の砂の採掘・浚渫
(5)離岸堤の建設
(6)河岸林の過剰な植林
(7)緩勾配護岸の建設
20 海浜保全の選択肢
何もしないー無責任
・ソフト工学
・ハード工学
・ソフトとハードとの融合
どの選択肢を好むだろうか?
・海岸技術者として、私は
人工養浜による安定な湾を形成するために、ソフトとハードの組合せを選択する。
21.海浜侵食との戦い
従来の工法が広く適用されてきたが、すべてが成功しているわけでない、
費用は効果的
現在、海浜保全手法は徐々に変化している
ハードな工学的構造物に置き換えるためにソフト技術と海岸管理が用いられている。
Bird(1996)
:海岸管理が最も効果的であろう
“もし以下の事柄が理解されたならば;
いかように海浜は作られたか、どのような変化が起こっているか、将来何が起こり
そうか、そしてそれはなぜか”
22.沿岸保全方法
ハード的選択:
(安全が妥協できないとき)
1.堤防や護岸
2.突堤(直線;L,T,Y-形状;曲線、魚尾型)
3.離岸堤
ソフト的選択肢:
(環境的にやさしく、しかしたぶんコストは効果的でない)
4.保全施設を設置せずに養浜
5.潜堤、人工リーフなど
ハイブリットな選択:
6.ヘッドランド制御と養浜
23.線的制御
前浜のない堤防 あるいは 不適切な暴風緩衝地帯
・・・今・・・面的制御へ
24.台湾における堤防と波消工法
25.離岸堤+養浜
26.その他の国においては、海岸管理者や技術者は、侵食海浜の復元や保全に、人工構
造物を適用してきた。それらの、いくつかには、人工ビーチ養浜が用いられている。
ある場所において、いくつかのスキームは保全の目的を達成しているにも関わらず、異な
る人々には、あるいは時代が異なれば、批判されているようである。
ビーチの侵食を管理する際には、技術者にとって問題は 1 つのみでなく、地域、行政、環
境そして費用と便益係数などとの間の明確なバランスが存在する。
27.他の場所では何が行われているか見てみよう。
28.カーブした T 型の突堤(鹿島海岸、日本)
29 イタリアやシンガポール
30 スペイン、イタリア、フランス
31.スペイン、日本
32.シンガポール
33.シンガポール Sentosa
従来の離岸堤と Sentosa の場合における主な違いを比較して頂きたい。
34.T 型突堤(鹿島海岸) 突堤群 天橋立、鹿島海岸
35.離岸堤群(皆生海岸、鳥取県)
36.伊良湖海岸(愛知県)
沖側に設置された潜堤の例
37.高雄旗津 海岸侵食と保全方案
38 高雄旗津 海岸潜堤・離岸堤及び養浜工事が完成(2013)
39.静的に平衡状態のヘッドランドベイ海浜
経験的放物線湾形状の方程式
静的な平衡状態にあると思える湾状海浜の 27(現地とモデルを含む)のケースから
導いた(Hsu and Evans, 1989)
40.ヘッドランドベイビーチ
審美的に美しい
いたるところにある;長い地質学的な時間の間存在している。
ヘッドランドの背後あるいは間、自然あるいは人工的
ある特別な方向からの一貫したうねりによって形成
直線ビーチに比較してより安定
航空写真、地図、水路図、旅行雑誌などに見ることができる
多くの地形学者や海岸技術者らは、湾状ビーチの潜在力や直線海岸と曲線海岸におけ
る振る舞いの違いを認識していない。
41.オーストラリアにおける湾状ビーチ、リーダーズダイジェスト 1983 年
42.湾状ビーチの安定性
1)静的平衡:卓説した波は湾全体の波打ち際で一斉に砕ける、その結果沿岸ドリフ
トはほとんど発生しない。
2)動的平衡:湾内にアプドリフトや河岸起源の底質供給が安定性を維持するために
必要である。
3)自然再形成/不安定:港の防波堤や離岸堤の設置や延長による波の防御効果に関
連付けられる。
静的湾形状のみが、波の方向のみを用いて経験的に予測できる(Hsu and Evans, 1989)
43.湾形状の方程式
地理学者や海岸工学者らは、湾の汀線形状を定量化するために経験的な関係を導こう
と試みてきた。
3 つの経験的関係式が提案されている。
対数らせん(Krumbin,1944; Yasso, 1965)
放物線湾形状(Hsu and Evans, 1989, Silvester and Hsu 1993, 1997)
ハイパボリックタンジェント(Moreno and Kraus, 1999)
これらのモデルは、異なる座標系、原点、制御パラメータを有している。
波高や周期は含まれていない。
これらの内で、Hsu 及び共同研究者のみが以下を考慮している:
波の方向
波の回折の位置と構造物への変更
海浜安定性(静的平衡、底質入力無し)
44.コンピュータプログラムを用いて、対数・螺旋とハイパボリックタンジェントが静
的あるいは非静的平衡にある湾状ビーチをフィットするために用いることができる。
それらの欠点:
1)波の回折点を認識できない
2)座標原点はヘッドランドの先端と一致しない。
(例えば、波の回折点)
3)両モデルともビーチの安定性を説明できない。
4)両モデル共に、来襲波とビーチの配置の間の陽的な関係を与えない。
5)両方ともビーチの安定性を検証できない。ないしは新しいヘッドランドによる
環境変化のインパクトを予測できない。さらに下手へ侵食移動するビーチに存在
する構造物の延長の効果を評価できない。
45.
