関越トンネル散水融雪用加熱機の更新について 中島 嘉彦 *1、星 芳幸

関越トンネル散水融雪用加熱機の更新について
中島
1.はじめに
関越トンネルは、関越自動車道
嘉彦*1、星
芳幸*2
水上IC~湯沢IC間の
群馬県と新潟県の県境にあり、標高650mに位置し、有数
の豪雪地帯にある(図 1)。トンネル延長が約11kmにおよ
ぶため、金属チェーン装着車両は群馬県側のトンネル坑
口に位置する谷川岳PAと新潟県側の土樽PAにおいて、金
属チェーンの脱着を促している。
このため、両PAからトンネル坑口までの間は、散水融
雪設備を配備し、無雪路面にする必要がある。
その散水融雪設備の融雪方式は、加熱循環散水方式を
図2加熱循環散水方式のシステム図
加熱方式は、融雪水をバーナーの火炎で直接温めるも
採用しており、設備構成は融雪した散水を集め、ゴミ等
のであり(図 3)熱効率 90%と高いが、老朽化とともに
を除去する設備と回収した水を暖めて再び散水する設備
次のような問題が生じた。また、設備の制御項目と故障
(以下「加熱基地」という)とで構成される。
および機器の動作状況の監視情報量に若干不足があっ
平成23年から平成25年にかけて、融雪用の加熱基地3
箇所の全面更新を実施した。工事にあたっては、より効
率的な運用と保守性の向上を目指した。
た。
① 凍結防止剤を含んだ回収水により、金属製の加熱機
の燃焼室本体が腐食し、冷却水漏れが発生(写真 1
更新工事の概要と運用後の評価について報告するも
のである。
右上)
② 加熱機の排気ガスが加熱水内に混入し、貯水槽を経
由し、機械室への漏えい
③ 燃焼室内の耐火レンガのクラックおよび剥落(写真
1 右下)
図1関越トンネル位置図
2.従来の設備
土樽 PA および谷川岳 PA 散水融雪設備は、散水面積が
図3更新前の加熱機概略
大きいため、トンネル湧水だけでは必要な散水量を確保
することができないため、加熱循環散水方式を採用し融
雪を行っている。
加熱循環散水方式(図 2)とは、湧水量を基本とし不
足水量を一度散水した融雪水を回収して加熱を行い再度
散水する方式である。
写真1加熱機冷却水漏れ
*1 ㈱ネクスコ・エンジニアリング新潟
湯沢道路事務所
*2 東日本高速道路㈱
新潟支社
湯沢管理事務所
3.加熱方式の変更
今回採用した加熱方式は、燃焼加熱部と熱交換部が完
とした。
4.1.2
湧水優先制御方式の採用
全分離した形状である汎用の真空式温水器(以下、
「新加
前述のとおり、加熱循環散水方式ではトンネル湧水
熱機」という)
(図 4)である。炉内に一度散水して塩分
(12℃程度)を使用し、不足分を散水した融雪水を回収
を含んだ回収水を直接加熱するシステムを見直し、新加
して補う循環型システムである。
熱機内にトンネル湧水のみを給水して加熱を行い、水槽
トンネル湧水は、融雪した回収水に比べ水温が高く加
内で回収水と混合することにより適切な散水温を作るシ
熱しやすいため、トンネル湧水を最大限利用して回収水
ステム(図 5)を構築した。
の使用量を最少限とすることにより、新加熱機の運転台
数の抑制が可能と考えた。しかし、湧水は初冬期こそ概
ね10t/minであるが、厳冬期になると2~3t/min減水す
る。
そのため、湧水の送水量を一定に固定すると、厳冬期
に湧水貯水槽が空になり融雪設備が停止してしまう。シ
ステムはこれを加味して構築する必要があった。システ
ムの概略を図6に示す。
図4新加熱機概略図
図5新加熱循環散水方式のシステム図
これにより加熱機本体への塩分混入を回避できるた
め機器劣化の抑制が期待できる。
図6湧水優先制御システム図
このシステムは、湧水貯水槽から第1貯水槽への送水
量の基準を5t/minとし、水位が低下した時は湧水貯水槽
の水位1/2を維持するよう、湧水送水調整電動弁にて基準
4.効率的な運用の検討
加熱基地設備のランニングコストは、燃焼用燃料であ
水量の10%減、20%減と2段階で開度調整を行い送水する。
湧水送水量が減った分は、第2貯水槽の水位一定調整
る灯油消費量と補機類の動力等に用いる電気消費量およ
電動弁により回収水送水量で補い、散水に必要な水量を
び維持管理上の人的労力で構成される。
確保する。
これら多方面から効率的な運用の検討を行い、設備構
築を行った。
4.1
燃料消費量の削減
4.1.3
月別散水温度制御方式の採用
散水温度は、適切な融雪を行うため、路面の融雪状況
および回収水量に応じて適宜設定を変更する必要がある。
新加熱機は、更新前の加熱機より熱効率に劣る。その
従来は、保守者の定性的な判断によっていたが更新工
ため運用面の効率化を図ることにより、燃料消費量の削
事にあたり散水温度設定に必要な回収水ならびに散水温
減を目指した。
度の計測装置類を設置し、測定データの保存を可能とし
4.1.1
た。
加熱機の台数運転制御の採用
更新前の加熱機は、大出力の加熱機2台によるもので
この測定データを用い、過去の外気温、時間降雪量等
あったが、新加熱機は1台当りの最大出力2326kw(200万
のデータと共に、以下に示す東日本高速道路㈱の設計要
kcal/h)の機器を各加熱基地に3~5台を設置している。
