106 当会会員● 土肥 学生の時分は、友人らと安 酒の一升瓶を買い込み、「一 勇(65期) ●Isamu Dohi 『純米酒を極める』 ル、焼酎、ワインなどのほか のお酒へ消費者が流れ、日本 升(一生)の付き合い」と称 酒離れが進んでいると指摘す して飲み明かすなど、お酒は る。その上で、消費者目線で とにかく安く量さえ飲めれば 酒造りと向き合い、少しでも よいと考えていた。しかし、 蔵の酒造技術を向上させ、舌 事 務 所 入 所 後、 諸 先 輩 方 と の肥えた消費者を満足させる 良いお酒を飲むようになり、 お酒を造っていかなければ、 消費者の日本酒離れは止まら 「酒の違い」を分かるように ないとし、「消費者が一番偉 なりなさいと言われるように なった。そうした折、ロース クールの同期きっての「酒の 違いの分かる男」(学内の彼 上原 浩 著 光文社知恵の森文庫 734円 (税込) いのである」と本書を結ぶ。 これらは、隣接士業に囲ま れている我々弁護士にとって も、示唆に富む内容であるよ の本棚には、法律の基本書よ り広いスペースをとって、ミ きた著者が、日本酒離れが進 うに思う。 シュランガイド、ワインボト む昨今の状況を打開すべく、 また、本書では、「日本酒 ル、日本酒の一升瓶が並んで 圧倒的な知識量と経験をもっ の景品表示」という少し変わ いた。)から、日本酒はこれ て「純米酒」の魅力を説くと った法的問題にも触れられて で勉強するとよいと手渡され ともに、酒造りのあり方につ いる。例えば、日本酒の辛さ たのが本書である。 いて熱く語っていく。 の指標としてラベルに表示さ こうして手に取った本書で 著者は、品評会向けの華や れている日本酒度であるが、 あるが、読み進めていくと、 かな酒造り(審査員は一日で 著者曰く、日本酒度から辛さ 単純に発酵のメカニズムや製 様々な種類のお酒を飲む上、 を判定しても半分もあたらな 造手法など日本酒にまつわる 食事と一緒にお酒を飲むわけ いとのことである。個人的に 知識について書かれているだ でもないため、添加物を混ぜ は、掘り下げて調べてみると けの本ではなかった。 た濃厚で芳香の強いお酒が賞 面白い分野なのではないかと 著者は、大正14年生まれ。 に選ばれがちになる。多くの 思っている。 酒造技術指導者として数多く 消費者が求めるような、料理 その他にも、本書において の蔵元を指導した酒造技術の の邪魔をしない淡麗辛口のお は、良い酒販店・飲食店の見 第一人者であって、「酒造界 酒は選ばれにくい。)や広告 分け方、利き酒の仕方につい の生き字引」と言われた人物 のやり方にばかり熱心となっ ても解説がなされている。日 である。 て、酒造技術の向上という本 本酒を嗜む方であれば、一読 「酒は純米、燗ならなお良 業をおろそかにする蔵元が されると日本酒の楽しみ方が し」 。本書はこう切り出され 増 え て い る こ と を 憂 う。 そ 変わってくるはずである。 る。そして、酒造り一筋に生 して、その結果として、ビー NIBEN Frontier●2016年6月号 D12389_48-53.indd 53 53 16/05/10 15:07
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