(経験的)放物線湾形状の方程式
これらは、静的平衡と考えられるベイビーチからのデータに基づいている。
基本パラメータ:
β 波の斜め入射を反映する
Rβ コントロールライン
静的平衡状態における汀線上の点
Rn ビーチにおけるある点までの半径距離
局座標角
C coef= 後退解析から得られる。
46.放物線湾形状の方程式の定義
47.リチャード・シルベスター博士は、実践的な精神とビジョンを持った方である。
シルベスター(Nature, 1960) 海岸の安定のための湾状海浜の勧め
48.放物線湾形状の方程式(Hsu and Evans, 1989)
1989 年の最初の出版から、約 10 年位までは、放物線方程式は多くの注目を集める
ことはなかった。
つい最近、著しく、取り上げられるようになった。
49.海岸工学における重要な問題(2010)
ヘッドランドベイビーチの工学的応用
50.静的平衡状態のヘッドランドベイビーチのための
ソフトウエア MEPBAY 及び SMC
51. MEPBAY
(ベイビーチの平衡平面図のためのモデル)は、以下のサイトからダウンロードで
きます。
52 MEPBAY の応用例、静的平衡状態の湾状海浜、Q~0
53 動的平衡あるいは不安定状態のベイビーチ
54.長い構造物の設置によって自然に形状回復
55.海岸モデルシステム
(SMC)
56.海岸モデルシステム
波、流れ、海浜過程
57.平衡状態の汀線(Hsu モデル)
58.海岸管理に対する地形学的アプローチ
4.1 ベイビーチの安定性検証
4.2 港の下手への侵食伝播の緩和
4.3 ヘッドランド制御:沿岸保全
4.4 レクレーション用海浜の設計
4.5 海岸管理及び EIA
4.6 海浜復元のケーススタディ
59.4.1 現存するベイビーチに対する安定性検証
MEPBAY に PBSE を適用して安定な湾をスケッチする際の仮定:
直線的な下手への伝播箇所上の適切な位置における接線は、平衡状態にある上手側の
回折位置において、局所的な入射波が直交する方向に仮定される。
同様な原理を静的、動的及び不安定条件に対しても適用する。
実験結果に基づく:下手側における接線は、ずっと以前から静的平衡へと近づいてい
て、ほとんど不変的な状態にある。
60.沖の島影に形成される湾状海浜
61.港の防波堤の下手側に形成される湾状海浜
62.アカプルコ、メキシコ
63.江の島、日本
64.青島第三海水浴場、中囯
65.豊崎・沖縄
66.安座間・沖縄
67.喜瀬・ブセナ 沖縄
68.港の下手への侵食伝播の緩和 スペインの例
69.港の建設の影響
ある海岸における初期の防波堤
そこでは自然のセルターが無いようなところで適用できる;
すなわち、沿岸漂砂を遮断―>下手への侵食伝播
防波堤のさらなる延長
沿岸漂砂の減少
防波堤の影になる部分で堆積、下手側の海岸で侵食を引き起こす
海岸地形学は、いわゆる防波堤の影の部分によく形成される湾形状の検証や、静的あ
るいは動的平衡状態のいずれかにあったと想定される場合には適用されていない。
70.沿岸漂砂を阻害している防波堤
日本では、港湾建設や浚渫メンテナンスが海浜侵食の2大要因といえる。
赤羽根漁港
湾形状が下手へ伝播、さらに下手には海岸堤防や突堤が見える。
71.もっと下手側で問題が生じる
大野―鹿島海岸間における海浜侵食、なぜだろうか?
