oonuma

大沼 直樹・渋谷 正人・矢島 崇・斉藤 秀之・高橋 邦秀(北大農)
はじめに
1954年15号台風(洞爺丸台風)により強い撹乱を受けた落葉広葉樹林において継続調査を行い、
撹乱後50年間の林分構造の推移、樹種別の個体群動態を明らかにした。
調査地と方法
調査地は北海道大学苫小牧研究林内に設置された2ヶ所の風害跡推移試験地(1号と2号、とも
に0.25ha)である。1号は風倒木を搬出し、2号は放置している。林床はササがなく広葉樹の更新が
良好である。表層土壌は浅く火山灰が堆積している。胸高直径5cm以上の個体の樹種、胸高直径、
樹高を測定した。
現在の試験地
結果
①林分概況
主要12樹種について個体数動態、胸高直径と樹高の頻度分布、
胸高直径の成長量を検討した。
①個体数動態
1号試験地
1958
1977
1984
1989
1994
2000
2004
492
1220
1488
1576
1612
1588
1480
86.9
69.8
73.2
90.7 115.8 138.1 161.3
11.4
13.9
15.4
17.7
20.8
23.8
25.5
13.8
10.3
10.0
10.5
11.2
12.0
12.9
11.8
7.8
8.4
9.0
9.8
10.3
11.1
0.177 0.057 0.049 0.058 0.072 0.087 0.109
14
21
22
22
24
23
20
上木個体数(/ha)
蓄積(㎥/ha)
胸高断面積合計(㎡/ha)
平均胸高直径(cm)
平均樹高(m)
平均材積(㎥)
樹種数
1号試験地(/0.25ha)
2号
50
100
50
0
10
20
樹高(m)
30
2
3
19
12
12
2004
11
1
4
13
2
11
4
4
54
3
4
53
5
3
55
1
3
53
35
2
77
18
0
95
25
1
119
14
4
129
3
8
124
12
0
1
11
1
0
12
0
1
11
11
1
10
28
27
4
2
29
3
3
29
4
25
3
22
2
20
2
16
3
13
5
14
4
10
4
44
1
34
**25
16
2
1
17
2
**
9
9
1
17
1
ミズナラ
14
24
43
13
4
52
1
19
27
8
5
30
10
11
11
1
1
11
6
1
11
54
17
13
2000 進界 枯死
16
**
2
1
2
**14
11
1994 進界 枯死
1
ミヤマザクラ
1958
1977 進界 枯死
*
*
9
*42
*17
19
コシアブラ
16
10
23
サワシバ
30
21
60
アオダモ
2
2
11
ホオノキ
2
0
20
40
胸高直径(cm)
1958 1977 1984 1989 1994 2000 2004
60
西暦
2004年
200
1号
2号
150
1号
2
2号
1.5
100
19
0
2
17
0
18
2
1
19
1
51
3
3
51
3
6
48
3
33
3
3
33
5
4
34
11
1
14
11
14
1
1
10
11
11
4
1984 進界 枯死
1989 進界 枯死
1994 進界 枯死
2
7
1
1
7
9
2
26
7
1
32
1
1
32
7
3
2
24
1
23
1
3
21
8
5
63
4
3
64
2
4
62
3
11
2
20
4
1
23
23
6
2
1
51
3
48
6
18
1
17
6
22
44
9
3
50
29
20
30
1
7
24
**16
**5
24
5
3
26
4
5
25
ミヤマザクラ
**
**
40
13
53
6
3
56
11
45
ミズナラ
23
4
54
14
1
67
9
1
75
2
73
1
アズキナシ
シナノキ
11
10
37
6
4
39
2
1
40
1
40
1
6
5
25
6
3
28
2
3
27
2
25
3
1
2000 進界 枯死
2004
7
1
1
7
1
32
1
1
32
2
19
1
3
17
65
4
2
67
29
2
2
29
7
41
2
39
4
14
2
12
2
20
4
16
12
33
9
24
11
63
7
56
1
40
3
38
4
21
2
19
1
②胸高直径頻度分布
直径が大きく一山型:ミズナラ・ヤマモミジ・コシアブラ・アサダ
