弔う空間としての火葬場 -斎場を考えるに当たり-

弔う空間としての火葬場
-斎場を考えるに当たり一般社団法人火葬研
代表理事
武田 至
火葬の定義

墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)
火葬とは
「死体を葬るためにこれを焼くことをいう」
➡火葬は遺体焼却ではなく葬送行為
火葬場とは
「火葬を行うために、火葬場として都道府県
知事の許可をうけた施設をいう」
➡火葬場は遺体焼却場ではなく葬送を行う場
建築基準法、都市計画法でも「火葬場」
火葬の風土







世界的にみてこれほど普及している国はない
奈良時代 仏教と共に移入
700年 僧侶道昭の火葬 持統天皇の火葬
近代 衛生的な観点から理にかなっている
現在 火葬率は99.9%
亡くなられた方のほとんどが火葬されている
日本の火葬は先進性と特異性を持つ
火葬率の高さと会葬者全員で行う「骨上げ」
死を具体的に確認する所作が行われている
火葬率の高さからみて日本の風土に適した葬法
火葬場の機能


遺体の火葬(遺体を焼いて骨を収め葬ること)
遺体の保管・葬儀・お清め
➡その地方での慣習や設置者の運営方針を尊重
する必要がある
使われ方からみた火葬場とは
 誰にでも避けることのできない死に関わり
「全ての人の生活に密着した施設」
 「告別行為」「見送り行為」「拾骨行為」を通じて
故人の「死を確認」し「死を受容」する場
 「直葬」の増加 ⇒ 葬儀が火葬場に集約され
葬送の場として増々重要な位置付けになる
火葬場の平面計画の傾向
分かりやすい動線を心がける
他の会葬者に気兼ねなくお別れを行える
平面構成
炉前ホールを分割し個別化を図る
直葬に対応可能な施設もみられる
地域に根差した火葬場
の計画例
近江八幡市 さざなみ浄苑
(滋賀県近江八幡市)
プロポーザル方式で設計者を選定
ワークショップ方式を取り入れ市民代
表の意見を聞きながら設計を進めた
近江八幡らしさを盛り込んだ
展示・思い出コーナーなど待合の工夫
テーマ
計
画
理
念
旧来の火葬場が持つマイナスイメージを払拭した清潔感ある施設と
し、厳かな儀式の場である火葬場の機能を基本とした、訪れる人の
心が癒される場でなければならない。
火葬場の機能を優先しつつ、地域住民や広く市民にも親しまれ活用
デザインにつ される場としての両立を考えたい。
いて
特定の宗教的要素を有しない施設でありながら、地域の持つ伝統的
な葬送習俗を尊重した計画が望ましい。
近江八幡の歴史を感じさせる素材を活かし、施設そのものの個性を
高めながら、地域の誇りとなる質の高いものを目指したい。
建設予定地が老人福祉施設、集落に近接することから、建築物の配
置、規模、遮蔽等を含め空間計画に十分配慮する必要がある。
平面計画につ 会葬者が利用しやすく、儀式性を損なわない動線計画が考慮されて
いることが必要である。
いて
機械設備の運転と火葬儀式の両立等、施設の管理運営が安全かつ容
易でなければならない。
周辺環境と調和した緑化計画とともに、環境保全に配慮し、自然エ
ネルギーの活用も検討したい。
環境保全への
公害防止対策が万全であることはもちろん、環境問題を考え、永く
配慮について 利用できる施設であると同時に、永く使うことにより価値が高まる
ような施設が望ましい。
コストバラン 建設費は可能な限り抑制しながら、維持管理が容易でランニングコ
ストを抑えた施設でなければならない。
スについて
三次市斎場「悠久の森」
(広島県三次市)
プロポーザル方式で設計者を選定
市民参加の委員会方式で設計を進めた
告別・炉前ホールと待合室を一体化し
ユニット化
三次市から提示された基本理念
