『小倉昌男 経営学』

●小論文ブックポート 101
〈連載〉小論文ブックポート
● 小倉昌男・著
『小倉昌男 経営学』
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著者はここに目をつけた。「ど
んなものでもメリットだけのも
同社では現場で顧客に接するS
D(セールスドライバー)がグ
ループを作り、受け持ち地域で
の作業マニュアル作成や契約す
る取次店、新規荷主開拓も行う。
SDに求められるのは「お客さ
んに好かれる寿司屋の職人」「サ ッカーチームの優秀なフォワー
ド」という姿勢だと、著者。
当初は文句を言っていた古株
のSDたちも、配達でお客様か
ら「ありがとう」とお礼を言わ
れ、様子が変わったという。貨
物の配達でお礼など言われるこ
とはないため、驚き、感激した
の だ。 そ れ が 段 々、「 や る 気 」
に結びついていったという。
社員がやる気を出し、仕事を
自主的・自律的にやり、成果を
出すには、経営側との緊密な「コ
ミ ュ ニ ケ ― シ ョ ン 」 が 不 可 欠。
その場が社長と各地方ブロック
支社長との月一回の経営会議だ。
そして「労働組合」との関係
である。著者らは経営難の時に
社 員 を 一 人 も 解 雇 し な か っ た。
ここで労使の信頼関係が生まれ、
労働条件の向上に労使が共同す
るとともに、先のワーキンググ
ル ー プ に 組 合 も 参 加 す る な ど、
経営への積極的な参画も図って
きた。その結果、週休2日制な
どの労働環境の改善が実現する
一方、現場の声から「年中無休
営業」など新たなサービスや商
品 も 生 み 出 さ れ た。「 会 社 と 労
働組合は一心同体で夫婦のよう
なもの。それが経営の方向、戦
略において一致していることは、
市場主義経済の激しい競争の中
で大きな力を発揮する原動力と
なる」との言葉は実感がこもる。
これらの底流にあるのは「企
業は社会的存在」との著者の思
想だ。「企業の存在意義は、地域
社会に対し有用な財やサービス
を提供し、併せて住民を多数雇
用して生活の基盤を支えること
に尽きる」。だからこそ「企業は
永 続 し な け れ ば な ら な い 」。 そ
こには「倫理性に裏打ちされた
優れた社格が求められる」のだ。
これらは、近年の「利益至上
主義」経営とは一線を画す。ど
んな経営哲学で活動し、従業員
をどう考えているか。本書を下
敷きに「会社を見る目」を養っ
てほしい。 (評=福永文子)
平均、年2個は出すことをつか
んだ。当時、郵便小包、国鉄小
荷 物 は 併 せ て 約 2 億 5 千 万 個。
一個あたりの配送料500円と
税)
日経 社(定価 本体1400円 +
して1250億円規模の市場で
「十分食べていける」と著者。
問題は「個人の荷物の集荷方
法」だ。著者は「個人の宅配需
要をマスとして眺めれば、一定
量の荷物が一定方向に流れてい
と 物 流 需 要 の 大 幅 な 伸 び か ら、 のはない。逆にデメリットだけ
る の で は?」 と の 仮 説 を 立 て、
平成 年 月に大学を卒業し
て就職した人の「産業別就職者
輸送事業者による熾烈な競争と
の も の も な い 」。 会 社 相 手 だ と 「 取 次 店 の 設 置 」 を 思 い つ く。
数 の 比 率 」 を 見 る と、
「 公 務 」 なっていた。だがローカル路線
料金を値切られることもあるが、 全国規模の「配達ネットワーク」
は わ ず か、 1・2 %。 大 半 の 学
重
視
の
同
社
は
大
き
く
出
遅
れ
、
多
主婦は運賃を値切らない。また
については、旅客航空事業で使
生が民間企業に就職している
角化を図ったものの、昭和 年
会社は小切手で支払うのに対し、 われる「ハブ・アンド・スポー
(学校基本調査)
。大学卒業後を
代中盤には大幅に業績悪化した。 主 婦 は 現 金 払 い。「 そ も そ も 路
ク・システム」を参考にした。
見通すには、企業活動への「イ
運送業には、「商業貨物」と、 線トラックは、不特定多数の荷
