《研究成果発表》 イチジク株枯病の防除技術 果樹研究部 森 田 剛 成 イチジク株枯病は,一度発生すると土壌を汚染しながら次々 と樹を枯死させるため,イチジク生産者に最も恐れられている 病害である(図 1)。また,本病には治療方法が無いため,土 壌の汚染状況を早期に発見し,防除対策をとることが重要であ る。ここでは,現場で生産者が簡易に使用できる土壌汚染診断 方法と,診断結果に基づく汚染土壌の封じ込め防除法について 紹介する。 図 1 株枯病発生状況 1 開発した技術の概要 1)イチジクの枝を用いた株枯病汚染土壌の 簡易診断法 イチジク「蓬莱柿」の前年枝を採取して長さ 30cm 程度に切断し,調査する土壌へ約 25cm 挿し込む(図 2)。1~2 週間後に,これらの 枝を回収する。回収した枝を 1 本ずつビニール 袋に入れ,25℃前後の多湿条件に置く。約 10 日後に本病原菌に特徴的な子のう胞子殻(髪の 毛状の突起,図 2)が枝に生じるかどうかを調 査し,土壌の汚染状況を診断する。 2)障壁資材による汚染土壌 の封じ込め防除法 上記の簡易診断法により 土壌汚染が局所的であるこ とが分かった場合は,汚染範 囲を取り囲むように高さ 60cm の障壁資材を土壌に深 さ 50cm まで埋設し,感染の 拡大を防止する(図 3)。 図 2 土壌への枝の挿入と枝に発生した株枯病菌 汚染土を放置 周辺樹へ 周辺樹へ被害拡大 汚染土を障壁で 障壁で封鎖 60cm 周辺樹への 周辺樹への被害防止 への被害防止 障壁資材 図 3 障壁資材による局所的な汚染土壌の封じ込め防除法 2 今後の取り組み 既存の登録農薬が使用できない時期に処理ができる新しい殺菌剤が開発され,その実用性を確 認している(平成 25 年度に登録見込み)。土壌汚染が局所的である場合には,この薬剤と障壁資 材を併用することで,防除効果が高まる可能性があり,今後,併用効果を確認する必要がある。 一方,土壌汚染が広域に及ぶ場合は,抵抗性台木を用いた対策が必要になる。(独)農研機構・果 樹研究所との共同研究により当部はイチジクとイヌビワの交雑体の創出に成功している。この交 雑体は枝内部に直接本病原菌を接種しても枯れない強い抵抗性を持ち,イチジクとの接木親和性 があることを確認している。今後,この交雑体を利用して新たな抵抗性台木の実用化を目指す。 項 目 1.広島県イチジクの現状と株枯病の現地実態 イチジク株枯病の防除技術 2.イチジク株枯病の土壌汚染状況を簡易に 診断できる枝挿し法 広島県立総合技術研究所 農業技術センター果樹研究部 発表者名(○森田剛成・原 敬和・軸丸祥大) 3.診断結果に基づく適切な防除方法の選択 と実施 (新たな防除技術の実用化を目指した取組み) 1 2 広島県は イチジク‘ ‘蓬莱柿’ 蓬莱柿’の全国2位の産地! 糖度(度) 単価(円/㎏) 蓬莱柿 1.広島県イチジクの現状と株枯病の現地実態 蓬莱柿 17.2 641 桝井 ドーフィン 15.8 498 は糖度・ 単価が 高い! 年間労 労働時間 ★ 収益性が高い 働時間 当たり所得 ★ 2年目には結実・収入確保 (h/10a) (円/時間) ★ 手間な作業が少なく女性や 956 310 3,103 高齢者にも取り組みやすい 所得 (千円/10a) (広島県農業経営指標より 広島県農業経営指標より) より) 3 4 イチジクの安定生産を阻害する最大要因 株枯病(Ceratocystis fimbriata) 株枯病による廃園の状況 ・樹を短期間で枯死させる ・治療方法がなく感染樹は伐採 ・土壌病害のため汚染地に殺菌剤 を潅注しても高い確率で再発する 株枯病による枯死症状 ・安定した再生産は困難 5 6 特徴的な地際幹部の病斑 広島県のイチジク主産地と株枯病発生状況 被害発生園 県内全体で発生園面積は7.2ha(H18) 健全園 2. イチジク株枯病の土壌汚染状況を簡易に 診断できる枝挿し法 福山市 6ha 発生率 10% 10% 竹原市 2.2 2.2ha ha 発生率 50% 50% 倉橋・ 倉橋・江能 5.5ha 5.5ha 10% 発生率 10% 安浦町 1.7ha 1.7ha 発生率 100% 100% 尾道市 43.2 43.2ha ha 発生率 5% 7 8 好適温度の25℃前後で7~10日静置 既存方法を用いて 株枯病による土壌汚染状況を詳細に調査 ビニールで覆い多湿条件 土壌に枝を挿す 株枯病菌の検出 園名 土壌 深度 (cm) 本菌は肉眼で確認できる 子のう殻頚部:黒く髪の毛状で,長さ約2cmに達する 子のう胞子塊:黄色く直径0.5mm程度の球状 9 0 10~20 30~40 50 幹からの距離(cm) 200 150 100 50 0 50 100 150 200 r 株元 - - - 凡例 :菌検出 r :根あり - :調査不能 10 ① 対策方法 感染拡大を防止する汚染源封 汚染源封じ 汚染源封じ込め方法 3.診断結果に基づく 適切な防除方法の選択と実施 技術導入対象園 周辺樹へ 周辺樹へ被害拡大 株枯病初発局所的 株枯病初発局所的な 局所的な汚染土壌 ① 診断結果 汚染土を放置 園内の局所的 局所的な土壌汚染の場合 局所的 対策方法 感染拡大を防止する汚染源封 汚染源封じ 汚染源封じ込め方法 汚染土を障壁 障壁で 障壁で封鎖 11 周辺樹への 周辺樹への被害防止 への被害防止 12 抵抗性台木の利用による防除方法 3.診断結果に基づく適切な方法の選択と実施 他の研究機関が既存品種から選抜した抵抗性台木 ○ イスキア・ブラック (Ischia Black) ○ セレスト (Celeste) ② 診断結果 広範囲に汚染された土壌での再生産の場合 広範囲 問 題 点 対策方法 ・発病は遅いが感染する 殺菌剤・ 殺菌剤・抵抗性台を利用した防除方法 抵抗性台 ・完全な防除効果は無い 13 新たな防除技術の実用化を目指した取組み 14 産地を守り抜くために (独)農研機構・果樹研究所との共同研究 ○ 早期に農園の土壌汚染状態を把握 新規抵抗性( 新規抵抗性(枯れない) れない)台木の 台木の作出を 作出を目指し 目指し, 枝挿し法による簡易診断の実施 イヌビワとイチジクの種間交雑に挑戦 ○ 局所的な土壌汚染の場合 60cm 60 ○ 交雑個体の獲得に成功 障壁により感染拡大抑制 (薬師寺ら.H 17年 )! ○ 広範囲な土壌汚染の場合 ○ 交雑体30系統を保有 殺菌剤と抵抗性台木を利用 15 16
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