中央駅再開発にストップ! ~ドイツ・シュテゥットガルト~ 8月末からシュテゥットガルトが緊迫してい る。中央駅再開発の反対運動が高まりデモ排除 のため警官隊が出動したが、多数の負傷者を出 すまでに事態がエスカレートし工事は中断。一 般市民によるこれほどの直接行動は近年極めて 珍しく、全国の注目を集めることとなった。 バーデン・ビュルテンベルク州の州都シュ テゥットガルトはドイツ南西部に位置する人口 60万の中核都市。州内交通の要所であるだけで なく西のフランスと東のオーストリアを繋ぐ交 通の結節点でもある。長年の懸案であり問題の 背景となっているのが鉄道の高速化だ。 中央駅はいわゆる「終着型の駅」で、入線し た列車は進行方向を変え、これまでの後尾を先 頭にして駅を出てゆく。ヨーロッパにはよくあ るタイプだが、「通過型の駅」に比べ発着に要 する時間がどうしても長くなってしまう。発着 を効率化するため地下に通過型の駅を造り、地 上の線路跡地を再開発しようというのがプロ ジェクト「シュテゥットガルト21」の骨子であ る。 争点をまとめると次のようになる。 ひとつは50億ユーロを超える巨額の建設費。 これは国・州・市・ドイツ鉄道が分担すること になるが、いずれにしても最終的に負担するの は国民。建設コストは「諸々の理由により」途 中から上昇するのが常だし、果たして巨費に見 合う効果があるのかどうか。 二つ目の争点は文化財として保護されている 駅舎(1922年建設)を一部取り壊すこと。加え て、隣接する公園に立つ樹齢200年の木々を切 り倒すことに対するアレルギー反応。事業者側 が市民感情と環境団体の反応を読み違えたた め、急に沸き起こった反対活動に適切な対応を とることができなかった。催涙ガスや放水でデ モを強制排除し、警棒で無防備な市民を殴打す る様子は平和に慣れたドイツ国民に強い衝撃を 与え、ネガティブな印象だけを残している。 掲載の写真を撮ったのは10月半ばのこと。道 行く人が見入っているのは工事区画を囲う柵に びっしり張られた抗議分や写真の数々。プロ ジェクトの様子を見に父親と来ていた10歳くら いの男の子に話を聞いたところ「詳しいことは 分らないけど催涙スプレーを使ったり放水した のはやりすぎだと思う」 。警備当局の初期対応 は小学生にも看破されるほど稚拙で粗野だっ た。 最後の争点は市民参加の有無。大規模再開発 となれば市民の意見を十分吸い上げることが常 識となっている昨今、なぜ民意を問わなかった のか? 遡るとプロジェクトの立案は1980年代から始 まり少なくとも制度上は市民参加を経ている が、ここであえてもう一度民意を問うべきで あった。今の混乱は事業者側が民主的プロセス を意図的に省略した不手際のツケに他ならな い。現在は事業者側と反対派の双方から信頼さ れる仲介者が立ち断続的に話し合いを続けてい るが、議会側は住民投票の実施に否定的だ。 「民主主義の権利を行使するのは4年に1度 の選挙時だけ。その後の4年間はすべての決定 権を首長と議会が握る」というシステムに市民 が満足していたのは過去の話。議会制民主主義 を否定するわけではないが、巨大プロジェクト に関して市民が求めているのはもっとタイム リーで直接的な関与だ。ドイツでも民主主義は 生き物のごとくダイナミックに動いている。 (在独ジャーナリスト 松田 雅央) 再開発プロジェクト「シュテゥットガルト21」 の始まったシュテゥットガルト中央駅 日経研月報 2010.12 1
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