フィードバックの種類が脳卒中後片麻痺患者の反復運動に与える影響

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)13 : 00∼13 : 50 第 13 会場
(5F 503)【口述 神経!脳損傷理学療法 8】
0928
フィードバックの種類が脳卒中後片麻痺患者の反復運動に与える影響
結果の知識とパフォーマンスの知識に着目して
山上 菜月1),大畑 光司1),北谷
永田 久実3),大迫小百合1),阿河
亮輔1,2),橋口
由巳1)
優1,2),佐久間
香1,2),本多
麗子3),
1)
京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻,2)日本学術振興会特別研究員,
京都大学医学部人間健康科学科
3)
key words 片麻痺・運動学習・荷重
【はじめに,目的】
脳卒中後片麻痺患者では,麻痺の影響や代償運動などにより発症前と異なる運動パターンで動作を行うことが知られており,運
動パターンを改善させることを目的として理学療法を行うことが多い。
上肢リーチの反復練習に関する先行研究では,与えるフィードバックの種類が運動学習に影響することが報告されている。その
研究では,到達点と目標物との誤差(Knowledge of result : KR)を教示することでリーチ動作は成功するようになるが,運動パ
ターンを変えるには動作中の動き方(Knowledge of performance : KP)を教示する必要があったことが示されている。このこと
から,フィードバックの種類により学習される運動パターンは異なると考えられる。運動パターンについては,上肢だけでなく,
下肢においても片麻痺患者に特徴的な歩容,立位や立ち上がり動作時の下肢荷重量の左右非対称性が報告されているが,異なる
種類のフィードバックが下肢の運動に与える影響は明らかとされていない。
したがって,本研究の目的は,下肢運動として臨床でよく用いられる麻痺側への荷重練習に対して KR,KP が与える影響の違い
を明らかにすることとした。
【方法】
対象は,地域在住で独歩可能な慢性期片麻痺患者 15 名(年齢 56.7±9.7 歳,男性 9 名,女性 6 名,発症年数 5.4±5.2 年,Brunnstrom StageIII∼VI,Barthel Index98.7±3.0 点)とした。
対象者に,フィードバック内容の異なる 2 種類の反復課題を無作為な順序で行わせた。両課題とも,麻痺側前型のステップ肢位
を開始姿勢として,麻痺側(前方)への最大荷重を 10 試行ずつ反復させた。ステップ肢位は両踵間距離 15cm,左右の踵足趾間
距離 0cm に規定した。開始,最大荷重位の姿勢は各 5 秒間保持するよう指示した。測定機器は,足圧分布計(Zebris 社製)と
電気角度計(Noraxon 社製)を用い,最大荷重位 5 秒間の麻痺側荷重割合(以下,荷重量)
,および麻痺側の股関節と膝関節の
角度を記録した。フィードバックを毎試行後に行い,KR 条件として荷重量を教示した場合と,KP 条件として股関節,膝関節の
角度 0̊ を最適な姿勢とみなして誤差を±5̊ 以内にするよう教示した場合の 2 条件でそれぞれ動作を反復させた。
荷重量,各関節角度誤差(以下,関節角度)は,各試行 5 秒間の平均値を算出し,1 試行目を学習前,8∼10 回試行の平均値を
学習後の値とした。また,それらの値から学習前後の変化率を求めた。統計解析には Wilcoxon 検定を用い,荷重量,股関節・
膝関節角度の学習前後の変化と,KR・KP 条件における変化率の違いを検討した。統計学的有意水準は 5% とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本学倫理委員会の承認を得て,各対象者に測定方法および本研究の目的を説明した後,書面にて同意を得て行われた。
【結果】
学習前後の変化として,荷重量は KR 条件で有意に増加した(前 60.1±10.1%,後 64.7±11.4%,p<0.05)が,KP 条件では有意
な変化は認められなかった
(前 60.7±10.8%,後 62.5±12.4%)
。関節角度は,KR 条件では股関節
(前 10.19±5.7̊,後 13.2±12.7̊)
,
膝関節(前 10.9±13.5̊,後 13.2±17.4̊)とも有意な変化はなく,KP 条件で股関節(前 13.1±7.3̊,後 6.0±4.8̊)
,膝関節(前 13.5±
15.6,後 3.2±2.4̊)とも有意に変化し,0̊ に近づいた(p<0.01)。
変化率について,荷重量は KP 条件と KR 条件で有意な差はなく,股・膝関節は KR 条件より KP 条件で 0̊ に近づく方向に有意
な変化を示した(p<0.05)
。
【考察】
片麻痺患者に立位荷重課題を反復させる際,荷重量をフィードバックすると運動パターンは有意な変化を示さずに,荷重量が増
加した。一方,課題中の運動パターンと目指すべき運動パターンとの誤差を教示すると,荷重量は変化しなかったが,運動が適
切なパターンに近づいた。このことから,片麻痺患者の下肢反復運動では,与えるフィードバックの種類によって特異的に運動
が変化すると考えられる。つまり,KR をフィードバックすると KR で示した結果のみが向上し,KP をフィードバックすると運
動パターンのみを向上させることが示された。慢性期であってもフィードバックにより運動を変化させることができ,その反復
練習には目的に応じたフィードバックを与えることが重要であると考えられる。
さらに,KR 条件で運動パターンが変化しなかったことから,KR のみを与えて運動を反復した場合には,不適切な運動パターン
で学習が進む可能性が考えられる。したがって,上肢の運動と同様,下肢の運動においても,反復練習では KP を与えて運動パ
ターンを変える必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,片麻痺患者の反復練習におけるフィードバック効果の違いを明らかにするものであり,動作練習方法を選ぶ一助にな
ると考えられる。