●小論文ブックポート 101 〈連載〉小論文ブックポート ● 小倉昌男・著 『小倉昌男 経営学』 101 40 著者はここに目をつけた。「ど んなものでもメリットだけのも 同社では現場で顧客に接するS D(セールスドライバー)がグ ループを作り、受け持ち地域で の作業マニュアル作成や契約す る取次店、新規荷主開拓も行う。 SDに求められるのは「お客さ んに好かれる寿司屋の職人」「サ ッカーチームの優秀なフォワー ド」という姿勢だと、著者。 当初は文句を言っていた古株 のSDたちも、配達でお客様か ら「ありがとう」とお礼を言わ れ、様子が変わったという。貨 物の配達でお礼など言われるこ とはないため、驚き、感激した の だ。 そ れ が 段 々、「 や る 気 」 に結びついていったという。 社員がやる気を出し、仕事を 自主的・自律的にやり、成果を 出すには、経営側との緊密な「コ ミ ュ ニ ケ ― シ ョ ン 」 が 不 可 欠。 その場が社長と各地方ブロック 支社長との月一回の経営会議だ。 そして「労働組合」との関係 である。著者らは経営難の時に 社 員 を 一 人 も 解 雇 し な か っ た。 ここで労使の信頼関係が生まれ、 労働条件の向上に労使が共同す るとともに、先のワーキンググ ル ー プ に 組 合 も 参 加 す る な ど、 経営への積極的な参画も図って きた。その結果、週休2日制な どの労働環境の改善が実現する 一方、現場の声から「年中無休 営業」など新たなサービスや商 品 も 生 み 出 さ れ た。「 会 社 と 労 働組合は一心同体で夫婦のよう なもの。それが経営の方向、戦 略において一致していることは、 市場主義経済の激しい競争の中 で大きな力を発揮する原動力と なる」との言葉は実感がこもる。 これらの底流にあるのは「企 業は社会的存在」との著者の思 想だ。「企業の存在意義は、地域 社会に対し有用な財やサービス を提供し、併せて住民を多数雇 用して生活の基盤を支えること に尽きる」。だからこそ「企業は 永 続 し な け れ ば な ら な い 」。 そ こには「倫理性に裏打ちされた 優れた社格が求められる」のだ。 これらは、近年の「利益至上 主義」経営とは一線を画す。ど んな経営哲学で活動し、従業員 をどう考えているか。本書を下 敷きに「会社を見る目」を養っ てほしい。 (評=福永文子) 平均、年2個は出すことをつか んだ。当時、郵便小包、国鉄小 荷 物 は 併 せ て 約 2 億 5 千 万 個。 一個あたりの配送料500円と 税) 日経 社(定価 本体1400円 + して1250億円規模の市場で 「十分食べていける」と著者。 問題は「個人の荷物の集荷方 法」だ。著者は「個人の宅配需 要をマスとして眺めれば、一定 量の荷物が一定方向に流れてい と 物 流 需 要 の 大 幅 な 伸 び か ら、 のはない。逆にデメリットだけ る の で は?」 と の 仮 説 を 立 て、 平成 年 月に大学を卒業し て就職した人の「産業別就職者 輸送事業者による熾烈な競争と の も の も な い 」。 会 社 相 手 だ と 「 取 次 店 の 設 置 」 を 思 い つ く。 数 の 比 率 」 を 見 る と、 「 公 務 」 なっていた。だがローカル路線 料金を値切られることもあるが、 全国規模の「配達ネットワーク」 は わ ず か、 1・2 %。 大 半 の 学 重 視 の 同 社 は 大 き く 出 遅 れ 、 多 主婦は運賃を値切らない。また については、旅客航空事業で使 生が民間企業に就職している 角化を図ったものの、昭和 年 会社は小切手で支払うのに対し、 われる「ハブ・アンド・スポー (学校基本調査) 。大学卒業後を 代中盤には大幅に業績悪化した。 主 婦 は 現 金 払 い。「 そ も そ も 路 ク・システム」を参考にした。 見通すには、企業活動への「イ 運送業には、「商業貨物」と、 線トラックは、不特定多数の荷 事 業 化 最 大 の 問 題 は「 採 算 メージ」が欠かせない。 