領第7集機械施設・第4編・4-1散水量の算定式により、路
そこで、回収水や第2貯水槽の水温に応じて新加熱機
面に積雪が残らずかつ効率よく融雪水が循環する回収水
を必要台数のみ運転し(台数を抑制)効率な運転を可能
温度4℃になるように、各加熱基地の月別散水温度表(表
1)を作成した。
=
h ∙ ρ(334 + 2.1|t | + 4.2 ∙ t )
6 × 4.2 ∙ α ∙ κ(t − t − t )
4.2.2
回収水の水処理装置の仕様変更
回収水は、ゴミおよび土砂等の異物が混入してくるた
め、配管類や散水ノズル(径φ2.5~3.0)を詰まらせて
h : 時間降雪深〔cm/h〕
しまうため、それを取除き再度散水可能な水に処理する
t : 噴水するときの水温〔℃〕
し、さらに細かいものは水処理装置(以下、
「オートスト
α : 通行車両による攪拌効果係数
械的に取り除く機能が備わっているが、初冬期および厳
ρ : 降雪の密度〔g/㎤〕
必要がある。
t : 散水された水が側溝に流れ落ちるときの水温〔℃〕
レーナー」という)により除去処理を行っている。
t : 降雪の温度〔℃〕(絶対値とする)
κ : 融解係数(海岸・平野部:0.7、山間部:0.8)
(交通量 100 台/h、路面露出率 100%の値で 1.3 程度)
大きなゴミは自動スクリーン、土砂等は沈砂槽で除去
この処理部には、異物が付着すると逆洗装置により機
冬期に於いては、週末になると定期的に点検・清掃等を
t : 通行車両による水温低下〔℃〕
行う必要があり、負担が大きかった(写真 4・5)。さら
加熱機の運転台数の抑制を図った。
てでも、作業する必要が生じることもあり改善を要した。
この月別散水温度表を基に、適正な散水温度設定で新
に厳冬期等で1週間降雪が継続する時は、その作業を必要
とする頻度が高くなり、設備運用中に一時機能を停止し
表1月別散水温度表
4.2
4.2.1
人的労力の軽減
融雪監視システムの集約化
前述の散水温度および湧水送水量等の設定は、各加熱
基地に出向き、融雪監視操作盤で行っていたため、きめ
細やかな変更が困難であった。また、燃料の残量確認も
写真3ストレーナー目詰まり状況
現地で行う必要があった。
新システムは、管理事務所の雪氷対策室に融雪監視装
置を設け、3箇所の加熱基地の散水温度ならびに湧水送水
量の変更等現場で実施していた全ての操作を可能とした。
また、燃料の残量も確認可能とした(図7および写真2・3)。
図7融雪監視システムの集約化
写真4ストレーナー清掃状況
このような作業の負担軽減を図るため、オートストレ
ーナーの採用にあたっては、処理部に大きな異物のせん
断機能を持ち、逆洗効果が有効に機能する事を第一優先
とした(図 8)。
さらに、ストレーナーの孔の大きさ(孔径φ1.5)お
よび形状について、機器メーカーと共同で検証試験を行
写真2雪氷対策室融雪設備監視装置
い、土樽PA・谷川岳PAにおいて逆洗効果を最も発揮できる
ものとした(写真 5)。
グラフ2に示すとおり、平成24年度は約21.5万kwh、平
成25年度は約13.7万kwhの削減効果が確認できた。
燃料(灯油)消費量および電気消費量とも、熱効率に
劣る加熱機の採用を運用効率の改善により、補えたこと
を確認した。
5.2
人的労力の軽減
散水温度、湧水送水量等の設定を管理事務所の雪氷対
図8新オートストレーナーの構造
策室で行えるようになった事により、シーズン途中にお
いて加熱基地に行くことなく、予想外の降雪量に対応す
べく散水量、散水温度の設定変更および各機器の運転状
況、回収水温度の状況の確認ができた。
これは、数値的な評価が難しいものの運用コストの削
減にも効果を発揮しているものと自負している。
また、各加熱基地の地下燃料タンクの残油量の状況を
写真5水処理用ストレーナー(処理部)
確認することにより、燃料購入手配に於いても現場に行
くことなくスムーズに行うことができた。
5.効率的な運用の効果検証
5.1
燃料消費量の削減
効率的な運用効果の評価は、融雪設備の運転時間に燃
料および電気消費量が比例することから、従来方式と新
オートストレーナーの機能維持状況については、目詰
まりの予告警報の発生もなく、2シーズン終了している。
このことから逆洗が効率よく機能し(写真 5)手作業
での清掃がなくなり維持管理の負担が軽減された。
方式で2年間の比較を行い、燃料また電気消費量の削減効
果の継続性も含めて行った。
燃料消費量を平成24年度と平成25年度の運転時間に
乗じて比較するとグラフ1のとおりとなる。
写真6ストレーナーの逆洗効果
6.おわりに
今回の融雪用加熱機基地設備更新工事は、維持管理を
グラフ1燃料消費量
これにより、平成24年度は約320kL、平成25年度は約
220kLの削減効果が確認できた。
同様に電気消費量を平成24年度と平成25年度の運転
時間に乗じて比較するとグラフ2のとおりとなる。
グラフ2電気消費量
行った技術者の努力の結果を多く盛込むため、多種多様
な意見の中から、設備更新の仕様決定を行うことができ
た。
今後も、高速道路の設備をより良いものにするため一
層の努力を続けて行く。