72.国頭漁港漂砂の対策、沖縄
73.北海道日高海岸における港群
74.浦河、日高海岸
75.門別、日高海岸
76.底質の出入のバランスと量によって決定されるベイビーチの安定性
動的平衡、底質の供給におけるバランスによる
不安定、もし供給が減少したのなら、あるいは
静的平衡、供給が減少したあるいはカットされた場合
海浜安定は、人工ヘッドランド(防波堤、壁整形など)の設置によって、静的にある
いは動的平衡に切り替えることができる。
この概念は、以下の実務へ非常に有効である。
新しい構造物の設置や延長
侵食条件下で湾状海浜の安定化
77.大洗港と下手側の海浜、 海浜侵食は以後も継続されるか?
78.海浜安定性の置き換え可能性
導流堤の建設の影響
79.韓国の東海岸における湾状海浜
湾状海浜の 50 か所を調べた
80.静的あるいは動的平衡に近づいている
81.不安定あるいは自然的に再形成
82.短い防波堤の設置が引き起こす自然的な再形成
83.防波堤を延長すべきか?
84.ヘッドランド制御:米囯 San Diego の Coronado 湾の沿岸保全
85.動的を静的にするために防波堤先端を変更した例
86.イギリスにおける例、MEPBAY を用いた静的湾形状の検証
87.タイの Rayong 海岸に MEPBAY を適用し、静的な湾状海浜を検証した
88.レクリエーション活動目的の海浜の設計
89.ドバイの例
90.インドネシアの例
91.T 型ヘッドランドと潜堤?間の湾状海浜、白浜、和歌山県
92.白浜、和歌山県
93.シンガポールの例、シルベスターとシューによる、1990 年代建設、2007 年代建設
94.以前はさびれた漁村であった、1980 年代建設の後は人気のリゾート観光地、スペイ
ン、ヘッドランド群:突堤との組合せ
95.海岸管理と EIA
海浜が縁どる地区
静的湾形状のためのツール
1.放物線湾形状方程式(シューとエバンズ、1989)
2.MEPBAY ソフトウエア(クライン他、2003)
どこが厳しい侵食箇所となっているかを調べたり、侵食の緩和及び保全したりするた
めに
96.南アフリカのケープタウン港 どこから侵食は始ったか?
たぶん侵食はここから始まっただろう。
97.海浜復元のケーススタディ
沿岸漂砂の減少の条件を見てみよう。
人工ヘッドランドの先端の正しい位置
幅広いヘッドランドを用いる
暴風緩衝として初期の海浜養浜の手を借りる
湾全体の汀線に波が直角に入射するようにそれぞれを方向づける
実施している維持の自衛あるいは最小化
98.海浜の保全と復元に関する計画段階での問題
制御のための予算は?
直線あるいは湾状海浜?
人工的な養浜とするか?
人工ヘッドランドのタイプや配置
安定な人工湾状海浜の例は?
どのような設計ツールが適用できるか(公式、ソフトウエア)?
99.海浜の復元:台湾に高雄西子湾海岸おける最初の海浜養浜プロジェクト(2002~2005)
100.海浜の復元
101.湾状海浜の安定性の検証
102.計画:選択肢
103.西子湾海岸海浜の復元(2006~2008)
104.2003 年から Hsu とコンサルタンツとが共同で行っている
105.おわりに
106.5.1 湾形状の平衡概念の以下に対する適用は単純である
湾状海浜の安定性検証へ
侵食海浜の保全へ
レクレーション活動海浜の設計へ
海岸計画へ
5.2 海浜の安定性の検証
防波堤やその他の構造物の建設の前後において、
その先端の最適形状や場所の決定に、
下手への侵食伝播の最小化へ
107.5.3 湾状海浜が動的平衡の場合
潜在的に不安定な海浜を静的平衡へ変えるための新設構造物の最適形状を決定す
るために、
後に建設されるべき安価な効果的対策の必要性の手助けとして
5.4
湾状海浜は静的平衡状態でなければならない
海浜は、大型開発のいかなる提案に対しても、あるいは永久に続く海浜侵食の脅
威からも保全されなければならない。
108.ご清聴ありがとうございました。
ヘッドランドベイビーチや海岸管理と保全、レクレーション向けの湾状海浜の設計
などのための安定湾状海浜の概念を紹介させて頂いたことに、感謝いたします。
地域のために、安定湾状海浜を作りましょう。
またどこかでお会いいたしましょう。