ライトコントロール法による繁殖牝馬の 排卵促進について 馬の季節繁殖性について 野生動物は、春から夏にかけて子供を産むように、 交尾の時期を調節。 北半球の正常雌ウマの繁殖シーズンは4-9月 (Hughes et al. 1975)。 競走馬生産の実質的な繁殖シーズンは、2月後半か ら7月上旬(馬本来が持つ生理的繁殖シーズンと隔 たりがある)。 視床下部 目からの刺激 GnRH 下垂体 エストラジオール プロジェステロン LH FSH (黄体形成ホルモン) (卵胞刺激ホルモン) インヒビン 卵巣 負のフィードバックによるホルモン調節 早生まれ子馬の利点、欠点 利点 •成長、市場価格の有利性 •消化管疾患(細菌性、ウイルス性)の発生が低い 欠点 •北海道の気候に不向き (放牧地、栄養の問題、厳冬期の分娩管理、 分娩後の寒冷ストレス) →今後の対策が必要 欧米では競走馬の早生まれ生産を目指している シーズン早期交配に関する 繁殖牝馬側の利点、欠点 利点 •人気種牡馬の選択、交配に有利 •交配可能予定回数の増加→受胎率の増加 欠点 •発情が弱く、発見が難しい •持続発情(だらブケ)が多い •人為的な処置が必要 →対策の必要性あり ライトコントロールに関する研究 • 長日処理(ライトコントロール)により繁殖シー ズンの初回排卵が早まる(Burkhardt 1947, 西川ら 1952)。 • 非妊娠馬に冬至点から14.5h:9.5hの割合で 100ルックスのライトコントロールを行うことが、 最も効率的な発情誘起法である(Nagy et al, 2000)。 ライトコントロールの様子 (5月下旬に相当) 100ワット裸電球 を馬房内に設置 明期14.5h、 暗期9.5h 24h 14.5h 9h 0h 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 100ワット白色電球 蛍光灯でも構いません タイマー 簡便で確実です 月別初回排卵の割合 % 100 LC群 ** 対照群 75 50 ** ** 4月 5月 25 0 1月 2月 3月 6月 ** P<0.01 サラブレッド種繁殖移行期における 血中プロジェステロン濃度の推移(代表例) 30 25 P (ng/ml) 20 15 10 5 0 1/5 1/19 2/2 2/16 ライトコントロール 3/1 3/15 3/29 4/12 4/26 5/10 5/24 • ライトコントロールの注意点 • 12月20日(冬至付近)から、昼14.5時間、夜9.5時間の環境 を作成。すなわち、北海道の一般的な飼養環境においては、 一例として朝5時半から朝7時30分頃まで点灯し、収牧後1 5時30分頃から夜20時まで点灯する。照明は60-100ワット の白色電球を馬房の中央天井付近に設置。蛍光灯でも問題 ない。点灯、消灯はタイマーで作動させ開始終了時間を正確 にする。 • 夜間はできるだけ暗くする。24時間照明しても逆効果となり、 一定時間の「夜」が必要である。 • 飼付けなどのために短時間、馬房や厩舎の電灯をつけるこ とには大きな問題はないが、馬房や厩舎の廊下に常時点灯 したり、馬房の窓から薄明かりが入ってくる環境が長期に渡 ると、効果が少なくなる。明るい時間と暗い時間をはっきり分 けることによって効果が高まる。 • ボディコンディショニングスコアーとして5.5以上に維持されて いることが望ましい。 • 早期に受胎したとしても、すぐにライトコントロールを中止せ ず、継続することにより黄体機能が賦活化されるため、妊娠 維持に効果がある。3月中旬~下旬まで継続すべきである。 厳冬期(1,2月)に分娩する繁殖牝馬の問題点 •低温(ストレス) •放牧地の凍結(運動の制限) •牧草摂取の不可(栄養状態低下) •昼間時間の短縮 分娩後の卵巣機能抑制 (約20%の馬に分娩後発 情での排卵が起こらない) 妊娠馬に対するライトコントロール法 • 方法については空胎馬と同様(14.5時間:9.5時 間) • 分娩前の開始時期については、 1. 分娩予定日が1月の場合(予定日の1.5ヶ月前から開 始) 2. 分娩予定日が2月または3月上旬の場合(予定日の 1ヶ月前から開始) 3. 分娩予定日が3月中旬以降(ライトコントロールを行な わない) • 分娩後1ヶ月(分娩後2回目の排卵確認)までライトコン トロールを継続する。 厳冬期(1,2月)分娩予定妊娠馬の ライトコントロールによる排卵促進効果 分娩後10日前後 (初回発情)での排卵 ライトコントロール群 (n=46) 97.8%(45/46) 無処置群 (n=9) 77.8%(7/9) 分娩後30日前後 (2回目発情)での排卵* 97.7%(42/43) 66.7%(6/9) *分娩後初回発情の交配で受胎したものを除く ライトコントロール(妊娠馬)まとめ 1,2月分娩馬の15%に卵巣静止や排卵遅延が認められる。 1,2月分娩 分娩約2ヶ月前から 空胎馬と同様に ライトコントロールする 初回排卵は順調に起こるが 排卵時期が早まる可能性あり 3月以降分娩 ライトコントロールしない (分娩後初回発情での 交配に有利) 結論 北海道地方のような寒冷地においても、 1)非妊娠(空胎)馬への冬至点からの昼14.5h、 夜9.5hのライトコントロール法は、シーズン初回排 卵を早めるために、 2)1,2月分娩予定妊娠馬への分娩1-1.5ヶ月前か らの昼14.5h、夜9.5hのライトコントロール法は、 分娩後初回発情および2回目の発情を順調に回帰 させるために、 低コストで簡便な繁殖管理法として有用である。
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