中国成都市南駅ターミナルにおける ランドスケープデザイン 〇楊 李 鶤* 魏 力* 北村 丹* 眞一** 1.デザインの経緯 成都市は、中国(中華人民共和国)の西南部の成都平 原に位置する四川省の省都であり、2011 年統計で人口は 約 1400 万人(都心地区内で約 700 万人)である。市街 地は約 25km×25km の円形で、環状・放射状の道路網で 構成されている。中国内の他の都市同様に、急激な経済 発展とともに自家用車の所有率が増大し道路交通の渋 滞が著しく、地下鉄の整備が進められている。 成都市南駅は、地下鉄 1 号線(赤のライン)と鉄道の 成都南駅との交差する位置にある(図 1) 。1984 年に新 図-2 南駅ターミナル配置図 駅舎が完成し、2010 年に地下鉄 1 号線が開通した。南駅 ターミナルは、南駅とバスターミナル(2011 年竣工・運 用)および商業、住宅、行政、業務(2013 年竣工・運用) を複合した再開発事業である。事業の中で敷地のガーデ ニングを担当し竣工したので、現況を報告するものであ る。1) 写真-1 完成予想図(全景) 3.設計のコンセプト 敷地全体の設計の条件として、行政の権威、住宅の快 適性、商業の賑わいと親しみ、ターミナルとしての交通 の利便性といった複合的な機能間の調和が必要である。 そこで、地上部のランドスケープデザインとしては、① 車とバスと歩行者の共生、②成都市のもう一つのランド 図-1 成都市と成都市南駅の位置 マークをめざす行政の建築にふさわしい水景の表現、③ 商業と行政の融合した賑わいの広場、④休息のできる住 2.設計の概要 宅とオフィスの庭をゾーニングによって配置した。 敷地は、周囲を車道で囲まれ、北側がバスの出入りす また、北京、成都、東京、釜山など諸都市の代表的植 るターミナルビルで、西側にショッピングセンターと高 栽空間とは異なる独自のパターンを工夫し、地域の気候 層の住宅棟、人民南路(高架)に面する東側に交通院の 風土の景観「川西林盤」 (後述)の導入を図った。 オフィスビルを配置している。地上部は、中心に広場を 4.竣工後の状況 設け、周囲の施設と歩行者空間で結んでいる。外周部に (1)車とバスと歩行者の共生 は敷地境界を適度に分け、快適に歩行者が回遊できる植 北側の敷地の境界部は歩道と低・高木植栽により、バ 栽空間を配置している。地下部は、地下鉄駅との連絡通 スセンターと商業・オフィスの境界部は低中高木の植栽 路および駐車場を設けている(図-2、写真-1) 。 で遮蔽し、空中回廊で結び機能間の調和を図る(写真- *西南交通大学 **山梨大学大学院 2)。西側境界部は、車交通を遮蔽し広場感のある休息 の場をつくり、照明の工夫で夜間も雰囲気が良く、安心 できる空間とした(写真-3,4)。 人工的な樹林を模した高さ約 30m のパラソルにより、 明るい天空をイメージさせ、広場には可動の高木を点在 させ、ベンチを置いて、快適性と賑わいのバランスを取 った空間としている。舗装パターンは、リズム感を持た せたストライプ模様を中心にすえている(写真-6) 。 写真-2 バスセンターと商業・オフィスの境界部 写真-6 写真-3 周辺道路と敷地境界部の遊歩道 中央の商業とオフィスの間の広場空間 (4)休息のできる住宅とオフィスの庭 オフィスで疲れたとき、商業での賑わいを離れて休み たいとき、および住宅の外で休息できる空間として、敷 地の西側と南側に遊歩道と植栽の混合した空間を配し た。敷地西南側は、開放的で敷地の東南側はやや囲まれ 感のある空間とした。コンセプトは、「川西林盤」とい う、四川省の西部地域の農村の屋敷林に囲まれた集落と 周辺に広がる農地のイメージとした。スタイルは、四川 地方の山川、行雲、林盤、丘陵を想起させる植栽のデザ インとした(写真-3,4,7) 。 写真-4 周辺道路と敷地境界部の遊歩道(夜間) (2)行政の建築にふさわしい水景 風水思想にもとづき交通院オフィスの前面には、噴水、 落水、水盤など多様な水の変化と現代性のある水景を配 し、建築周囲には高木で薄く囲った(写真-5)。 写真-7 休息できる遊歩道の空間 5.まとめ 上記のように、意図した設計コンセプトが実施設計お よび竣工により達成されたものと考える。 補注) 1) 設計段階までは下記において報告したので、竣工後の状況を ここでは報告している。楊鶤、李力、魏丹、劉志軍、下川敏雄、 大山勲、北村眞一(2012) 「中国成都市南駅ターミナル総合敷地 写真-5 多様な水の姿を味わえる水景 (3)商業と行政の融合した賑わい広場 HOPSCA ランドスケープデザイン」土木学会景観デザイン研究発 表会、ポスターセッション。
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