「個人生活関連」の二つの輸送 主 を 対 象 と す る 公 益 事 業 」「 儲 性 」。 著 者 は「 ネ ッ ト ワ ー ク が 市場がある。後者はさらに引っ からないから止めてしまう、と でき、利用度が高まって収入が そこで今号では、小倉昌男著 『小倉昌男 経営学』(日経BP) 越しなどの「貸切輸送」と、個 いうのでは情けない。それをや 増 え れ ば、 損 益 分 岐 点 を 超 え、 を読む。著者は(株)ヤマト運 人の荷物を運ぶ「小口輸送」に るのが経営者の意地」と著者。 利益が出るはず」と考えた。宅 輸の元社長・会長である。 分かれる。当時小口輸送は郵便 配便の成否は「荷物の密度」だ。 同時期に吉野家がメニューを 局が独占。他社が未参入の理由 牛丼一本に絞ったことをヒント そこで主婦に宅配サービスを 起死回生の 一 手 と し て は、 「個人の生活に基づいて行 に、得意分野だった小荷物運送 い か に「 買 っ て い た だ く の か 」 われる小荷物の宅配は、需要が へ の 特 化 を 模 索 し 始 め る 。 が重要。旅行代理店の「パッケー 多くまったく偶発的でつかみづ ジツアー」が参考になった。 著者はまず個人宅配の「需要 らく、不安定」との推測からだ。 予測」を行った。東京・中野区 著者の宅配便構想に、当初は 中 央 1・2 丁 目 の 約 2 千 世 帯 を 役員全員が反対したものの、著 社員に回らせ、小荷物を各所帯 者が「宅急便開発要綱」で決意 BP 表 明 し た と こ ろ、 役 員 も 承 認。 サービスが先、利益は後 ワーキングチームが2か月間で 「 宅 急 便 商 品 化 計 画 」 を 策 定、 著者が常に念頭に置いたのは 昭和 年に営業開始となった。 「 サ ー ビ ス が 先、 利 益 は 後 」 と の合言葉である。サービスとコ 特 筆 す べ き は、 全 国 ネ ッ ト ストは、トレードオフ(二律背 ワーク構築の過程での運輸省と 反)関係にあるが、著者は敢え の「闘い」だ。平成元年までト ラック運送事業は 「道路運送法」 て「サービスの向上だけを考え て、実行を」と訴えた。 で規制されていて、事業者は国 その一つが「社員数の増員」。 に申請して認可される必要が 経 営 の 健 全 化 や リ ス ト ラ で は、 あった。ところが運輸省は既存 社員の削減が施策の中心になる。 業者の利権を守るために認可を だが、著者は「そのことに常に 拒 否。 「芯から腹が立った」と 著 者。 淡 々 と 申 請 を し て 4 年、 疑問を感じている」と指摘する。 同社は運輸大臣を相手取り「不 著者は人を雇うことの最大の メリットを「企業の生産性が高 作為の違法確認の訴え」を起こ まり、能力を発揮する」と考え し、4か月後に免許が付与され る。人件費の増加を嫌うあまり る。 「与えられた仕事に最善を 人が増えなければ、企業の活力 尽くすのが職業倫理。倫理観の は 失 わ れ る。「 企 業 が 社 会 的 な ひとかけらもない運輸省などな 存在として認められるのは、人 い方がいい」と著者は憤るので の働きがあるから」なのだ。 ある。 こうした理念の元、著者らは 「 全 員 経 営( 経 営 の 目 的 や 目 標 を明確にしたうえで、仕事のや り方を細かく規定せずに社員に 任せ、自分の仕事に責任を持っ て遂行してもらうこと)体制」 での人事・労務管理を打ち出す。 著者は経営者の必要条件を 「 論 理 的 に 考 え る 力 」 と 言 う。 経 営 と は「 論 理 の 積 み 重 ね 」 。 本書にはそれがよく現れている。 物流業は戦後、道路網の整備 3 2015 / 1 学研・進学情報 -20- -21- 2015 / 1 学研・進学情報 25 51
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