直径が小さくL字型:アオダモ・サワシバ・アズキナシ・ホオノキ
③樹高頻度分布
上層で優占:ミズナラ・ヤマモミジ・アサダ・ホオノキ
上~中層を構成:イタヤカエデ・シナノキ・コシアブラ
中~下層を構成:ミヤマザクラ・エゾヤマザクラ
下層で優占:アオダモ・サワシバ・アズキナシ
1
0
0
ホオノキ
1954
1
50
50
44
1989 進界 枯死
1
2号
3
歪度
2号
本数(/0.25ha)
本数(/0.25ha)
150
23
2
10
**:エゾヤマザクラとミヤマザクラはともにサクラ類とされている。
250
1号
3
14
1号
4
2号
0
1977年
アオダモ
1984 進界 枯死
*:ヤマモミジとイタヤカエデの区別はされていない。
1号
100
60
200
7
イタヤカエデ
分布形は典型的なL字型が崩れてきていて、歪度は経年的に低下している。
250
49
エゾヤマザクラ
0
20
40
胸高直径(cm)
3
47
ヤマモミジ
2004年
150
0
0
14
12
アサダ
歪度
本数(/0.25ha)
本数(/0.25ha)
100
4
サワシバ
1
2号試験地(/0.25ha)
②胸高直径頻度分布、樹高頻度分布の推移
1号
2
アズキナシ
シナノキ
1989年以降個体数、樹種数が減少している。
150
8
エゾヤマザクラ
1958 1977 1984 1989 1994 2000 2004
上木個体数(/ha)
388 1748 1964 2020 1860 1620 1492
87.3 112.6 141.9 164.3
蓄積(㎥/ha)
29.8
53.8
67.1
18.3
24.0
胸高断面積合計(㎡/ha)
*26.7
5.0
12.5
15.0
21.4
26.1
9.0
平均胸高直径(cm)
10.3
8.7
9.8
10.9
12.3
13.4
平均樹高(m)
8.6
7.2
7.8
8.5
9.4
10.5
11.1
平均材積(㎥)
0.077 0.031 0.034 0.043 0.061 0.085 0.110
樹種数
15
13
24
25
25
24
20
18
*1954年の値は1958年の調査時に風倒木から推定されたものである。
1977年
15
10
アサダ
1954
*756
1977 進界 枯死
20
コシアブラ
2号試験地
200
1972
*
*35
イタヤカエデ
1994年以降個体数、樹種数が減少している。
200
1958
ヤマモミジ
0.5
0
0
10
20
30
-0.5
1958 1977 1984 1989 1994 2000 2004
樹高(m)
モード階級周りの集中性が高い分布から緩尖形へ変化している。
西暦
④直径成長量
上層木の平均直径成長量には種間差がある。
大きい樹種:ミズナラ・シナノキ・イタヤカエデ・ミヤマザクラ
小さい樹種:サワシバ・アオダモ・ヤマモミジ・アサダ・エゾヤマザクラ
・アズキナシ・ホオノキ
考察
(1)風害後35~40年で、個体数、樹種数が増加し、撹乱跡地に侵入した個体が疎開地
を修復していく過程から、進界数、個体数、樹種数が減少し平均サイズが増大する個
体間競争の過程への移行が見られる。
(2)撹乱後の回復は風害前の樹種(特に優占していた種)が中心であり、林分は風害
前の状態へと戻りつつある。胸高断面積合計は風害前の値に達するなど量的な回復
は進んでいるが、風害前と比べ樹種数が多く、平均サイズや平均材積は小さいなど質
的な回復にはまだ多くの時間を要すると考えられる。
(3)現在は個体間競争が激化している段階と考えられ、樹種毎の差異が顕著である。
今後は樹種間で優占種と衰退種へ分かれ、階層分化が進むと予想される(右表)。
主要樹種
ミズナラ
ヤマモミジ
ホオノキ
アサダ
シナノキ
イタヤカエデ
エゾヤマザクラ
コシアブラ
ミヤマザクラ
アオダモ
サワシバ
アズキナシ
現在の状態
上層個体が非常に多く直径成長量も大きい。
上層を構成するが直径成長量は小さく、アサ
ダは個体数が減少。
今後の動態予測
最優占種
引き続き上層を構成
個体数は比較的安定している。中~上層を構 上層で優占度増加
成し、直径成長量が大きい。
中~下層の構成種で1989年以降の個体数減
優占度は低下
少が顕著。上層木の成長量はミヤマザクラのみ
大きい。
中~下層で優占。進界数、枯死数共に多く、個
中下層を構成
体は一定数存在する。上層木の直径成長量は小
さい。