広葉樹林間伐試験地の効果調査

広葉樹林間伐試験地の効果調査
林業研究部 佐野俊和・亀井幹夫
目的
1989年に,枯渇する広葉樹大径材の確
保やシイタケ原木としては利用径級を過ぎ
た広葉樹林の用材生産林への移行のために,
間伐による直径成長促進を目的とした試験
地を広島県三次市布野町横谷の横谷県営林
に設定。
横谷県営林
三次市
広島市
22年が経過した2012年春に毎木調査
を行って,間伐の効果を検証した。
試験区
林分状況:
間伐前(1988年)は38~40
年生
ミズナラ,コナラ,イヌブナ,
ブナ,アカシデ,クリが主な構
成樹種
間伐方法:
当時の先行例(岐阜県)を参考
にして,残存本数を基準に間伐
区を5区と対照区1区を設定。
大きさは各区20m×20m。
胸高直径の大きい順に並べる
直径成長の促進効果は?
天然生の広葉樹林は多様な樹種,林齢の個体
で構成されるため,本数密度が同じでも平均直
径が異なる場合が多い。
そのため,直径成長を比較する方法として
Y-N曲線を利用する。
右表のように胸高直径の大きい順に並べて,
本数と単木材積を1本ずつ積算した値をそれぞ
れX軸,Y軸に割り当てて点を打ってゆく。こ
れらをつなげたものがY-N曲線。
胸高
直径
35.5
33.9
31.4
30.9
30.6
28.3
27.5
25.6
24.3
21.6
19.7
18.7
積算本 積算材積/
単木 数/ha
ha
材積 (N) (Y)
0.62
25 15.52
0.68
50 32.57
0.57
75 46.92
0.58 100 61.50
0.47 125 73.20
0.47 150 84.85
0.40 175 94.85
0.36 200 103.92
0.36 225 113.02
0.24 250 119.10
0.22 275 124.67
0.15 300 128.51
本数間
伐率
材積間
伐率
300本/ha区
88%
69%
375本/ha区
86%
64%
525本/ha区
82%
69%
675本/ha区
81%
63%
875本/ha区
65%
38%
対照区(2,725
本/ha)
調査対象は胸高直径5㎝以上
Y-N曲線の左側は大径木,右側は
小径木の割合を表す。
右図の例は、間伐によって大径木
の成長が促進されて,大径木の材積
割合が無間伐の場合よりも大きくな
ったもの。Y-N曲線の左側(大径木
側)のY軸の値が無間伐よりも大き
い。
菊沢(1986)から引用
左図の375本区は,間伐の4年後の1993年時
点では対照区とほとんど差はなかったが,22年後
の2012年には,対照区よりも大径木(Y-N曲線
の左側)の材積が大きくなっていて,直径成長の
促進効果が認められた。
同様に効果が認められたのは,525本区,675
本区で,効果が認められなかったのは875本区で
あった。300本区は上層木の枯死があったため,
効果は不明瞭であった。
材質に影響を与える後生枝の発生は?
5個体以上ある樹種の後生枝発生状況
全体の発生状況
発生率(%)
樹種 1993年 2012年
コ ナ ラ 77
67
ミ ズ ナ ラ 74
76
イ ヌ ブ ナ 64
64
ク リ 55
67
ブ ナ 50
50
ア カ シ デ 40
60
コシアブラ 0
0
発生率が高かったイヌブ
ナは,樹冠に加えて後生
枝が枝に発達したものと
根元付近からの萌芽枝の
3層構造になり,用材利
用には適さない樹幹形に
なるものが多かった。
多量に発生しているもの
(区分4,6)
発生率(%)
樹種 1993年 2012年
コナラ 8
17
ミ ズ ナ ラ 24
18
イ ヌ ブ ナ 36
45
ク リ 18
11
ブ ナ 13
13
アカシデ 0
20
コシアブラ 0
0
ミズナラは間
伐後に後生枝が
発生した個体が
多く,中には大
量発生かつ大型
の枝に発達した
個体もあった。
しかし,22年
後には大型の後
生枝は枯れて発
生総数も減少。
ミズナラ