事 業 化 最 大 の 問 題 は「 採 算
メージ」が欠かせない。
「個人生活関連」の二つの輸送
主 を 対 象 と す る 公 益 事 業 」「 儲
性 」。 著 者 は「 ネ ッ ト ワ ー ク が
市場がある。後者はさらに引っ
からないから止めてしまう、と
でき、利用度が高まって収入が
そこで今号では、小倉昌男著
『小倉昌男 経営学』(日経BP) 越しなどの「貸切輸送」と、個
いうのでは情けない。それをや
増 え れ ば、 損 益 分 岐 点 を 超 え、
を読む。著者は(株)ヤマト運
人の荷物を運ぶ「小口輸送」に
るのが経営者の意地」と著者。
利益が出るはず」と考えた。宅
輸の元社長・会長である。
分かれる。当時小口輸送は郵便
配便の成否は「荷物の密度」だ。
同時期に吉野家がメニューを
局が独占。他社が未参入の理由
牛丼一本に絞ったことをヒント
そこで主婦に宅配サービスを
起死回生の 一 手 と し て
は、
「個人の生活に基づいて行
に、得意分野だった小荷物運送
い か に「 買 っ て い た だ く の か 」
われる小荷物の宅配は、需要が
へ
の
特
化
を
模
索
し
始
め
る
。
が重要。旅行代理店の「パッケー
多くまったく偶発的でつかみづ
ジツアー」が参考になった。
著者はまず個人宅配の「需要
らく、不安定」との推測からだ。 予測」を行った。東京・中野区
著者の宅配便構想に、当初は
中 央 1・2 丁 目 の 約 2 千 世 帯 を
役員全員が反対したものの、著
社員に回らせ、小荷物を各所帯
者が「宅急便開発要綱」で決意
BP
表 明 し た と こ ろ、 役 員 も 承 認。
サービスが先、利益は後
ワーキングチームが2か月間で
「 宅 急 便 商 品 化 計 画 」 を 策 定、 著者が常に念頭に置いたのは
昭和 年に営業開始となった。 「 サ ー ビ ス が 先、 利 益 は 後 」 と
の合言葉である。サービスとコ
特 筆 す べ き は、 全 国 ネ ッ ト
ストは、トレードオフ(二律背
ワーク構築の過程での運輸省と
反)関係にあるが、著者は敢え
の「闘い」だ。平成元年までト
ラック運送事業は
「道路運送法」 て「サービスの向上だけを考え
て、実行を」と訴えた。
で規制されていて、事業者は国
その一つが「社員数の増員」。
に申請して認可される必要が
経 営 の 健 全 化 や リ ス ト ラ で は、
あった。ところが運輸省は既存
社員の削減が施策の中心になる。
業者の利権を守るために認可を
だが、著者は「そのことに常に
拒 否。
「芯から腹が立った」と
著 者。 淡 々 と 申 請 を し て 4 年、 疑問を感じている」と指摘する。
同社は運輸大臣を相手取り「不
著者は人を雇うことの最大の
メリットを「企業の生産性が高
作為の違法確認の訴え」を起こ
まり、能力を発揮する」と考え
し、4か月後に免許が付与され
る。人件費の増加を嫌うあまり
る。
「与えられた仕事に最善を
人が増えなければ、企業の活力
尽くすのが職業倫理。倫理観の
は 失 わ れ る。「 企 業 が 社 会 的 な
ひとかけらもない運輸省などな
存在として認められるのは、人
い方がいい」と著者は憤るので
の働きがあるから」なのだ。
ある。
こうした理念の元、著者らは
「 全 員 経 営( 経 営 の 目 的 や 目 標
を明確にしたうえで、仕事のや
り方を細かく規定せずに社員に
任せ、自分の仕事に責任を持っ
て遂行してもらうこと)体制」
での人事・労務管理を打ち出す。
著者は経営者の必要条件を
「 論 理 的 に 考 え る 力 」 と 言 う。
経 営 と は「 論 理 の 積 み 重 ね 」
。
本書にはそれがよく現れている。
物流業は戦後、道路網の整備
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2015 / 1 学研・進学情報 -20-
-21- 2015 / 1 学研・進学情報
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