(1)人生の終焉、最後の別れにふさわしい風格と品位
を持ち合わせ、凛とした中にも暖かさ、安らぎのある
斎場
(2)故人を心ゆくまで偲び、悲しみを乗り越え、あらた
めて、人生を踏みしめていこうとする優しい勇気と慈
しみを与えてくれる斎場
(3)四季豊かな自然と調和し、三次らしい原風景の中
で、命の循環を感じることができる斎場
(4)誰をも優しく迎え入れ、いろいろな想いを受け止め、
ゆったりと安心して利用できる斎場
音更町火葬場
(北海道音更町)
プロポーザル方式で設計者を選定
音更町火葬場を音更らしい町民の方々
に理解され愛される施設にしたい
勉強会とワークショップを実施
参加者全員で考える
◇森の中の火葬場(ランドスケープデザイン)
敷地には樹齢50年のカシワの木が点在している。これらの木々を
活かした配置及び平面を計画した。
2つの炉前ホールに隣接する中庭では木々の紅葉や雪景色など、
春夏秋冬その時々の体験と記憶をつくり出す。
◇個別化された火葬場
告別・見送り・収骨の一連の葬送行為を全て同じ炉前ホールで行
い個別化・専有化を計ることで他の会葬者を気にせず故人と静か
なお別れが可能となった。
◇光と影のデザイン
火葬場という用途であることから、華美なデザインを避け、シンプ
ルなものとした。施設に入ると壁に一定間隔で空いたスリットから
漏れる柔らかい光が会葬者を迎える等、光と影による空間づくりを
試みた。
三豊市南部火葬場
やすらぎ苑
(香川県三豊市)
プロポーザル方式で設計者を選定
建物各室から黒田池を望む
三豊市火葬場整備にあたっての基本方針
1 経済性を考慮した合理的な火葬場
2 良質なサービスを提供する緑豊かな火葬場
3 清潔感のある美しく、使いやすい火葬場
4 省エネルギー対策など、環境に配慮した火葬場
設計に対する考え方
1 死と向き合う聖なる場
過剰なデザインを避け、エイジングにより美しさが増す建築デザイン
2 故人を偲び、心ゆくまでの見送りができる場
独立した玄関、告別・拾骨ホールと待合のユニット化
3 ふるさとの風景の中で送る
黒田池の情景、内外空間の一体化
4 送る側の人のための施設として
葬礼の儀式の変化に柔軟に対応できる空間計画
北信斎場たびだちの森
(長野県中野市)
プロポーザル方式で設計者を選定
敷地の高低差を利用した配置計画とし
建物の高さを抑えた
各室から北信濃の風景が広がる
~忘れがたき~ ふるさと瞑想の杜
哀悼の心を優しく包み込み故人が生まれ育ったふるさ
とに帰る時を抱かせ厳粛な中にも遺族の心情に寄り添
い落ち着いた時間と空間を創る木々に囲まれた、この
地らしい瞑想の杜
高社山や、志賀高原を望める穏やかな地傾斜が千曲
川へとつながる里山の風景
このふるさとの自然の中で、故人を悼み、遺族を弔い、
冥福を祈る神聖な儀式の場として「郷土の風景の中で
見送る、自然に還す」という葬送の本質に立ち返り、静
かで精神性の高い「葬送の場」を目指す
世界遺産となった火葬場
スウェーデン・ストックホルム
森の火葬場
火葬場を考えるにあたって
火葬場は利用者の声がなかなか反映
されにくい公益施設
デリケートに設計しなければならない建築空間
 人の死は遺された人々の深い悲しみとなる
 心の整理がつかないまま葬儀に臨む
 火葬はやり直しのきかない行為
 流れ作業的でお別れも儘ならない火葬場も実在
 満足ができないお別れに不満が募る


施設評価を火葬場で直接尋ねることができない
繰り返して使うことが少なく意見が出にくい
火葬場は誰にでも避けることのできな
い死に関わり全ての人の生活に密着し
た施設である
 「告別行為」「見送り行為」「拾骨行
為」を通じて故人の死を確認し死を受
け入れる場である

人生最後のお別れの場として
火葬場をどのように考えるか