数学の世界 C 講義メモ(4 月 30 日) 1. 前回の提出課題前回の提出課題の解説 ユークリッドの互除法の計算から M a + N b = d (d は最大公約数)を満たす M, N の作り方を解説 した.また命題 8 と関連して因数定理を利用した方程式の解き方についてコメントした.前回の講義メ モを参照すること. 2. 素数の規約性(定理 2)について p が素数であることの定義は ±1, ±p 以外に約数を持たないこと(もちろん約数を自然数の範囲で考 えて 1, p 以外といっても良い)である.一方これは定理 2 の主張が成り立つこと(既約性という)と同 値である.素数が既約性をもつことの証明を箇条書きしておく. (1) ab が p の倍数であるとする.そして a が p の倍数でないとする. (2) p は素数なので a と p は互いに素である. (3) 命題 4 より b は p の倍数である. (4) よって a と b がともに p の倍数でないことはあり得ない.少なくとも一方は p の倍数になる. この定理の逆,既約性を持てば素数になることは,その対偶,素数でなければ既約性を持たないという 形で証明される.今日の提出課題の問 5 だ. 3. 素因数分解の可能性・一意性 算術の基本定理と呼ばれるこの章でもっとも重要な定理だ.一段階ずつきちんと考えてみてほしい. このような理解は計算例を重ねるだけでは絶対にできない. (1) 2 から n − 1 までの自然数はすべてただ一通りに素因数分解できると仮定する. 高校の時の帰納法は n − 1 のときだけ仮定していたがこれでも問題ないことを理解してほしい. (2) n が素数の時は,2 から n − 1 までの約数を持たないので,n を 2 つ以上の素数の積として表すこ とはできない.よって n の素因数分解は n = n と表す以外にない. (3) n が素数でないとき,問 3 の結果により n は素因数を持つ.それを p とおく. (4) n = pm と表す時 2 ≦ m ≦ n/2 < n − 1 なので,帰納法の仮定により,m は素因数分解できる. それを次のようにおく. m = p1 p2 · · · pl (5) n = pm = pp1 p2 · · · pl より n は素因数分解できる.(可能性) (6) n = q1 q2 · · · qk を(別の)素因数分解とする. (7) n = q1 q2 · · · qk は素数 p の倍数なので,素数の規約性から qj たちの少なくとも 1 つは p の倍数で ある.必要なら素数の並べ方の順序を変えて q1 が p の倍数であるとしておく. (8) q1 も素数なので q1 = p である. (9) n = pm = pq2 · · · qk より m = q2 · · · qk を得るがこれは m の素因数分解である. (10) m の素因数分解は一通りなので,qj たちは pi たちを並べ替えたものになっている.よって n の 素因数分解 n = q1 q2 · · · qk は素因数分解 n = pp1 p2 · · · pl の順序を並べ替えたものになる. (11) よって素因数分解は素数の並べ方を除いてただ一通りである.(一意性) 4. 素因数分解の一意性の応用 命題 7 についてコメントしよう.仮定は ab が n 乗数であることと a と b が互いに素であることだ. 最初の仮定から ab = cn と表せるが,a, b, c をそれぞれ素因数分解して a = pk11 pk22 · · · pks s , b = q1l1 q2l2 · · · qtlt , c = r1m1 r2m2 · · · rumu とおけば ab = cn より pk11 pk22 · · · pks s q1l1 q2l2 · · · qtlt = r1nm1 r2nm2 · · · runmu を得るが,素因数分解の一意性から両辺の素因数分解は順序が異なるだけで同じである. さらに a と b が互いに素であることから pi たちと qj たちはすべて互いに異なっており,それぞれ どれかの rh と同じでなければならない.また両辺でのべきも等しいので ki , lj はすべて n の倍数で ある.ゆえに a, b は n 乗数である. やはり分かりづらいかもしれない.なお,この結果はピタゴラス数の決定と n = 4 の場合のフェル マーの最終定理の証明に利用される. 来週は発展話題を扱う.再来週に試験を行うが,試験はここまでの提出課題と,講義で扱ったいくつかの簡 単な証明を題材に出題する.講義メモを参考に復習しておいてほしい. 本日の課題 まだ提出された解答を見ていないのでコメントは別ファイルで作成する.ここでは解答例とそこに至る考え 方のみをまとめる. 問 5 定理 2 の逆についての問題だ.p = 14 の場合という指示があるが,これは一般論を考えるためのヒン トとして考えてもらった. 【解答例】 a = 2, b = 7 とすれば ab = 14 は p = 14 の倍数だが,a, b のどちらも 14 の倍数ではな い.よって定理 2 の主張は成り立たない.この理由は 14 が素数でないために二つの自明でない約数の 積に表わされることにある.だから一般的には次のように示す. n が素数でなければ自明でない約数(1. n 以外の約数)を持つ.その一つを a とおき n = ab と表す. a, b のどちらも n より小さい自然数なので n の倍数にはなれない.しかるにその積 ab は n なので n の倍数である.ゆえに素数でない数については定理 2 の主張は成り立たない. 問 6 基本的には前回の授業内容についての問題である. √ 3 16 は x3 − 16 = 0 の解なので,有理数になるのは整数の場合に限る.ところが √ 8 = 23 < 16 < 27 = 33 なので 2 < 3 16 < 3 であり,これは整数になりえない.よって有理数ではな √ 3 い.一方 27 = 3 なのでこれは有理数である. 【解答例】
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